第32話 その三十二

 ケープルズは椅子から立ち上がる。

「くっくっくっく。あっはははははは、あー、うまくいきすぎて笑っちまうぜ、さて、ずらかるか」

 姫を抱え上げて、部屋から出ようと戸に手をかける、凄まじいまでの殺氣を背中に感じた。

 パッと後ろを振り返った。

 従者が唾を垂らしながら立っていた。

「ひひ……ひめざまはづれでいがぜないぞおお、」

 ケープルズは目を見開いた。

 この死に損ないにこんな力が残っていたとは、なんと恐ろしい奴だ。

「この死に損ないめがおまえになにができるんだよ」

 姫をいったんおろして、後ろ回し蹴りを頭部におみまいする。

 従者は壁に激突した。

 頭部から血を出しながらも、まだ立ち上がろうとしていた。

動きはとろくさいが目がらんらんと光を放っていた。

思わずぞっとした。

「おそろしいやつだ」

 姫を抱え上げてそそくさと、部屋を後にした。



 ニコラスが宿屋に戻ると、血のにおいがしているのに氣がついた。

 怪しく思いながら、部屋に戻ると、突っ伏しているレンと倒れている従者が目に飛び込んできた。

従者はくそう、くそうと嘆いている。


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