第42話 その四十二
この奇妙な構えに一瞬躊躇したが、以前従者と手合わせした時の剣の早さを知っていたため、今の鞘から抜ききっていない状態ならこちらの方が有利と判断した。
それが誤りだった。
一歩踏み出すと、正面に切りつけた。
一太刀目を受けられた瞬間、下腹部から顎にかけて鎧ごと切り裂かれていた。
どっと倒れる。
空は青かった。
騎士団長は低く笑った。
先ほどの一瞬で見た限りでは、右手で抜いていず、腰でも抜いてなく、座って座らず、立って立たず、まさに肚で抜き、心で抜いていた。
先に動かされたな。
やられても仕方ない。
三人と一匹が近寄ってくる。
「頼みがある、葬儀の時は、女物の服を着せてくれ、最後ぐらい女らしくいたい。男の様に育てられたが、いちおう女だからね私も」
従者を見ると、涙を流しながらわかりましたと言っていた。
「君でも泣くんだな」
「レン、ニコラス私が死んだ後も姫を守ってやってくれ、頼んだぞ」
レンはただただ泣くばかりだった。
ライオンは静かにたたずんでいる。
「姫様、国王陛下と女王陛下のお氣持ちもわかってあげて下さい」
姫はごめんなさいと言いながら目を赤くして涙していた。
謝らないで下さい姫。
あなたは悪くないんだ。
ああ。
死ぬ時に泣いてくれる人がいるのは。
嬉しいな。
心の粒が目からこぼれ落ちてくる。
しにたく。
ない。
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