第39話 その三十九








 

   死んでもいいと思っていたけれど、あなたに会えなくなるのは嫌だな……








 



姫は従者が胴を切り飛ばされたのを見て悲鳴を上げていた。

 意識ははっきりしている。

 よろよろと、半分になった男に近づいていく。

 瞳から止めどなく涙が流れている。

 いや、いやよ、いや、いや、いや、いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや。

 従者の胸に顔を埋める。

「死んじゃいやよ!あなたがいなくなるなんて耐えられない……」

 顔をぐしゃぐしゃにしながら泣きじゃくっている。

「レン、ニコラス、姫様を頼む……無事にお連れしてくれ……」

「あなたといられて、楽しかった……」

「姫、ひめえええ、私にご加護を!ご加護を!」

 もう一人の倒れている者の声など姫の耳には入っていなかった。

「姫様、契約だ。それしかない。あなたも従者となら契約してもいいと思っているでしょう。この男ともう契約しているみたいだけど……二回目がどうなるのか僕にはわからないけど試してみてもいいんじゃないかな」

 姫は顔を上げる。

 従者の分断された下半身にある短刀を手に取る。

 自分の腕をす、っと切って死にかけの男の口にもっていく、次いで肩口に口をもっていって血を口に含んだ。

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