第12話 その十二

断った。

「なんで断ったのよ」

「姫の警護があるので、目を離すのはちょっと」

「そっ」

 と甘いカクテルに口をつけていた。




 花の香りがする人が近づいてきた。

「一曲お願いします」

 胸に手を当て、お辞儀をする。

 仮面の人だ。

「いつ来るのかと待ていましたわ」

「お手を」

 フロア中央に向かって手を引かれる。

 曲はワルツから、タンゴへ移り変わっていた。

 優雅な曲調から一変。

 ピアノから始まり、バイオリン、アコーディオンの調和。

「私、タンゴはあまり……」

「大丈夫、私に合わせるだけでいい」

 そっと耳元でささやかれる。

 仮面の人のリードに導かれて二人は溶けていく。




 生き生きと、情熱的に。

 楽しそうだった。

 顔が輝いて見えた。

 誰もが二人に視線を注いでいた。

 いつの間にか手拍子も始まっている。

 高く上げられた足。

 持ち上げられる女。

 こんなにも女性を魅力的に見せることができるのか。

 何よりも、仮面をかぶった人物が魅力的に見える。

 曲も終盤にかかり激しさを増し、二人は炎のごとく燃え上がる。

 前から美人だと思っていたけれど、今夜初めて綺麗だと思った。

 あんなに体の底からエネルギーを出している姫様を見たことがなかった。

 最後は、女が完全に体重を預けて、倒れるかのように背をしならせた。

 仮面ごしに、口づけを青いバラにして曲は終わった。

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