第36話 その三十六
近いみたいだ。
馬車をとめる。
ニコラスの背に従者を乗せてやって、ここからは歩いて行くことにする。
従者はあいかわらずぐったりとしていた。
進んでいくと、古い館に着いた。
ここか。
中に入ると、姫の匂いと、血のにおいがすると、ニコラスはレンに告げた。
奥に進むと、血のにおいがレンにもわかるほどになる。
扉を開けると、ケープルズの首が転がっていた。
何が何だかわからないが、この部屋には姫はいない。
中を調べていると、姫の着ていた服が布きれになって落ちている。
確かにここにいたみたいだ。
机の上に、何か白い粉があった。
「これは……」
舐めてみてすぐに吐き出した。
二人と一匹が氣づかない間に、部屋の隅で黒い靄が集まりだしていた。
一番弱そうな者にとりついた。
従者の体を黒い靄が覆った。
「うあああああああああ」
従者が苦しみだしてニコラスの背から転がり落ちた。
レンはびっくりして目を向けると、従者はいきなり笑い出した。
なんなんだこれは。
訳もわからず見守っていると。
「あいつ……よくも殺してくれたな、今に見ていろこいつの体を手に入れたからには……なんだこの体は、ま……まともに動かせない、どうなっているんだ」
と言ったつもりになってはいるがレンの耳には何を言っているのか理解できない発音をしている。
従者は牛のようにモーの体勢をとっている。
「ど……どうしたの」
レンが声をかける。
従者は反応を示さず、なんとか立ち上がり机の上にある白い粉を口に入れた。
それから、床に転がっている屍の懐から注射器を取り出して、腕に刺した。
従者は高笑いをし始めた。
明らかに様子がおかしいと思ったら、またさっきのように苦しみだした。
どうなっているんだ!
従者は刀の鯉口を切った。その際、体から黒い靄が漂い、拡散した。
従者は膝をついて、息を切らしていた。
「姫を助けにいくぞ」
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