相手にしなくてもよい人間関係
かつて筆者に寄せられた読者からのメールに、以下に紹介するような文面のものがあった。ちなみに、筆者が意訳したとか無駄な言葉を省いて要点だけ紹介したというわけではなく、本当にこれで全文である。
●法句経によると「自分が愚かであるとちゃんと知っている人は、それによって賢者となる。愚かでありながらも自分は賢者であると思い込んでいる人は、それによって本物の愚か者である」とありますが、どう思いますか?
意見を聞きたいですね。賢者なりの意見・解釈をお願いしてもよろしいですか?
最初から論外なのだが、何の枕詞もなくいきなり「法句経より……」で始まっている。実はこの方とは過去に一度関係があったこともあり、ちゃんとした手紙のようにいちいち「賢者テラ様へ」とか「こんにちは」という挨拶がなくても、私としては全然OKだ。そこは別にいい。
でも、内容をよく読んでみると、内容的には「お願い」であることがわかる。
人にものを頼んでいる、ということだ。意見を聞かせろ、と。
●人にものを頼む時には、言い方というものがあるだろう?
一応、文章の最後に「お願いしてもよろしいですか」という一見丁寧な言葉がある。でもそれは、文脈の流れでいうと「依頼」ではなく「詰問」である。
言い換えれば、慇懃無礼というやつである。
(表面の態度は丁寧だが、心の中では相手を見下し 馬鹿にしていること)
筆者は、かつてこのメールを受け取った時、無視することに決めた。解説するのも面倒だが、なぜ私がこの質問に答えてあげなかったのかを説明してみよう。
①徒労だからである。
たとえば、「時給100円」というアルバイトがあったとしよう。
あなたは、やる気になるだろうか? 最低賃金でも、(地域によるが)700円台~900円台である。現実まだ道のりは遠いが、最近では千円以上にしようかという動きもある。
子どものおつかいのお駄賃でも、時給100円よりはもう少しあるかもしれない。
つまり、あなたがこの時給100円のバイトをやらない理由は「見返り(報酬)が労働に釣り合わない」というものであるはずだ。その意味で、今回の質問に答える、ということを考えてみよう。
この方は、「法句経では……」と、その教えを引き合いに出して、あなたはどうか、と問答を吹っ掛けてきている。このことから簡単に察せられるのは、「質問者は純粋な疑問をもって聞いてきたのではなく、最初から法句経の方を『的を射た真実』であるという思考軸をすでにもっている」ということである。
それによると、まぁ自ら賢者と名乗る私は、愚か者ということになる。かなりの確率で、この人物の中では「聞く前から、わたしの負けはほぼ確定している」。
最初から被告を敵とし、追い詰める検察みたいなものである。多分、そういう人物に何を言っても甲斐のないことだろう。
筆者が一番キライなのは、「何かを絶対に正しいとして、そこから相手を裁く行為」である。
もちろん、どんな時にでもいけないということはなく、私だってやることはある。
でも、それを自分のテリトリーとは違う別の世界の領域(他人のブログにコメントで乗り込むとか、直接メッセージを送りつけるとか)に踏み込んだりする無粋なマネはなしない。
すべての宗教・スピリチュアルはひとつの『意見』に過ぎない。だから、私がこの質問者の文章を読んだ感想は、まず——
●ふぅん。この人は法句経を正しいと思ってるのかな?
……である。だから、「どう思いますか?」と聞かれても「どうも思わない」。
法句経ではそうなのね。でも私は私。ってだけである。
なんで、どっちかが正しくてどっちかが間違いでないといけない? さらに言えば、法句経のスタンスと私の捉え方は、比べてどうこう言えない次元のものだ。
日本舞踊と社交ダンス、どちらが優れているか? を白黒付けようとするようなもの。本来比較できないジャンルの二者を、無理に優劣つけるのと同じ。
この方の文章はどの角度から眺めても、私と法句経を同じ対等の土俵において、公正な判断をしようとするような雰囲気を微塵も感じない。最初から軍配は法句経ありきで、「どれ、テラはどんな見苦しい言い訳をするのかな?」というのを興味本位で眺めようとするようなずるさがある。
法句経が正しいと、誰が決めた? もうそこの物事の捉え方からして、深淵なスピリチュアル的視座からは遠い。
さて、もうひとつの「相手にしない理由」。
②こいつは、汗をかいていない。
ここで「汗をかく」ということの意味は、「人に聞くまでの最低限の努力をする」 ということ。
塾や学校でも言われることだが、「人に聞く前に自分でできるところまでは頑張ってみる」という心掛けが大事と言われる。最初から自分で考えもせず、他人にいきなりゲタを預けて人任せ、というのでは、たとえ答えを手にしても本人は成長しない。
自分で考えてこそ、である。それでも、どうしても分からない時に答えを聞くと、ただ答えを安易に手に入れた時に比べてより血となり肉となる。
私は、本書の中でも別の発信媒体の中でも、なぜ「賢者テラ」という名前にしたのか、についてちゃんと理由を言ってある。知りたい人がその気になれば、その情報を得るのはそう難しいことではない。
この人物は、その汗もかかずに、この質問をしてきた。
スピリチュアルに興味のないミーハーチックな方が、「なんで、賢者って言うんですかぁ?」と聞いてきたなら、まだ分かる。でも、この方は法句経とか引用してくるあたり、ある程度「精神世界の素人ではない」と分かる。実際、この人の情報を調べたら、スピリチュアルに興味がある方なのは明らかで、ある程度の知識は有する方だとも分かった。
嘆かわしくない? そういう人物が、調べたら分かることを汗もかかずに聞いてきて、しかも人にものを聞くのに上から目線で挑むような態度!
●こういうやつが一番始末が悪い。
スピリチュアルやってます、というスピリチュアル人口全体の評価を下げる。
フツー人の方が、スピリチュアルに関わっている人間よりもやさしい時がある。より円熟した人格を有する場合がある。実際に、世間の人にそんなふうに思われている場合だってあるんですよ。
家の土台(基礎)がしっかりしていないのに、その上に家を建てても、すぐに倒壊する。土台が堅固であってこそ、その上に何かを積み上げても、多少の雨風ではびくともしない。
人としての最低限の礼儀を欠いていたり、一般常識的感覚を欠いているやつがスピリチュアルをやっても、無・意・味だと申し上げよう。
この質問者には、法句経なんか引用して人と議論する以前に、やるべきことが沢山ある。「幸せになりたい」と、あなたが苦しい時にスピリチュアルに手を出す気持ちは分かる。でも、人間的な基本を欠いて、スピリチュアルでいい目見ようなんてしないほうがいいよ。多分、失敗するから。
最後に、これも指摘しよう。
●たとえば、極悪非道な殺人犯が、有罪判決を受けて法廷から出てきたとしよう。
あなたが、その人物に石を投げたり、つばを吐きかけるとしよう。
確かにその人物は、あなたにとって社会の害悪であり、死んだ方がいいような人物かもしれない。
でもその行為は、果たして良いことだろうか? ゆるされることだろうか?
この質問者の中に、こういった心理がある。
「間違っているヤツ(悪いヤツ・価値のないヤツ)にはこのくらいの対応がお似合いだ」
「そういうのにはまともな人にする礼儀など尽くさなくてもいい。もったいないくらいだ」
だから、自分の無礼を無礼だと思うことができない。私を、そういう扱いでちょうどいいやつ、くらいに思っているからだ。
子どもが、ホームレスに石を投げてケガを負わせる事件がかつてあったが、これも構造は同じである。相手をまともに扱うべき対象と思ってないから、そんなことができるのである。その子どもたちは、自分の親や友達、学校の先生にはまず石など投げないだろうから。
いくら相手が大悪人でも、法の裁きをきちっと受けている最中なのであるから、そこに委ねるべきであろう。横から石を投げたりつばをかけたりするなら、それはそうする人物のほうが間違っている。
意見は求めているが、どこかで相手が間違っていると最初から思っており、最初から不利な戦いを強いてきている。人間は、こういう不当な干渉を拒絶・無視する権利を有する。
こういうのに言葉を尽くして時間を割いて、実りの少ない時間をもつくらいなら、同じ時間とエネルギーを、もっと学ぶ姿勢のある謙虚な者達のために使うこと。
あなたの個としての人生、無限ではないのだ。そうしたほうが、より大きくきれいな花が咲くだろう。
~まとめ・あなたが相手にしなくてもいい人間の条件~
①相手があなたにある種の先入観・偏見を持っていると感じられる場合。しかもその程度が強固で、普通の人にあなたを分かってもらう労力の数十倍をはたいたとしても、成果が出るかどうか怪しい場合。限られた人生、もっと優先して相手にすべき人がいる。
②あなたという人間を理解しようと、汗をかく気がなさそうな人間。全部あなたに証明させようとするばかりで、自分では歩み寄ったり、あなたと共同作業をしようと骨を折ってこない人。
③人間として最低限の礼儀や常識を欠いた対応をしてくる人。さらには、相手を見下していて「こいつにはこの対応が似つかわしいくらいだ」と意識的・無意識的問わず思っている場合。相手を下だと見れば、親しい人や普通の他人に対するのと同じ礼儀(対応)はしなくてもいい、というのは人として下の下。
そういう選民主義のレイシストは放っておきなさい。
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