第38話 その三十八

 扉を蹴破る。

 その光景はあまりに見たくなかった。

 何者かが姫に口づけをしている。

 俺は絶叫して、そいつを姫から引き離そうと、突進した。

 その間に男は、姫の胸に出現した柄を引き抜いて、剣を振るった。

 衝撃波で吹き飛ばされ壁にぶつかる。

 なんなんだあの力は……

 ベッドに横たわっている姫はこちらに顔を向けて弱々しく俺を呼んでいた。

 今、助けます。

 そいつをよく見ると、見覚えのある人物だった。

「お……おまえは……なんで……」

 セバスチャンだ。

「やっと……やっと手に入れた!力を!」

「何がしたいんだお前は!」

「ただ力が欲しかったんですよ。誰にもひれ伏さない、強い者に怯えなくてすむ力が!」

「この剣さえあればすべての人間は私の思うがままだ!」

 なんてくだらない理由なんだ。

「そんなことのために姫を利用してんじゃねぇよ!」

「あなたが何を言おうと力が強い方が正義なんだ。あなたには屈してもらう」

セバスチャンは剣を頭上に振り上げた。

 俺は守るべき人のために戦う。

 彼女を助ける。

 セバスチャンに向かっていく。

 相手の振り下ろされる一撃を、剣で受け流そうとしたが、受け流せずにそのまま刀と左肩口から先を切断された。

 折れた刀で、セバスチャンの首筋から心臓までを切り裂く。

 セバスチャンは苦しみの声を上げた。

「おのれぇぇ」

 俺は上半身と下半身を別々にされた。

 世界がくるくると回っている。俺の下半身が見える。床に頭をぶつける。

セバスチャンも倒れる。

 ニコラスとレンが駆け寄ってくるのが見える。


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