人生一路

 筆者が小学校時代の話だから、随分昔の話になるのだが、プラモデルに凝っていた時期があった。

 ただ組み立てて終わりというのではなく、塗料を塗ったり、「パテ」と呼ばれるものを使って部品と部品をくっつけた時にどうしてもできる継ぎ目の隙間の線を埋め、自然に見せることまでした。

 ある模型を買った時、説明書に「アイボリー」という塗料を塗れと指定していた。

 日本語にすると、「象牙色」だ。少々癖のある白というか、クリ-ム色っぽい色になる。私は、早速近所の模型屋さんへ、塗料を買いに行った。



 そこは、ちょっと頑固そうなオッサンが店主をやっている店だった。

 私は、店主に「アイボリーという色は置いてないか」を聞いた。

 すると店主は「そんな名前の色の塗料は存在しない」と答えた。

 私は、ちょっと困った。私の見間違いではない。何度も確認したが、そのプラモの組み立て説明書に、ボディにはアイボリーを塗ることを指定していた。存在しないものを指定するはずがない。

 私はメモに書き取ったものを持参していただけで、ちゃんとその組み立て説明書を持って来れば証明になったのに、と思ったがないものは仕方がない。

 あるはずなのでよく調べて、と言うと、自分はお前みたいなガキと違って模型一筋のプロなんだとでも言わんばかりの上から目線で、「アイボリーなどという色の塗料はない」と言い張った。

 大人相手に議論も疲れるので、早々に「そうですか、すいませんでした」と退散した。別の店で買うにも、そこからさらに遠い隣町(電車で行く必要があった)に行くのも子どもには大変なので、結局普通の白を塗って妥協した。

 その後、アイボリーなる色はやっぱりあると判明したが、その頃には筆者も中学生になっており、趣味もプラモから洋楽のエアチェック&音楽鑑賞になってしまったので、結局アイボリーを買うことはなかった。



 ある年の大晦日の紅白で、天童よしみが美空ひばりの『人生一路』を歌っていた。



●一度決めたら 二度とは変えぬ

 これが自分の生きる道



 確かに、これは生き方・在り方としては素晴らしい指針だ。貫くことができたら、立派なことである。

 しかし、注意は必要である。先ほどの、模型屋のオヤジのようでは、困るからである。もしも間違った認識、誤ったことを学習してしまい、それが正しいと思いこんでしまったら?

 それを、一度信じたから二度とは認識を変えぬ、ではタイヘンだ。だから、人生一路の歌詞に、一部付け加える必要がある。



●一度決めたら 二度とは変えぬ (基本)

 ただし、定期的にその根拠を支える情報を最新版に更新する。(定期メンテナンス)



 言い換えたら、「本当に、何かを頑固に貫くことで他人を傷付けたり迷惑をかけたりする危険を冒してまで、守る価値のあることか」を定期的に検証せねばならない、ということ。

 でないと、ある分野のことに関して間違った情報を「墓場まで」持って行くことになる。 

 世間で注目を集めたり、「大物」になればなるほど、素直さを欠く傾向にある。簡単に誤りを認めない。その可能性を、考えないようにしようとさえする。

 一定の地位を築いてしまった者ほど、後に何かの間違いに気付いても後戻りをしにくい。下手をすると、ただ目を背けるだけで終わらずそれを指し示す情報を潰しにかかる。力で、自分を勝者にする細工にかかる。

 昔人気だった海外ドラマ「プリズン・ブレイク」などでも、そうだった。外向けのイメージは良い大統領が、ある秘密を知る犯罪者を殺しにかかる。その秘密がバレると政治生命に関わる大変なことになるためである。

 刺客に襲われまくる犯罪者だが、訴えようがない。彼と大統領を秤にかけたら、一般人はどちらの言うことを信じるかははっきりしている。

 誰も信じてくれない。味方もいない。そんな中で、最終的にはその大統領と背後の闇組織に勝つ、というお話になっている。



 影響力の強い者や指導者がそうなったら、かなり末期的症状である。まぁ、次の命チャレンジに期待したまえ、と言いたい。

 なんでもかんでも自分の信じた通りを貫くのではなく、定期的に「今維持している思想信条や価値観は、そのまま維持するに値するか」 の脳内会議を行うとよい。

 そのためにも、日々情報収集である。その場合の情報収集とは、本を読んだりネットで何かを読むということだけでなく、積極的に人生経験を増やすこと、そこからの気付きを増やすことでも代用できる。

 くれぐれも、冒頭で紹介した模型屋のオッサンのようにはならないように。

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