第28話 その二十八
旅は終わる
幾年月が過ぎ、姫一行は国々を見て回り、人生の中でかけがえのない貴重な経験を得ていた。その土地、独特の風土、文化、文明、人の氣質、性質、考え方の違い、良いところも、悪いところも、建物や物、町の雰囲氣に、人が現れ、教育の大切さ、人を騙す者、私利私欲、奴隷、差別、争い、醜さ、傲慢、人の強さ、心の大切さ、暖かさ、生きていて何をなすのか、なさないのか、ただ生きているだけで人の役に立っていること、命を燃やし尽くして人の役に立つ者、夢に焦がれ、人に夢を焦がれさせる者がいること、自分は何をすれば良いのか、何をしたいのか、いつ死ぬのかわからないこの世界、人は美しく、自然は美しく、自分の命を大切にしたいと思っていた。ただひたすら、生きていて良かったなと思いながら死にたくて。
姫は自分の国に帰ることにした。
旅の途中、いろんな人々に出会ってたくさんの人達に助けてもらい、何人かと行動を共にしてきた。
現在は、最初の仲間とその他にもう一人の男が行動を共にしていた。
名前をケープルズといった。
「姫さんの旅もこれで終わりですかい」
姫は晴れやかな顔を見せながらそうねと言った。
ケープルズは陽氣な男だった。
盗賊たちに襲われていたのを助けてあげたら、恩返しがしたいと言われ、旅の仲間に加わることになった。
「姫さんの美しい顔も、拝めなくなるわけだ。寂しいな、どうですあっしを雇ってくれませんかい」
姫は笑いながら、
「そうね考えておくわ」
と答えた。
馬車の中で、従者は死んだ様な目でぼーっと前を見つめながら口を開けてつばを垂れ流している。
なぜ姫が帰る決心をしたのかというと、従者のことがある。
姫を守るために、妖魔と戦い、心を食い散らかされてしまったのだ。
今は幾分回復に向かっているが無氣力な状態が続いている。
従者を一刻も早く治すために帰る決意をした。
こんな生氣のない従者の顔は見ていたくなかった。
頼りになる従者でいて欲しかった。
「もう少しでつくわ、そしたらゆっくり休みましょうね」
「あ、……あ……」
馬車はレンが御していた。
ニコラスは中で寝ている。
通りすぎていく景色は色あせて、姫の目に映っていた。
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