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二三世紀と研究所

 ――妖精との戦争状態に突入している、二三世紀始め。

 その影響で、未来の科学技術は二世紀近く後退。街並みも市民生活も二一世紀のものに戻っていた。

 また、古来からいわれていたように鉄が魔除けになることもあり、妖精たちは機械文明からは遠ざかる傾向にある。ために、自然界を優先的に制圧した。


 人の都市町は、辛うじて残っていた呪術たるお守りやお札や神社や仏閣などにより、微かな魔術の研究成果に頼った半透明の〝結界フィールド〟をドーム状に発生させて覆うことで護られていた。電子的な外部とのやり取りもいくらかできていたが、離れた都市町への結界のない道中での直接移動が襲撃されやすいので大変だった。

 村以下レベルの集落はほぼ壊滅していた。周囲に自然が満ちているし、人を護る妖精も社や寺などに祀られてはいたが、面積が狭いとそれも少ないからだ。

 さらに妖精軍が総攻撃をしてきた場合には、防ぎきれずに都市町でも崩壊する場合がほとんどだった。これにより年々生存圏も人口も減り、もはやどちらも全盛期の半分にまでなっていた。それでもなんとか生きる道を模索するために、人は学習を怠らなかった。

 こうして誕生した、魔法と科学を合わせた学問『魔法科学』分野の第一人者たる博士がスミエの父だったのだ。



 運命の日の夕暮れ。


 澄恵は自分が住む地方都市の学校帰りに、父の研究所に立ち寄ることにした。

 街路樹に彩られた、まばらな車の通る商店街。そこを、通行人に混じってブレザーの制服を着た女子中学生たちが歩いており、澄恵はうち一人だった。

「んじゃ、また学校でね~」

 と、今後のことを知るよしもなく途中で気軽に友達と別れ、澄恵は魔術研究のために設けられた自然公園内の施設を目指した。


 研究所敷地の木々や花々の周りでは、着物を纏った童女の姿をした座敷童子わらしやドレス姿で翅の生えた手の平サイズの少女を模した小妖精ピクシーら、人に友好的な妖怪や妖精が戯れている。

 中央の人工物は巨大で、小綺麗なデザインの白い箱をいくつか組み合わせたような研究施設。防衛用に、上空から見下ろすと魔法陣の配置にもなっていた。

 父親の職場である。


 一番大きな建物に入って受付で名乗り、IDを提出して検査されると、係員や警備員に案内されて澄恵はエレベーターで地下深くに潜った。彼女の目的地はそこにあるのだ。


 やがて大きな縦の筒状空間、ある発明品の制御室に通される。室内自体も魔法円を模っていた。

 中央には、さらに別の魔法円が床と天井に描かれ、周に沿って透明のケースが間を繋いでいた。ケース内部の中間くらいの高さには、通常三次元空間には埋め込めないはずの〝クラインの壺〟型物体が浮遊している。


 ――ゼノンドライブだった。

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