第40話 その四十

 お願い。

 唇を合わせる。

 二回、三回と。

 何かに反応したかの様に、温かな光のベールが男と女を包み込んでいく。

 傷ついた男の体はみるみると治っていく。

 奇跡だ。

 従者はまた生えた左手で、女の頭を引き寄せて、氣持ちを女の唇にぶつける。

 姫は押しのける様に胸を押した。

「その前にこれを抜いて」

 従者の手を両手で取り、胸から出ている柄を握らせる。

 抜く際、声が思わず出ていた。

次の瞬間、セバスチャンが声を上げてのたうち回っていた。

 さっきまであった剣もいつの間にか無くなっていた。

 セバスチャンの体は砂と化し、霧散していった。

「セバスチャン……」

 姫はその光景を眺めていた。


 おしまい。


 女の子の寝息が聞こえてくる。

「あら、寝ちゃったのね……」

 上掛けを肩まで上げてあげて、蝋燭の明かりをふっと消した。


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