逃げるが勝ち、ということも実際にある

『るろうに剣心』という、今や誰もが知る人気時代劇マンガ。

 その中で剣心は、「大勢の敵にひとりで勝つためには、どうすればいいか」と質問される。その時の剣心の意外な返答は、「まずは逃げるでござる」だった。



 たとえば、あなたを待ち伏せして数人の敵集団が目の前に現れたとする。

 その場であなたが剣を振るっても、まず負ける。一人に斬りかかっている間に、他の数人の同時攻撃に対処できず死ぬだけだ。

 仮面ライダーのように変身中は襲わないとか、一対一で戦っている間はおとなしく周りで構えていて、やられたら次のが行儀よく襲い掛かるとか、そういうジェントルマンなご都合主義対応はしてくれないから。

 だから、まずは敵集団が現れたら、逆方向に全速力で走って逃げる。

 そうすると当然、相手集団も「待て!」と追いかけてくる。

 しかし、相手集団の運動能力は全員が一律ではない。追いかけてくるスピードに、足の速い者そうでない者と、バラつきが出る。

 近くに、狭い路地などあったらなおよい。足の速い者から順に、あなたに到達する。あなたにある程度の腕前があれば、着いた順から一人ずつに対処できる。

 次が到着するまでに目の前の一人を倒せれば、一気に全員を相手せずに済むというわけだ。何となく、原理は理解できましたか?



 まことに、面白い話である。

 勝つために、その正反対である「逃げる」という行為が最初に必要なのだから!

 そこだけ切り取ったら、勝つ気がないかあきらめたか、という風に見える。

 でも、なぜそれが必要なのかが分かり、その後どういう展開になるのかが描けておれば、本人は逃げている最中でも「勝つ」気持ちでいるわけである。そして実際そうなるのである。



 我々の人生も、しかり。

 頑張っていても、自らに恥じない選択をしているつもりでも、人生においては時折、あなたの在り方の健全さに関係のないところで状況が悪化したり困難になったりすることがあるものだ。ちょうど突然、敵集団に待ち伏せされるようなことが起きる。でもあなたがあなたなりに本気まじで乗り越えたいなら、現実的方法で深刻に悩むことはない。

 大勢に勝つ、という大変な課題に挑むために、必要があってまずは「逃げる」というプロセスを経る必要があるように、皆さんも大きなことを成し遂げる過程の中で、最初は一見負けて逃げるかのような、劣勢で撤退するかのような状況を経験することがある。

 でも、それは長期的な展望ではあなたが最終的に勝つためである。

 一気に対処しようとすればあなたが潰れてしまうような重荷(課題)であっても、まずは逃げて距離を置いて、落ち着いてできるとっかかりから地道に対処するということができれば対処可能な道も生まれよう、というもの。



 この話を聞いてあなたがピンとくるなら、自分の状況と無縁ではないと直感するなら、あなたは顔を上げて堂々としてよい。今が他人にどう見えようとも。

 勝負は、これからが本番だということだ。

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