目先の得か、先まで後悔しない選択か
ちょっと昔に話題になったあるニュースがある。
この世界には色々な詐欺や盗難のバリエーションがある。その知恵と情熱を、いい方へ使えば……とため息の出るような「すごい手」もある。
買い物を終えたある女性が、車のトランクに荷物を積み、運転席に座りエンジンをかけた。
ふと、フロントガラスを見ると、ワイパーに1万円札が挟まっている。
思わず、車から出てそのお札を取ろうとしたその瞬間——
陰から飛び出てきた何者かが、運転席にへもぐりこみドアをロック。で、キーもついてエンジンもかかっているその車を、運転して走り去ってしまうという話。
もともとは海外発の盗難のケースだったのが、日本でも「輸入」されてしまった。
海外だと、100ドル札とかになるんかな? とにもかくにも、人間心理を巧みに利用した驚くべき手だ。だから、1万円札が車に挟まっていたら、ラッキーではなく不運なのだ。
だってその車は狙われている! ということなのだから。
ただこの方法の(人をだます側にとっての)欠点は、駐車場などで持ち主が車の前方から近付いてきたケースでは通用しないことである。
乗り込んでエンジンをかけさせてから気付かせるのが、命なのだ。その状態で外に出てもらわないと成功しない。前から近付いたら、先にお札に気付いてしまい、そのあとどうしようもない。
だから犯人も、何人か失敗することは覚悟の上だろう。だが何件かに1件でも、車の後ろから帰ってきてトランクばかり気にしている人がいたらいいのだ。たとえ何件かダメでも、1台でも取れたら元が取れその上利益も出るだろう。
他人の車など盗っても、登録制度がきちっとしているから足がつくんじゃ? と思っているなら甘い。取る側は、そんなこと百も承知。ちゃんと捌ける手段があるからこそ盗るんじゃないか! その辺りの安全にカネにできるルートでもなけりゃ、最初から手を染めたりしない。
もちろん、いちいち本物のお札など使うバカは少ない。ニセ札であることがほとんどだそうだ。
この事件は、ある人生訓を思い起こさせてくれる。
フロントガラスの1万円に目がくらむ、というのは言い換えたら「目先の利益に目を奪われる」 ということに相当する。先のことまで考慮できずに、単細胞的に行動を起こしてしまう。
筆者はかつて大学時代に、そういうことを実体験した。
出会いは、本当に親切にされたことだった。
ただでさえ友達のできにくい私が、高校から自分だけその大学に受かり、知り合いが誰もいない中で始まったキャンパスライフ。そんな私に声をかけてきたのが、あるサークルの先輩(実は新興宗教)だった。私は親切にされるまま通い続け、正体を明かされる頃にはすっかりその教えにハマっていた。
もちろん、その時は最も良い選択をしたと思った。天の導きだと思った。でも、4年という歳月は、次第に私に真実を突きつけるようになった。
ようやくその団体を離れた頃に気付いたのは、貴重な大学時代を全部その活動のために棒に振った、ということである。そのせいで留年もし、後輩のクラスに行き肩身が狭かった。
スピリチュアルをやっている皆さんは、いかがだろうか。
もちろん、私は全部が全部おかしいとは思わない。ただ、これだけ星の数ほどあると、半分以上は効果のない見かけ倒しだということは、たとえ嫌われても言っておこう。そのほうが、あなたのためである。本当なのは「その先生が成功したということだけ」なのだ。
もちろん、自動車盗難や詐欺のように、あなたを騙そうとか何かを奪ってやろう、と意図してあなたにアプローチすることはない。各々の指導者は、皆本気でよかれと思って活動しているはずである。ただ残念なことに、「本気」なのとその内容が的を射たものなのかということとは別。
これは、ある意味意図的詐欺よりも怖い。
意図的・犯罪的詐欺はこちらが注意深ければ、引っかからないで済むことが多い。
でも、本人が大真面目で、心から「人の幸せのために」というオーラ100%で罪悪感なくやっていたら、その波動 (放つ空気)に邪気のなさを感じたお客は「この人はヘンな人じゃない。本気で私のことを思っている」と信用してしまう。
悪気のない 「効果の薄いスピリチュアル」は、摘発されずにクレームも付けられずに延命する。客が大して変われなくても一定の満足度は与えられるので(指導者に大事にされるなど)息が長く続くことがある、という点で怖い。
今の世の中、うかうかしていたら騙される世の中である。
日本はまだマシだろうが、海外へ旅行に行ってごらんなさい。
ボッタクリあり。写真を撮ってあげようと近付いて来て、写真を売り付けるのあり。ひどい場合、カメラを渡して撮ってもらおうとしたら、そのままカメラを持ち逃げダッシュされたというひどい話もある。警察官のコスプレをした悪人が、免許証やパスポートを見せろと言ってくることもある。
もちろん、人を信じることができたらそれが一番いいわけで、まず人を泥棒と思うなんて寂しい話ではある。でも、そんなことを言ってられない世の中になった。
●信じられぬと嘆くよりも 人を信じて傷付くほうがいい。
「贈る言葉」という歌の歌詞にそうあるが、それはきれいごと。
または、身近なよく見知った人間関係の中でこそ生きてくる話。
知らない他人は、今の世の中簡単に信用しない方がいい。
スピスピしている人は、反発するだろう。
「こちからまず信じないのに、むこうがこちらを信じることはない。こちらからまず信じる姿勢を見せてこそ、世界も変わっていくのだ」と言うだろう。
よく言われる、『あなたが与えたものが返ってくる』論である。
うん、そう言うなら止めないから。10年ほどそうやって生きたあと、結果教えて。もしあなたが幸せだったら、私は土下座して謝ってもいい。
(そんなことしてくれても嬉しくない、と言うかもしれないが)
皆、何でもかんでも同一カテゴリーで考えすぎる。
ひとつ、何かの意識の在り方の理想(ここで言えば、人を最初から疑わず、まず信じるとか)を学んだら、バカのひとつ覚えみたいに「どんなときも」適用しようとする。はっきり言いまして「人を信頼する」というスピリチュアルな話と、現実世界でうまい話やよく分からない儲け話を「本当に大丈夫か?」と考えることとは全く別問題! ここで「ああ、人は信用するものだ! 疑うなんていけない」と考えるのはただのバカ。
信頼、というテーマの本質はそんなところにあるんじゃない。そんなことも分からないスピボンクラが、「人を信じよう」と頑張って実践して見事騙されるのだ。
宗教もスピリチュアルも、ほとんどのケースで向こうは悪気ないよ。
後ろめたさややましさがない分、波動とかオーラとかで見抜くのは難しい。
だって、キラキラしてるのは確かだから! だから、もうちょっと見る目を養ってほしいのだ。目先の慰めや、友達ができるとか付き合っていて楽しいとか、そんなことは目先のエサ。
その活動を長くやることで、どんな5年後、10年後が想像できる? その理論をこの先実践した結果、どんな自分になっているだろう?
そういうことも含め、少々「落ち着いて」考えたほうがいいんじゃないか。
賢者テラとしての活動がノリにのっていた時代に、私はある情報商材系の詐欺に遭いかけた。
アプローチしてきたのは、若くて美人な女性だったから、私も参った。つい話を聞いてしまい、契約一歩手前までいった。
でも、胸騒ぎがして色々な人に「こんなのやろうと思うんだけど……」と念のため相談した結果、絶対やめたほうがいいと言われた。話と違って大損を出し、首をくくった事例もあると知った。
私が契約一歩手前までいったのは、本当に相手が親身だと感じたからだ。
優しくされたら、ましてや自分の活動について深く賛同するし、この良さをもっと世間に広げるお手伝いをしたい、と潤んだ瞳で言われたら、誰も悪い気はしない。むしろ若くて美人な営業ウーマンに耐性がないと、変に誤解して舞い上がるだろう。
かつての新興宗教入信の体験で、懲りたはずだと思っていた。もう、甘い話や自分を不自然に好いてくる者には動かされない、と思っていた。
でも、人ってそれほど完璧でも頑丈でもないんやね。危なかった……
それだけ、「あなたは素敵だ」と言ってもらえたり、肯定してもらえることの需要はすさまじく、それにお金を払ってもいいと思えるほど、世界は愛に飢えている、ということかもしれない。
それを逆手に取って、弱みにつけこんで稼ごうとする輩も多いのだ。まだまだ、スピリチュアル的に全体としては発展途上な世界が、この地球なのだ。
今、あなたが信じている宗教、またはスピリチュアルの分野。
個人的に慕っている先生。お金を注ぎ込んでいるセミナー。
もう一度考え直してみません? 頭を冷やして。
「寄らば大樹の陰」になってません?
人気だから。アクセス数ナンバーワンだから。本がバカ売れしているから。
まさかとは思うが……好みのタイプだから?
一度優しくされたから? これから先もそうしてもらえると信じている?
5年もしたら教えてよ。あなた、その年月とかけたお金に釣り合う変化をした?
お遊びというか、趣味や余興であって別に成果をがっついてない、楽しかったらいいのなら自由にどうぞ。ただ、楽しいだけでいいならスピリチュアルにハマるよりもっと楽しい選択肢があるのに……とは思うけど。
あら、失礼。あなたもう10年スピリチュアルやってますか!
って、10年という歳月なら、あなたはよっぽどすごい高い精神性を……って、そうでもなさそうじゃん。
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