第18話 その十八

 姫を運んでいる男にピエロと数人の黒ずくめの男たちが追いついてきた。

「よくやった。よし急ぐぞ」

 突然、猛獣の吠え声が聞こえてきた。

 なんだ!

 男たちの目の前に、赤いライオンとその背に乗った少年が飛び出してきた。

「いやー、団長に言われた通り、見張ってて良かったあ。こりゃお手柄だね」

 よっと言って少年はライオンから降りる。

「このニコラスに食べられないうちに、投降した方が身のためだよー」

 ライオンが威嚇する。

「そんな猛獣一匹ごときに、人間が束にかかれば怖くないことを教えてやるよ。行け!お前ら」

 男たちが前に出てくる。

 少年が行けニコラス!と大きな声で言うと、ライオンが飛びかかり、一人、二人と、喉笛にかみつき、腕を引きちぎる。

 黒ずくめの男たちは為すすべなく、苦しみの声を上げて、地面に転がる。

 ライオンの顔の周りには、血がべっとりとついていた。

 ライオンが戦っている間に、放り投げられていた袋を開けて姫を助けてやる少年。

「ありがとう助かったわ」

「いえいえ、どういたしまして」

 姫の声は震えていた。

 ピエロはライオンに飛びつかれて、散々引き回されたあげくに服はズタボロにされていた。

「お願いだ助けてくれ、金ならいくらでも出す。し、死にたくない。姫、助けてくれ、私が悪かった。お、お願いします」

 ピエロの化粧はとれて、バロン男爵の顔が現れている。

 バロン男爵はあまりの恐怖に失禁をしている。

「バロン男爵……なぜこんなことを」

「ち、力が欲しかったんだ、あなたの力が、俺は王になりたいんだ、ただの領主ではない、この国の王に富と名声が、他の国に恐れられる力が」

「私にはそんな力など……」

「あるだろう。血の力が。その力さえあれば……代々受け継がれるその力さえあれば凡人だって王になれるはずなんだ。あなたと私なら、世界を手にいれることもできるはずなんだ」

「なんと傲慢な……」

「そんなものは王ではありません、王がいるから国があるんではない、民がいるから国があるのだと、お父様もお母様も言っています。あなたは力を手にしたところで決して王にはなれませんよ」

「それにこの国は女王が君主です、男のあなたは王になったところで国はうごかせませんよ」

バロン男爵の美しかった顔は見る影もなく今はとても醜い表情をしていた。

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