優しさが勝つ世界

TVドラマ【37.5℃の涙】


 訪問型病児保育「リトル・スノー」で働く新人病児保育士・杉崎 桃子が成長していく物語。

 リトル・スノーの利用者家族との出来事を、基本的には一話完結形式で展開し、シングルマザーやワーキングマザーの子育て、病児保育士らが利用者家族との関わり合いに奮闘する姿を描く。桃子をめぐるリトル・スノー創設者でもある朝比奈、常連利用者の篠原(ともにシングルファーザー)との恋愛、桃子自身が幼少時に受けた虐待、介護問題、家庭問題など、幅広いテーマを扱う。



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 椎名チカによるマンガを、蓮佛美沙子主演でドラマ化したもの。

 ちなみにタイトル内の37.5℃というのは、37.5℃以上の発熱がある場合に保育園の登園停止もしくは保護者の呼び出し対象となることに由来する。そこでどうしても家族が面倒を見れない場合に、家まで来て体調不良の子どもの看病をしてくれる「病児保育士」の出番となるのである。



 主人公の杉崎桃子(蓮佛美沙子)は、不思議な力を持った保育士。

 基本、空気を読んだ行動も愛情表現も不器用だが、人に心の扉を開かせやすい「何か」を持っていて、そのせいで桃子は訪問先の子どもや親たちの事情に、深く立ち入ってしまいがちになる。

 杉崎が籍を置くリトル・スノーには、「病児保育三原則」というものがある。

 派遣される病児保育士が守るべき鉄則、ということになっている。



①子どもを注意するな

②叱るな

③自分の価値観を押しつけるな



 しかし、杉崎はこの①~③ばかりやる上に、いっこうに直らないため、何度も社長の柳(藤木直人)から解雇をチラつかされるプレッシャーを受ける。

 しかし、客である親や子どもを怒らせたりしてピンチにはなるが、その都度乗り越え客も杉崎も両方が成長していく、というお話の流れになっている。



 なぜ社長は、口を酸っぱくして何度もこの「病児保育三原則」を守れとうるさいのか。それは「クレームを避ける」ということである。リスクの回避である。

 サービス業の命は、「顧客の満足」にある。それがなかったら、もはやその事業に明日はない。

 経営に責任を持つ者なら、とりあえずこちらが提供して満足いただけるレベルを完璧にしなければいけない。そこがグラグラしていて、どんなプラスアルファを積み上げたところで、アウト!である。テストで合格点が取れていないのに、「答案の字がキレイに書けてるでしょ?」なんて自慢するようなものだ。

 長く付き合う関係でもない。一定時間の病児の看病をする、それ以上でも以下でもない。だから、いくら気になろうが継続して関わる責任を持てもしないで、軽々しく他人様の子育てや親子間の問題に口出しをしない——。

 教育機関や福祉機関が、そのように「お客様の事情に立ち入るまい」という方向性に走らざるを得ないのはなぜだろうか。



●それは、現代が『とげの社会だから』。

 ちなみに、その反対は「優しさの社会」である。



 棘は、不用意に近付いてきた者を刺す。ケガを負わせる。

 自分を守るためだ。その守る自分というのは、守るほどの価値が実はなく、誰かに崩してもらうほうがいいくらいなのであるが、その大改造の時に生じる痛みに耐えられない。幼くて、その痛みに我慢のならない「年だけ食った大人」が現代社会に多すぎるため、企業側は守りに入るのである。

 なぜなら、彼らは「成長したい」と思うより「傷付きたくない」ので、成長に必要な本当のものを携えて近付いてくる者を反射的に攻撃するのである。


 

 もし現代が、もっと成熟したおおらかな社会であったら。

 言いたいことが言え、素直にアドバイスしたいことがアドバイスできる。

 言いやすいと言うことは、相手が「言ってもいいよ、受け止めるよビーム」を放っていてこそ、こちらも腹を割った話をしやすい。病児保育三原則など要らない世界が成熟した世界であり、優しさの世界である。

 しかし、ここで賢明な読者は気付かれるだろう。

 その優しい社会が成立するためには、いいことであろうが耳に痛い指摘であろうが、何でも受け止めるという社会構成員個々の「強さ」の上にしか成り立たないという点を、見逃すことはできない。



●強さがまずないと、優しさなど生まれないのだ。



 ありのままの自分を認めて、好きになって——。

 その程度のことで、優しさなんて生じない。

 もしそれでOKなら、なぜ世の中は変わらない?

「アナ雪」、日本人のかなりが見てるべ?

 ありのままの自分を大事にするんじゃなくて、その「ありのままのあなた」にクレームをつけ、変わるべき点を教えてくれているその言葉に向き合う勇気の方が大事なのだ。

 


 スピリチュアル全体は、今が素晴らしい「新時代」として、いい時代になったと喜ぶ向きがあるが、そんなことだとエライ目に遭いますな。

 時代は今、関ケ原だと思えばいい。「天下分け目の合戦」の最中である。実はのほほんとしている場合ではなかったりする。

 今後20~30年、気を抜けない。いや、油断したら破滅へのタイムリミットはもっと早く来る。



①やさしさの時代に突入するか

②いったんこの世界に見切りをつけ、再創造のための破壊期に入るか



 脅しのスピリチュアルは、今のホンワカスピ主導型の今、嫌われるし悪く言われる。でも、目の前に明らかにクマが襲って来てるのに、「来てない。クマなんかいないよね!」ってニコニコするなんて、あまりにもバカげている。

 笑い飛ばせない現実が、そこかしこにある。

 もうね、「ニコニコしてればいい」「気にするから、心配するからそうなる」系のスピリチュアルが好きなら、よそ行って。そいでさ、共倒れにでもなればいい。



●必要があるなら、勇気を持って何でも言える強さを持て。

 その代わり、聞く必要があるとあなたの胸の奥が教えてくるなら、どんなに聞くのが辛い言葉でも、向き合える強さと勇気を持て。

 優しさとは多分、そのふたつの強さと勇気の上に咲く「花」なんだろうな。

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