本当すぎることはウケない

『鉄人タイガーセブン』 という特撮ヒーロ番組がある。

 製作は1973年と、ずいぶん古い。

 この作品は、視聴率は低迷し人気作とはならなかった、いわゆる当時としては「コケた作品」であった。しかし、売れなくてもいいのかと勘ぐりたくなるほどの「リアル路線」を貫いたこともあり、当時の人気のなさとは裏腹に「別の意味でものすごい作品」と、マニアの中では伝説的な作品となって、語り継がれている。

 では、どのくらいリアル路線だったのかを、ちょっと紹介してみよう。



●主人公・滝川剛と彼をサポートする高井戸博士率いる高井戸研究所のメンバーはムー一族という人類の敵の復活と脅威を訴えるが、その主張は社会に受け入れられることはない。



●そのため、事件が発生すると逆に主人公の側が警察や一般市民に疑われて窮地に陥ることがある。



●主人公の正体を知らないメンバーが、戦いのときになると決まって姿を眩ます主人公に不信感を抱いたりする。(戦闘時には主人公はタイガーセブンに変身しているので、いなくて当たり前である)



●敵の怪人と心を通わせた少女が敵の手によって刺殺されるという悲劇を目の当たりにした上に、主人公自身も自分の人工心臓が寿命を迎えて余命が数日となった事実を知って愕然となり、最終的には自ら戦いを放棄するまでになる。さらに、戦えない主人公の代わりを果たそうとムー一族に単身立ち向かった高井戸博士までが惨殺される。



●本作には、主人公に想いを寄せる女性がレギュラーメンバーで登場するが、最後は自らの死期を悟った主人公に拒絶される。



●ムー原人という敵の怪人の造形が怖すぎ、子どもに敬遠された。これが人気低迷にもつながる。



●自らの死期を知った主人公が、最後敵を壊滅させてから正体を明かし、どこへともなく去ってしまうという悲しすぎるラストであった。



●父を殺された男が、怒りのあまり怪人に殴りかかったところ、素手で怪人を倒せてしまう。(タイガーセブンの出番も面子もなし)



●敵怪人の中にも「愛」に目覚める者もいて、ある少女を好きになり両想いになる。だが、裏切ったとして組織から差し向けられた刺客に殺される際、二人は手を取りあって一緒に死ぬ。



●タイガーセブンがしている仮面ライダーのような赤いスカーフは、第八話で敵怪人に殺された女性の持ち物である。



●第15話で、タイガーセブンの人命救助が「人殺し」と勘違いされてしまう。正義のために戦っているのに、逆に自分が殺人犯と思いこまれてしまう理不尽に「この社会に救う価値はあるのか」と憤慨する場面も。



●敵怪人を追うためオートバイで走行中、子どもをひいてしまうヒーロー。子どもは一命を取り止めたが、彼は自分を責め続ける。怪人に襲われても無抵抗に殴られ続ける彼に、上司である博士は「我々が死ぬ時は他人の苦しみを救う時だけだ」と説教する。



 ……とまぁ、こんな感じなのである。

 この番組、視聴率低迷だからといって路線を変更したりという「テコ入れ」をしようともしておらず、最後までリアル深刻路線を貫いている。これは、褒めていいのか、バカなのか……

 健全で明るいヒーロー物が扱わないタブーを恐れず盛り込んだこの無謀な作品、当時は受け入れられなかったが今では伝説となっている。



 この世界は、夢見るための世界である。

「この世界は夢であり幻想」などと言われるが、その通りである。

 完全幸福とか、苦痛や悲しみなど一切のネガティブ要素のない世界の実現とか。そんなの無理だけど、無理でも思い描いて追い続ける所に意味がある。

 実際、できると思って頑張るうちが一番充実していて、それなりに楽しいだろう。

 今、無理だけどと言ったが、そういう身もふたもない話が一番ウケない。



●根源的な話になればなるほど、身もふたもなく楽しくもない。

 地上次元(幻想世界)に近い話になればなるほど、スピリチュアルは感動でき共感できる嬉しい話に変化する。



 今日言いたいのは、身もふたもない話こそが根本だから、イヤでも楽しくなくても信じろ、受け入れろということではない。現世ご利益的スピリチュアルを捨てろと迫っているのでもない。

 むしろ、それでオッケイ。あなたが好きなら。実際、今日紹介した鉄人タイガーセブン、子どもの立場で考えたらゼンゼン面白くねぇべ??

 やっぱり、リアルでなくていいから、多少の甘いウソがあってもいいから、見てて元気が出る方がいい。希望が湧いて、ワクワクしてくるほうがいい……でしょ?



 逆に、今日の記事を読んでなお、この鉄人タイガーセブンに興味が湧いて「面白そう」と思うような人、「身もふたもない非二元話」のようなものを求めたいようなタイプの人間は、そりゃ「お役目」であり、そういうシナリオ担当。

 数はそう多くないので、間違ってもメジャーになるなどとは思わないほうがいい。

 一時あった非二元ブームは、実は分かっていない人たちが、無理に分かろうとしていた(分かるのが格好いいと誤解している。幸せになれると勘違いしている)現象にすぎない。



 だから筆者も、鉄人タイガーセブンみたいな「リアルすぎて気が滅入るスピ話」は少なめにしようと思っている。

 …って、そんなのどこまで持続するやら!

 どうやら、大勢にはウケないが触れた人・価値を見出せる少数の間では語り草になり、伝説となるメッセージを語るのが私のお役目のようである。

 結局、書かされるように書き続けるしかないのだろう。あとは、結局書くしかないそういう話が、少しでも面白おかしいたとえ話や表現でキツさが緩和されることを祈るばかりである。

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