第10話 その十

「ねえ従者、昨夜騎士団長の部屋へ何しに行ったの」

 ぎくりとして姫を見た。

「いえ、行っていませんが」

「嘘、昨日起きてたんだからね私、部屋から出て行ったのも知ってるんだから」

「仕事について、ご教授を頂いておりました」

 姫はふーんと言いながら従者とダンスの練習をしていた。

 顔に泥パックをやりながら。

 今日舞踏会があるのである。

「あなただいぶ踊れるようになったわね」

「そりゃあ、毎日付き合わされてたら、ある程度はできるようになりますよ」

「今日の舞踏会に出ても問題なさそうね」

「いやいや、警護の役目もありますし」

「文句を言わない。大丈夫よ、みてくれは問題ないし、言わなきゃ外国の貴族にでも思われるでしょ。警護も私の一番近くにいれるし。それに私、知らない男の人と話すの嫌なのよね。あなたがいてくれたら、そんなに男性も近寄ってこないと思うしいいじゃないの」

「それにしては、練習とか、美容とか結構やってますね」

「準備に余念がないだけよ。備えあれば憂いなし、ある程度はちゃんとしておかなきゃ。姫って面子もあるし」

「それにしても、今夜は芸人たちが来るのよそっちの方が楽しみでしかたがないわ」

姫は花のような笑顔を向けてきた。

「ごきげんよう姫様」

「ごきげんよう」

「これはこれは、本日はじつにお美しいですね、青のドレスがあなたの美しさをより引き立てているようだ」

「ありがとうございますバロン男爵」

「よければ今度、食事をお誘いしたいのですが」

「是非お誘いくださいね」

 こうはいっているが絶対に行く氣はない。

 バロン男爵が去った後、一人の仮面をかぶった人物がやってきた。

 お辞儀をすると、何もなかった手にバラが握られていた。

 是非、今夜一曲踊っていただきたいと言われ、喜んでとお受けした。

「見て従者、お花もらっちゃった。素敵な人だったわね」

 そうですねと答える従者は普段の格好と違う装いで、この場にふさわしい服装をしている。いつもより凜々しく見えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る