私もあなたもみんなニセモノ

 スピリチュアルなブログを適当にネットサーフィンをしていて、とんでもない記事に行き当たったことがある。

 その記事には、「名指しで何かを批判するのは、ニセモノ指導者であり低級霊メッセージ」だと書いてあったので、笑えるがそこはまぁそういうことにしてあげて、話を進めることにする。

 その記事には、日本の危機と称して、最近ニセチャネラーが増えているということが書かれてあり、人々に「中庸意識をもたらす (これも実に曖昧模糊とした表現。具体的に何をもって中庸とするのかその記事だけでは分かりようがない)」ものが本物なのだそうだ。

 バカな、この二元性世界では、中庸という場所に行くことは厳密には不可能なのだ。生まれてから死ぬまで、必ずど真ん中ではない両極いずれかの方へ偏る運命から逃れられないのだから。

 一億歩譲ってあなたが「中庸」を実現すれば、あなたはこの世界から消えてなくなる。それはもはや、幻想世界にいてはならない存在となるからだ。


 

 問題のブログ記事には、低級霊(言い方が霊に失礼だと思うのだが!)の仕業と思われるメッセージかどうかを見抜くために、幾つかのポイントが示されていた。



①人の行為に対してはっきりと善と悪の区別をしてくるもの

②誰かを名指ししてその人が邪悪な存在だと非難してくるもの

③自分や他人を傷つけることを促すもの

④日常生活の些細なことに口出してくるもの

(例:料理中に「醤油の量をもう少し増やしたほうがいい」)



 では、今からこの実にくだらない4つの条件に関して、文句を言っていく。

 どうも、私のような者はこのブログで言う「にせチャネラー」になるようだが、それだったら私は「にせチャネラー」でよかった、と思う。そうであることを誇りに思う。このブログ主のような偽善者にはなりたくない。



 ①に関して。



●それ言わなんだら、どうして人が導けるのか?



 子どもの教育を考えてごらんなさい。

 最初っから、「すべてニュートラル」と教えますか?

 善悪の区別は、本来ないと教えますか?

 善悪はないという内容は、「何が善で何が悪か」ということが分かっていてこそ意味のある言葉。まず「偏り」を理解し、自分がそうなりがちなことを自覚してこその「中庸」である。

「中庸」という言葉を口にする資格のあるのは、偏りを知る者である。

 さっきも言ったが、中庸とはゴールである。きれいごと(理想)と同じで、終生到達されることはない、いわば心に持っておくべき「お守り」のようなもの。

 達成不可だが、常に意識をすることでできるだけそれに近くに、自分の意識を持っていける。死ぬまで修正努力が可能というだけのことで、一生偏りは直らない。

 この二元性の世界で、「陰陽の超越」「完全中立(ニュートラル)」は絵に描いた餅だということはわきまえるべきである。



 この世界は誕生してからこのかた、人間自身の責任でもってある一定の「ゲームルール」をつくりあげてきてしまった。悪より善、やエゴ(自己中心)よりも愛、とか。それはもう『世界に本来善悪も良し悪しもない」では済まされなくなっている。現実、というものがあるから。

 これはいい、これは悪い。あるでしょ? やっぱり。それを言わないとどうして生活していけるのか。

 人殺しがあれば、悪いことだと言わんでどうする!

 もちろん、そこへ至るまでの過程は、その人の立場になれば、理解できたり同情できる点もあるだろう。でも、この世界に生きる以上チャラにするわけにはいかない。

 他人の行為にハッキリ善悪を付けたらそいつはもう高次元(上等な種類の存在)ではないなど、子育てまっさかりの人もあろうにどれだけ失礼なんだ。

 ブログ主に、人を惑わしているのはどっちだ、と言いたい。

 いいものはいい。悪いものは悪い! でいいのだ。



 ②に関して。


 

●自分はええのんか?



 禅問答のようになるが、何事にも批判するなというなら、この記事自体が「低級霊のニセメッセージ」を価値判断してこきおろしているのは、いいのか? 例外になるのか? スピリチュアルという責任ある立場でそういうことを言うなら、徹底していただきたい。

 きっと、「自分だけは正しい」と思われているので、人には批判するなと言っときながら自分は批判するのだ。自信があるので、自分に関しては問題ない、という感覚なのだ。天下に、正しい基準を教えて差し上げているのだからね。ありがたく思え! って感じ。

 ちなみにブログ記事では、後半で日本政府(特に総理)を批判している。あれ、誰かを名指しで批判しちゃいけないんじゃなかったんですか?

 日本の平和のためには仕方がない? 言うべきことは言わないといけない?

 でもちょっと待って。この世界に「良かれと思ってしない批判」って存在するの? どんな批判であれ、「何かを良くしたい」と思うからこそ出るものなんじゃない?

 あなたの批判は上等で、他のやつらの批判はくだらない口ゲンカ程度、と思っているならどんだけ傲慢なのか、って思うね。高級霊というやつらがそういうのなんだったら、絶対におつきあいしたくない。



 ③に関してはまぁ同意しよう。

 余談だが、今話題にしてるものとは別ブログで「人に恐怖心を植え付けるものはニセモノ」と言った方がいた。コイツも、自分は覚醒したとか言って一時ブログをやっていた人である。今はどうなったか知らんが。

 その言葉こそ、世迷言である。

 まず、「恐怖」というものの定義から、語り起こさないといけないので面倒だ。



●恐怖(心)に良いも悪いもない。

 刃物と一緒で、刃物自体に善悪はなくどう使うのかが問題なように、恐怖心をどう与えるかが問題なのであって、全部が全部悪いわけではない。



 1歳程度になってヨチヨチ歩けるようになった子どもには、車道に飛び込まないように教えないといけない。

 車は怖い。ひかれたら死んでしまう。もう、二度とお母さんお父さんに会えないんだよ。遊べなくなるんだよ。そうなったら、パパ(ママ)とってもいやだな——。

 それを、どう 「喜び」「褒めるだけで」 教えるというのか。

 防犯とか。知らない人について行くな、とか。それだって、「知らない人は皆悪い」という決めつけがないか? とツッコミを入れられたら、何もできなくなる。

 刃物で手を切ると、痛い。血が出る。それに懲りて、もっと慎重にやろう、と思い直して繰り返し練習する。

 そして、熟練したらもうキャベ千を手早く切っても、手はケガしなくなる。そうやって、貴重な技術や生きる知恵は身につくのである。

 恐怖心を、バカにするな。多少脅すほうが結果として身につくことだってあり、それはその子どもの人生に後々役に立ったりする。

 恐怖がきっかけで(その対策として)生まれた、役に立つ発明品もあるほどだ。

 恐怖そのものがいけない、という論調は幼稚だ。ならば、ホラー映画を作成している集団は、人間のクズだろうか。お化け屋敷経営も?

 積極的に、人に恐怖心を与えているんだが? でも、人はサスペンスやホラーなどのドラマや映画で結構喜んでいたりする。



 ちなみに、問題のこのブログも「そういう低級霊メッセージに波動が合う人は、過去(たとえば幼少期)にトラウマがあって……」 などと過去の心の傷を指摘している。こういうトラウマ指摘も、相手に恐怖心を植え付けるんじゃないか?



 ④に関しては、バカバカしすぎて、反論するのも面倒になる。



●高次元が、醤油の量を口出ししちゃいけないのか?



 私だったら、してほしい。(笑)

 実生活上応用のきかない雲の上の話より、主婦の方とかだったらこちらの方がお得情報。高次元とは、よっぽど下々の人間とは違うお高い方らしい。

 きっと、醤油の量とかお風呂の炊き加減とか、どこぞのスーパーで特売だという話はしないんだろうなぁ。そういう話を「本質ではない」とバカにするんだろうなぁ。

 亭主関白で、生活上の面倒なことは全部奥さん(それか家政婦)にやらせている、セレブなやつが高次元やってるのかなぁ? 家事しなくていいなんて、うらやましいなぁ!

 醤油の量を口出しする細かい話をしてくるのはニセモノって、ブ=メランでそっちのほうが「細かい話」じゃなくね? ほっとけ、趣味の問題やろ。何話すかは。



●なんであんたに、こんな話でないとニセモノって決められんといかん?

 高次元もかわいそーやね! オカタイ話しかさせてもらえないんだから!



 もうね。言論なんて、好きに言ったらええんよ。

 ってか、好きに言う以外に不可能なんだけど。

 これ、話の落としどころ困るよね。どんな終わり方にしようか……

 おっ、こういうのはどう?



●あなたの言う通り、私ニセモノ。

 でも、あんたも言うことに穴があり過ぎだから、ニセモノ。

 ここはひとつ、お互いにニセモノ、ってことで……一件落着。

 これからもお互い元気で、言いたいこと言い合っていきましょうね。

 皆さんは、すべてが同じニセモノなら、どのニセモノがあえて好きですか?

 それを選択したらよろし。

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