確実なことだけ怖がれ


 今日は、時を経ても色あせず根強い人気を誇る名作アニメ映画『魔女の宅急便』の一場面から、私たちが生きる上で役立つエッセンスを学んでいこう。



 ある日の事。

 主人公のキキは二つの事柄から、自分が魔女としての力を失った、と考えた。



 ①黒猫のジジの言葉が分からなくなった。

 ②空を飛べなくなった。 



 ラストのクライマックスで、キキは魔女としての力を取り戻す。

 見事に空を飛び、トンボくんを窮地から救うことでそれを証明した。

 事件後、ヒーロー(ヒロイン?)インタビューを受けるキキ。

 その時に、ジジがしゃべった言葉は、「おめでとう」でも「やっと僕ら話ができるね!」でもなく——



「ニャア」



 ……だった。結局キキの魔力が戻っても、ジジの言葉は分からないまま。

 ここで推測できるのは、キキがジジの言葉が分からなくなったのは「魔女としての力を失ったからではない」という可能性もあった、という事実。飛べなくなったのは、明らかに力が使えなくなったからだが、言葉の件は別問題だった。

 言葉の件については、ひとつ考えられることがある。

 ジジは、いつも人間(魔女) であるキキとしか接していなかった。

 魔女に仕える使命ある「黒猫」として、自分の存在意義を理解していた。ゆえに、種の違いを超えて、使命という接点で二人(一人と一匹?)は繋がっていた。

 しかし。ジジは恋してしまった。異性を愛してしまった。

 猫という、存在本来の在り方に気付いてしまった。

 同族と意思疎通できる(愛し合える)喜びを知ってしまった。

 ジジがしゃべれなくなった経緯は、『100万回生きたねこ』が最後死ねてしまった理由に通じるところがある。



 話を、元に戻そう。

 結局、キキがジジの言葉を理解できないことを、魔女としての力を失ったせいだというのは、取り越し苦労だったわけだ。なぜなら、力が戻っても言葉が理解できないままだったのだから。

 キキは想像で勝手にシナリオを考え、勝手に怖がっていただけなのだ。

 これは、実生活で私たちがよくやることなのだ。



●私たちは、恐れを抱いて生きている。

 本当に根拠があって恐れていることばかりでなく、根拠のないことでも想像にすぎないことでも、それに同等の権威を与えて怖がっていることがある。



 想像上の事に過ぎないのに、客観的事実と同等の扱いをしている。

 例えば、次のように言えば分かりやすいだろうか。



①今、彼氏(彼女)がいない、という不安は客観的事実に基づく恐怖。

 これから先の将来も、いないままではないか? というのは想像上の恐怖。



②静まり返った、真面目な場面でオナラが出て「しまった!」と思うのは、客観的事実に基づく恐怖。

 ああ、これじゃもうお嫁にいけない! というのは想像上の恐怖。



③大学受験に失敗した時に感じるのは、客観的事実に基づく恐怖。

 もうこの先、自分の人生はろくなことがないのではないか、この失敗が一生ついて回るのではないか、というのが想像上の勝手な恐怖。



 そもそも、恐怖というもの自体(根拠があるにせよ)起こっていない未来を勝手に想像して起こすものだから、それを見抜くことで例え根拠の確かにある恐怖でも、なくせるに越したことはない。

 そこまでは難しくとも、せめて現実的根拠のない「余分な恐怖」だけでも減らせれば、かなり生きやすくなるんじゃないだろうか。



 例えば、筆者の場合。

 私はこのような執筆活動と月3回程度の動画配信以外、拘束されて一定給をいただくような仕事はしていない。会社勤めと違い、人様に喜んでいただけなくなったら終わり。芸能人みたいなもので、需要がなくなったら収入はない。

 だから、将来を勝手に想像するという能力が人間である以上わたしにも備わっており、時折それが発動してしまうので、一瞬「私は大丈夫だろうか?」 と考えてしまう時がある。



 でも、私の場合は文字通り「瞬間」である。

 人間である以上、「絶対に揺れない」ということはない。ただ、起き上がりこぼしのように、揺れても時間性とともに元の立ち位置に戻ってくる。

 だから、問題ない。

 次段階として、発想が次のように切り替わる。

 今ここにおいて、裕福とは程遠いが何とか幸せに暮らしている。だったら、いいじゃないか。今が充実していて、あと何の心配がある?

 将来など、存在しない。存在していないものにおびえるなんて、趣味ならいいが本当にやりたいのか? いいや。

 やりたくないから、根拠の何もない恐怖は、抱かないと選択しよう——。

 私は今、そうして生きている。



 冷静に考えてみれば、私たちが日常やらかしているのは、こうだ。

 想像でものを考え、あたかもそれが間違いないかのように、かなりの確率で起こるかのように、勘違いして怖がっている。

 その勘違いさえ外せば、かなり快適に人間ゲームがプレイできる。

 だから次の言葉を、是非あなたの生活標語に!



●ちょっと待て

 今のあなたのその心配 その恐怖

 本当に恐れる必要のあること?

 もしかしたら、見えざる敵さんに踊らされて、しなくていい心配をしてるんじゃない? 滑稽な取り越し苦労をしてるんじゃない?

 


 もし、あなたが一日の半分を心配や恐れに使っていたなら、それをやめるだけで、あなたは今までの二日分を一日で生きられる。

 他の事に倍の時間を使えるようになるので、あなたの人生はより建設的な方向へと加速していくことになるはずだ。

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