リロード(再装填)

 大昔の特撮番組、『ウルトラQ』の第14話 「東京氷河期」。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 東京へ出稼ぎに行ったきり戻らない父親を探して、秋田から一人の少年が上京した。

 たまたま出会った女性報道カメラマンと仲良くなり、少年は新聞社に取材されることに。少年は、父親は戦時中に凄腕のゼロ戦パイロットだった、と語る。



 そんな折、東京を冷凍怪獣ペギラが襲う。

 吐く息ですべてを凍り付かせるペギラは、文字通り東京を氷河期のような状態に!

 自衛隊の通常兵器も、歯が立たない。

 新聞社は、この怪獣がかつて南極に現れた時「ペギミンH」という薬品で撃退したという事実を把握しており、ペギラの弱点であるペギミンHの手配を急ぐが……怪獣出現の混乱にプラスして、お役所仕事の手続きの面倒くささまでが加わり、事態は遅々として進まない。

 少年と、ペギラの弱点を知った新聞記者一行は、飛行可能な飛行機を求めて飛行場へ。何とか一機、セスナ機があることが分かる。

 しかし、飛行機を奪って東京外へ逃げようと企てる宝石泥棒が、彼らに銃を突きつける。飛行機を使うのは自分のほうだと。

 泥棒の男性は、たまたまそこにいた少年を見て絶句する。なんとその男は、出稼ぎに出たきり帰ってこない、少年の父親だった。東京には出たもののまともな手段ではうまくいかず、泥棒稼業に身を落としていたのだ。



 新聞記者たちは、怪獣から東京を救うために、どうしても飛行機で薬品を手に入れにいかねばならいことを、父親に説明。少年からの懇願もあって、父親は立ち上がる。

「この悪天候でも飛ばせるのは、俺しかいねぇ——」

 爆薬と混合し、その威力を増したペギミンHを受け取った父親。

 氷漬けになった東京を、かつての撃墜王が飛ぶ。ゼロ戦ではなく、セスナ機で。

 今度は敵機相手ではなく、東京を救うために。息子のために。

 泥棒にまでなり、家族とも連絡を絶った彼が、最後にできる「父親らしいこと」 であった。覚悟を決めた父親は、セスナ機とともにペギラの頭部へ……



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 リロード、という言葉がある。

『再装填』という意味である。

 かつてのゼロ戦撃墜王は、終戦とともにその手腕の発揮の機会を無くし、他のことには不器用で、食うに困ってついには泥棒にまでなった。

 しかし、眠っていたその才能を再び発揮する機会がやってきた。今度は東京を、大げさに言えば日本を救うという大舞台だった。

 悲しいことに、その大舞台が人生最後とはなってしまったが、彼の最後は「少なくとも不幸ではなかった」はず。筆者には、戦争が終わってからこの最後に至るまでの期間は、「再装填」の時間だったと思うのだ。弾を撃ち尽くして、再装填する間は何もできない。

 しかし、装填できたなら再びその銃は威力を発揮できる。



 人はそれぞれ、このリロードを周期的にやる。

 ある一瞬を切り取れば、今夢を実現し、自分を最大に生かし輝いて成功している者もいれば、やりたいことが分からず、何か持て余してくすぶっているような状態に見える人もいる。

 人は皆、それぞれ種類の違う銃である。どれひとつとして、同じ銃は存在しない。ピストルなどの短銃からライフル・機関銃・大砲に至るまで様々ある。

 継続的に長く撃ち続けられる機関銃のようなものもあれば、一発撃てば次を撃つまでに時間のかかるショットガン、大砲のような時間のかかるものもある。

 そして、いつ撃つかも皆違うので、ある時間を切り取れば今まさに発砲している人と、次の装填まで何もできない人とが存在することになるが、人はどうしてもその一瞬の断面だけで優劣を決めつけてしまう。

 今発砲できている人が成功者で、今できない状態の自分はダメなんだと。



 筆者の人生も、長期的な意味での(10数年単位での)リロードと、一年単位での短期的なリロードを繰り返している実感がある。それが分かるので、私は何もできない再装填期間に、焦ることはない。恐怖も感じない。もちろん、細かいことを言えばまったく感じないわけではない。しかし、特に大きく問題にならない範疇で収まる。

 この数年は、筆者にとってはまさに再装填の時期となっている実感がある。

 他人に仕事してます、社会人ですと言える状態にない。動画配信とすぐお金にはならない文章の執筆だけを根気よく続けている。

 もちろん、誤解されては困るが、再装填の時間をいい加減に過ごしてOKという甘い話ではない。客観的成果は問わないまでも、その人なりのベストを尽くすことが求められる。その努力が、再装填終了後の成果の大きさを左右する。



 誰にも、発砲・再装填のサイクルがある。

 それぞれはいつ巡ってくるのか、個人にはまったく分からない。 

 でも、分からないなりに「信頼すること」はできる。

 今は装填の時期で、耐え忍べば発射の時が来る、ということを。

 それを、「希望」と呼ぶ。

 命あってゲームを降りていない限り、その希望は消えることはない。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る