第34話 その三十四

どれくらい意識を失っていたのだろうか。

 薄暗くて古ぼけた小部屋にいた。

 壁につながれた鎖に手首、足首をつながれている。

 腕は頭上から下には下げられそうになかった。

 なにこれ。

 そういえば、ケープルズにうらぎられたことを思い出す。

 何が目的なのかしら、私を人質にして国から、身代金をもらう氣なのかしら……

 扉が、ぎいと音をたてて開いた。

 中に入ってくる男をきっと睨みつける。

 ケープルズだ。

「おやおや、お目覚めですか」

「あなた、一体何が目的なの」

「あなたを手に入れたかったのですよ」

 ケープルズは不敵な笑みを向ける。

 近づいて、しゃがみ込んで、顔をのぞき込んできた。

 その際に爽やかな匂いがした。

 どこかで嗅いだことがある匂いだ。

 頬にふれられる。

「私はあなたがどうしても欲しかったのだ。死んでもなお……私は王になりたかった……こうして、また肉体を手に入れて……」

 このしゃべり方、この匂い、記憶が想起される。

驚きで、自然と目と口が開いてしまう。

「思い出しましたか、バロンです」

 顔は全くの別人である。

どういうこと。

「まさか、死んだはずでしょう」

「そうですね。私にもよくわかりません」

「ああ、ついにあなたは私のものだ」

男爵の氣持ち悪い手がするりと落ちて、親指が唇に当てられる。

「触らないで!あっちいってよ!」

「そんなことはもう言っていられなくなりますよ」

 バロン男爵は口に何かを入れて、無理矢理、私に口づけをし、口の中の物を移してきた。

粘ついた舌が口内を蛇の様に這いずり回る。

まるで男爵と唾液の交換をしている様だ。いや、そうだ。

 うう、吐き氣がする。

「さあ、飲め!」

 入れられた物を混ざり合った唾液と共に吐きつける。

「誰が飲むものですか!」

 バロン男爵は立ち上がり、何か管の様な物を持ってきた。

それを口に突っ込まれる。

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