相手が本当に望んでいること

『ホテルコンシェルジュ』というTVドラマがある。

 結構古いドラマである。問題を起こして芸能界で見なくなってしまう前の、元気なころの西内まりやが主演。ホテルコンシェルジュをはじめとするホテルの従業員たちが、宿泊客たちが巻き起こす様々なトラブルを解決していく姿を描いている。

「プロ意識」とはいったいどういうものなのか、について結構考えさせられる。

 劇中の西内まりやのセリフで、次のようなものがあった。



●コンシェルジュたる者、お客様からの要望に絶対にノーとは言わない——。

 この言葉の本当の意味が分かったような気がします。

 それは、ただお客様の言うことをそのまま何でも聞き、断らないというレベルの意味じゃなく、お客様が「本当に望んでいることが何なのか」を察するからこそ、結果として「どんな要望にも応える」ということになるのですね。



 宿泊客のリクエストには、時として無理難題もある。

 二流・三流のホテルマンなら、「それはできません」とだけ言うだろう。そして、その客を「いやなヤツ」と思うだろう。

 でも、誰の心にも、歪んで見える行動の奥に「本当の気持ち」がある。表面的なことに幻惑されて分かりにくくなっているが、一見無理難題や理不尽な言葉の奥に「本当はこうしたいのだ」という心の叫びがある。

 それに一体どこまで肉薄できるのか、寄り添えるのかが一流ホテルマンの腕の見せ所となる。

 だから、相手の要望をそのごとく聞けたかが問われるというよりは「相手も自分で気付けていない本当の願いを引き出してあげたか」なのだ。

 回りくどいが、だから結果としてすべてに「No」と言わない、ということになる。相手の要求が筋の通らないものなら、相手のメンツをつぶさない範囲で「代案」を必ず示す、ということだ。



 ホテル業務じゃなくても、たとえばカウンセリングなどの仕事でも言えることだろうが、ひとつの難しさがある。



●相手自身が、自分の心からの望みに気付けていない場合がある。

 その場合、こちらがそれを読み取って指摘しても、相手が認めない場合がある。

 下手をすると、怒りだしさえするかもしれない。全然当たってない、と。

 相手が自己防衛からそこに耳をふさぐと、カウンセリングの成功は困難を極める。



 そこは、あなたの積み上げてきた経験と才能次第である。

 このドラマの西内まりやの役どころのように、「相手が思わず安心して話したくなる」キャラ作りをできるかどうかである。これは、後天的な努力で何とかできる部分もあるが、そもそもキャラ特性として初期装備されている人もおり、そういう場合に「天職」と呼ぶ。

筆 者も、時として「個人セッション」なるものをすることがある。ただ対面する場合だけでなく、文章でやり取りをする「メールセッション」もやっている。

 人を目の前にするにせよ、文章を介したやりとりにせよ、言葉を超えた「相手の望み」に着目していきたいと思って日々努力している。



 最後にちょっとだけ残念なお知らせをすると、「その場で、そうしようとして意図的にできるものではない」という点である。

 いくら付け焼刃で「この人のホンネは何だろう?」と思考して探っても、まず無理。意図的に探ろうとした時点で、ある程度アウト。

 スポーツの試合と同じで、本番その時の瞬発的な頑張りは、ほぼ意味がない。それまでどう生きたか、の時間の積み重ねが正直に出てくるだけ、のことになる。

 だから、スピリチュアルでメシ食っている人がいれば、大事なのはむしろ仕事をしているその時よりも、日常の時間の過ごし方や使い方の積み重ねがものを言う、ということを覚えておかれるとよい。

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