Q&Aのコーナー第七十二回「悟った人はこういう人、という固定イメージの害悪」

 Q.


 私は40代の主婦ですが、「悟り」にあこがれ悟りたいと思っています。

 非二元の業界を眺めると、私の知る限り女性では3人の方が活躍されているようですね。(筆者注:この質問はおよそ6年ほど前の時点のものです)

 皆さまそれぞれに素敵なのですが、残念なことに皆独身です。主婦の悩みとしがらみの中で生きる私にとっては、どうしても彼女たちの話が同じ女性ではなく、浮世離れして感じるし、現実を捨てているように見えます。そこが残念。

 自分ひとりならば、「何もかも執着を捨てる」ことは可能かもしれませんが、特に子供の事故や病気なんて絶対受け入れられません。リストラされる恐怖だって、世のパパは家族がいるから、下げたくない頭をさげて働いているし、給料にだってこだわっています。

 大事な家族はしがらみですが、宝物です。そういう中に人間くさい悩みの殆どが含まれていると感じます。 悟っている人で、フツーに社会生活を送っている人って何故か少ないように感じます。

 毎日の節約とか、町内会とか、夕飯のメニューとか、家族の健康とか。すごく忙しいですが、人間関係がもっと楽になりたいので悟りたいです。こんな自分でも運が良ければ、悟れますか? 



 A.


 さぁ、何とも言えません。悟るかもしれないし、悟らないかもしれない。

 ただ、悟り人は浮世離れしていて、普通に生きていないと定義付けるのは偏見だと思います。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 質問自体の解答は、シンプルである。分からん、知らんということになる。

 人生は、オセロゲームみたいなもの。すべての石が置き終るまで、勝負は分からない。試合の最後の一手まで、黒か白か分からないマスだってあるわけだから、人生の最後の最後まで何が起こるか分からないということで言えば、あなたがその範囲で悟るかどうかは死ぬ手前まで分からない。

 


 たまさかに、「死んだら悟る」というバカなことを言う人があるが、それは違う。

 確かに、これまでの地の流儀と多少は違う世界に気付くので(それだって二元性のうちだが)、そこで得る気付きとはいわゆる「悟り」とはまったくの別物である。

 結局、あなたが死ぬまでに悟るかどうかなんて、分かるわけがないし知ったこっちゃありません、ということなのだが。でもそれではあまりに愛想がないので、ちょっと踏み込んで議論してみよう。



 この方は、現在(およそ6年前)ご活躍中の女性非二元メッセンジャーがたまたま独身であるという事実をもって、「悟った女性は女を捨てる」という因果関係物語までこさえてしまった。独身であるというだけでなく、浮世離れしている、執着がないと観察される部分をもって「普通人とは違う人種」ともお考えのようだ。

 筆者は少し前の本書内の記事で、「因果関係と相関関係の違い」というテーマを論じた。因果関係とは、蛇口をひねったから水が出た、ガラスを指でつついたから指紋が付いた、など原因と結果の関係が誰の目にもダイレクトに明らかなものである。それに対して相関関係は、因果関係に一見似てはいるのだが、厳密には違う。


 

 例えばだが、「今年の夏が特に暑かったので、クーラーがよく売れた」と言う人がいたとする。

 確かに、そう言われたら納得できる話ではある。でも厳密に考えたら、本当に完璧な因果関係だと言えるだろうか? 実は電化製品の販売店が特売キャンペーンを行ったタイミングでもあって、「今買っておいたら得」と考えて購入した人ももしかしたら多いかもしれない。他にも、衝動買いとかボーナスが出たので気が大きくなってとか、特殊な例では家電量販点に勤める夫の売り上げ成績に貢献するため、自宅用のをあえて買ったというケースもあろう。

 このように、「夏が暑かった」という事実は確かにクーラーの売り上げの高さを物語る一番大きな要因ではあるかもしれないが、100%ではない。つまり、二者の間に関係性は間違いなくあるが、「その関係性だけとも言えない」場合が、相関関係。



●相関関係とは、二者のうち片方が変化をすれば、それに連動してもう片方も変化することが認められる関係を言う。ただし、因果関係との違いは絶対にそれだけが変化の理由だとは言えない部分。



 その前提で、先ほどの質問文を考えてみよう。

 スピリチュアル住人が嫌う言葉に、「偶然」というのがある。もう少し砕けた言葉では、「たまたま」である。

 筆者はこの二元性の世界で、特に「エゴ」という未成熟な認識システムで生きるしかないこの世界においては、「偶然」という概念は機能すると考えている。

 つまり、「たまたま」はあるということだ。(もちろん、人間側視点で)

 それでいくと、こういうことが言える。



●質問者が知り得た女性覚者が、たまたま独身であった。

 つまり、覚醒するような女性は結婚しない、子どもを持たないということではない。それは、因果関係ではなく相関関係。

 確かに、そういう傾向は観察されるが、それは明確な因果でも法則でもない。



 たまたま、世に出て目立ってしまった方が未婚だったということに過ぎない。

 私は、なんぼでもいると思うよ。結婚している人、子どもがいる人で悟った、という人。

 私たちは誰もが世界中津々浦々まで、悟り人をリサーチして残らずインタビューしたわけでもない。そんな汗もかいてないくせに、簡単に因果関係を定義するな。

 ある哲学者の格言に、「地球が丸いということを理解するために、地球を実際に一周する必要はない」というのがある。これは、人間の理解力・知恵といったものの価値を礼賛する内容であるが、それを今日のような話に適用してはいけない。

 長さを測るはずの定規で、水の体積(何リットル)を測ろうとするようなものだ。



 悟り、というものの性質を考えた時、質問者の言いたいことは理解できる。

 覚者は自分の外側にある「大事なもの」の数を減らそうとする傾向がある。だって、生き方に合わないからだ。

 何より身軽になるし、悟りの境地からの精神的活動を展開しやすい。そこへ夫や子どもがあってみなさい。放っておかれて、生活のペースが合わなくて……家族の絆にひずみや亀裂が生じやすい。

 だから結果として、歴史上悟りを求め得たと見られるような人物は、妻帯者の子だくさん、というのとは真反対の人物像が圧倒的になった。どちからかというと、世捨て人っぽいイメージがべっとり付けられることになった。

 何度も言いますが、これはあくまでも相関関係です! その傾向があることは認めますが、絶対の因果ではありません。

 だからどこかには、結婚して子だくさんの覚醒者も探し出せるでしょう。浮世離れしておらず、しっかり地に足付けて堅実に社会生活をしている覚醒者もいるでしょう。たまたま有名になった者たちを見て、「覚者(特に女性の)とはどういうものか」を決めつけないほうが無難です。



 あと、最後にこれだけは申し上げたい。



●人間関係が楽になりたいから悟りたい、は大間違い!



 これだけは、嫌われても声を大にして的外れを指摘したい。悟りは、幸せに生きるためのツールではない。

 ちょっと聞きますが、誰でもいいから覚者と言われる人の人生を(亡くなられた人も含め)考えて、一人でもいいから分かりやすく「ハッピーハッピーな人生」だった人を教えて?

 キリストはどう? ブッダはどう? 親鸞や日蓮、道元は? 一休宗純は?



●皆、それなりにタイヘンな人生を歩んでいる。



 それだって、相関関係にすぎないが(笑)。でも、無視できないデータではある。

 悟りとは、人生が楽ちんこになるツールではない。ただ、如何なる状態であっても「それはそれ」という境地を保てるだけである。

 だから、苦労が減るとか不幸が減るということではなく、それらに対して違う見方もできるということである。その苦痛や不幸の現象自体は消え去らない。単に向き合い方に関する問題である。

 だから、悟りといわゆる「引き寄せ能力」とはさほど関係がない。

 一番の大ハズレな誤解は、悟ると引き寄せがうまくなる、というものである。そもそも、何かを引き寄せて得をしよう、という次元にいない。(そういう考えが頭をかすめることはあっても、執着はしない)



 執着を捨てれば悟れる、というのも違う。それも、因果関係ではなく相関関係である。そういう側面もあるのかもしれないが、絶対ではない。

 執着を捨てれば悟れる、なんてはっきりした因果関係は保証できない。はっきり言って、悟ろうとするのはかなり勝算の低い戦いである。

 それを承知の上で、なお挑みたい、それが本望であると言うのであれば、頑張りなさい。ひとつだけ希望的なことを言うと、質問者が挙げているような毎日の節約とか、町内会とか、夕飯のメニューとか、家族の健康とか考えても、悟る可能性はあるということである。

 そんなことに囚われていては悟れない、という明確な因果もない。



 この世界には、正味の因果、というものはどこかにあるのだろう。

 でも、物理的に明らかなもの以外(精神世界の見えない理屈)は、「私」という主観を通して観察する限り、捉えどころがない。だから、解釈というレベルで甘んじるしかない部分がある。

 それで「どの解釈を選ぶか」が、その人の人生の個性を彩る。良くも悪くも、我々が把握できる限りのスピリチュアル的理屈は、相関関係である。

 その域を出ない事柄ばかりなので、決めつけず柔軟に考えるのがいいだろう。 

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