第15話◆めぐり逢う為に
今までの人生の中で、
こんなに待ち遠しい《朝》は無かったと思う。
〈ミサキ〉は、いつも通りに家を出て《学校》に行く。
一方の〈サトル〉は、朝食を済ませ最後の検診を受けていた。
「お世話になりました」
《担当医》と《ナースセンター》へお礼を言いに行くと、
《看護師》達は〈サトル〉の退院を本気で残念がっていた事に思わず失笑してしまう。
「・・・また来ます(笑)、とは言えませんが・・・💧」
〈サトル〉の挨拶に《看護師》達は華やぎ、笑顔で見送ってくれた。
それを背にしながら・・・、
〈サトル〉は逸(はや)る気持ちを必死に堪えて《病院》を去るや《タクシー》に乗り込む。
『・・・ミサキちゃん・・・』
その思いにしか突き動かされていない現状を自嘲する『ゆとり』さえ無い事にも気付かずに―・・・。
「ミサキぃ~💦大丈夫なん⁉️💦」
《教室》へ入ると、
〈ミサキ〉の顔を見るや否や〈泉〉が一目散に駆け寄って来る。
「ゴメンね、バァちゃんが余計なコトを言うから―・・・💧」
「エエねんて。てか、さぁ‼️・・・ミサキは聞いた?
瀧井センパイ殺したん、センパイの《彼氏》やったらしいねんて‼️💦」
「・・・エッ⁉️」
〈ミサキ〉の詫びの途中で食い気味に言う〈泉〉の言葉に驚いた。
「今朝、《学校》来る途中でセンパイの同級のヒトに会ぅて、
《刑事》がそのコト聴きに来た・・・って言ぅてたモン‼️💦」
「・・・《刑事》が・・・」
「何か瀧井センパイ、《彼氏》と上手くいってへんかったらしくて、
周りに色々『相談』してたみたい」
・・・その言葉に、
〈静香〉の《通夜》で父親が『会わせろ』と言っても、
一度も家に連れて来なかった―・・・と、言っていた事を〈ミサキ〉は思い出す。
「・・・センパイ、どんな人と付き合ぅてたんやろ⁉️💦」
〈泉〉は〈ミサキ〉の反応もお構いなしに尚も続ける。
「その《彼氏》な、
何か《本島》でケンカで刺されて『重症』やねんて💦・・・ヤバい系かな⁉️」
「・・・刺された⁉️」
その瞬間、
〈ミサキ〉は〈サトル〉の庇った『相手』がその《彼氏》だと悟る。
『・・・何で《先生》が・・・瀧井センパイの《彼氏》までも―・・・』
そう思って気付く。
『その《彼氏(ひと)》は・・・センパイ殺した《犯人》が《先生》やて知ってたって事⁉️』
もしかしたら、
〈小菅〉を『脅迫』でもしようとして、逆に?
―・・・そのコトまでも〈サトル〉は知っていたのだろうか・・・。
「―・・・ミサキ?どうしたん?💧」
急に黙り込んでしまった《親友》に、〈泉〉は不安げに声を掛ける。
「エッ⁉️💦・・・―あ・・・💧何でも無いよ?💦」
慌てて誤魔化すと、
「・・・でも、瀧井センパイ殺した《犯人》が、その《彼氏(ひと)》やったら・・・〈葉子〉さんを殺したんは誰になんのよ?」
〈ミサキ〉が〈泉〉に不満げに問い掛けると、
自信満々(笑)に胸を張り答えた。
「だから、ホラぁ‼️
やっぱり『不倫相手』に殺されてしもたんよ‼️―・・・で。
その《犯人》は、私が前から言ぅてた小菅やと思うねん‼️」
「・・・《先生》が・・・⁉️」
強(あなが)ちハズレてはいないだけに、
〈ミサキ〉は素直に驚く。
「だって、この『タイミング』で急に居らんくなるて・・・怪し過ぎやん?
バレるんも『時間の問題』て、怖ぁなって逃げ出したんと違う?」
以前にも、
〈泉〉に〈小菅〉が『不倫相手』じゃないか―・・・と言われた時は、
本気で『否定』出来たのに・・・。
今はそれを『認めざるを得ない』としている哀しい自分がいた・・・。
「・・・ホンマに葉子さん、『不倫』してたんかなぁ―・・・?」
〈ミサキ〉は淋しげに呟く。
『その《相手》が・・・《先生》やったん?』
「・・・―ミサキ・・・小菅のコト、『好き』やったんやね―・・・」
〈泉〉にそう言われて、
自分が泣いている事に気が付いた。
「・・・《先生》は『逃げ出した』んと違うよ―・・・きっと『待ってる』ハズ・・・」
「・・・待ってる?―・・・誰を⁉️💧」
不可解な発言をする《親友》に眉を顰(ひそ)める〈泉〉に、
「・・・なぁ、泉。私の『お願い』聞いてくれる?」
〈ミサキ〉は深刻な顔付きで、〈泉〉の『返事』を待っていた。
『―・・・そう。《先生》は判ってる。だから、もう誰も傷付けんように・・・《姫》さんだけを待ってるんやわ―・・・』
―・・・だとすれば、その場所は―・・・。
〈サトル〉が《結子(すくね)》に着いたのは、
お昼をとうに過ぎた時間だった。
「・・・ミサキちゃん《学校》に行ったんですか⁉️」
《結子(しま)》に着いて直ぐ、
〈フミ〉の所に電話して愕然とする。
「・・・《テスト》が近いから言ぅて行ったケド・・・💧
そろそろ帰って来ると思うで?
何やったら《ケータイ》に連絡入れて、そっちに迎えに行かそか?」
〈フミ〉の口調が呑気に聞こえる程〈サトル〉は胸騒ぎがしていた。
『・・・《学校》で《先生》と会ったりしたら―・・・』
「フミさん‼️・・・また後で《連絡》しますっ‼️」
〈サトル〉は急いで電話を切ると再び《タクシー》に乗り込み、
《漁協組合》まで走らせた・・・。
「・・・ミサキぃ~何なん?・・・勝手にこんな事してエエのん⁉️💧」
《学校》が終わって早々、
《漁協組合》に行き《祖母》の名前を出して舟を借りた。
小さい頃から、
《祖母》の動作を見ていた〈ミサキ〉は手際よく、
難無くエンジンを掛けると〈泉〉も乗せて舟を出す。
「怒られるんは私やから、泉は心配せんでも大丈夫」
生まれて初めて一人で舟を出したようには思えない程、
堂に入った自分の一連の動作に〈ミサキ〉は悦に入っていた。
潮風がこんなにも気持ちいい。
「・・・なぁ💧・・・何処へ行くつもりなん?💦」
それとは対照的に『不安』でしかない〈泉〉の問いに、
「・・・《祠岩(ほこらいわ)》」
〈ミサキ〉はそう一言だけ答えるが、それが却って力強く・・・何かしらの『ある決意』をも秘めているように感じてしまう―・・・。
そう思えるのは、
〈ミサキ〉の表情を見れば歴然で。
・・・故に〈泉〉もそれ以上を訊ねる事が出来なかった・・・。
『僕が《結子(すくね)》に戻るまで・・・決して一人で行動を起こさないで下さい・・・』
・・・〈サトル〉にそう言われ、
『約束』をしたのは自分自身だが《先生》が《姫(じぶん)》を待っているに違いない―・・・と、
『確信』してしまった現在(いま)、もうジッとして居られなかった。
『・・・私に何が出来るんか、判らへんケド―・・・』
目前の《祠岩(ほこらいわ)》に〈小菅〉が居ると思うだけで〈ミサキ〉の胸は高鳴った・・・。
〈ミサキ〉が〈泉〉を乗せて、
舟を出したその数分後に〈サトル〉は《漁協組合》に到着している。
「・・・何や《警察》からアンタさんの『問い合わせ』があったケド・・・
《怪我》とか大丈夫やったんか?」
対応してくれた初老の《男性》は
心配げに〈サトル〉を見つめた。
「・・・本当に・・・ご心配とご迷惑をお掛けしてしまい、
申し訳ありませんでした💧
お陰様で、この通り(笑)『元気』に退院出来ました💦」
〈サトル〉は軽くお詫びと礼を述べた後、
「ところで・・・話は変わるんですが。昨日、今日で『船を借りたい』とか『盗まれてしまった』といった《報告》はありませんか?」
と、《男性》に訊ねた。
「・・・『盗まれた』っちゅうのんは聞いて無いケド、『借りてった』んなら〈多嶋フミ〉さんや」
「えっ⁉️・・・フミさんが⁉️・・・何時ですか⁉️💦」
思ってもいなかった《名前》が出て来て唖然とする〈サトル〉に、
「・・・ついさっきやで?
ミサキちゃんがココヘ来て―・・・」
「ミサキちゃんが、船を借りにココヘ来たんですか⁉️💦」
〈サトル〉の食い付きっぷりに、《男性》も引き気味で眉を顰(ひそ)める。
「・・・何や、アカンかったんかいな?💧」
口をへの字にして不満げに言うのに気付き、
「・・・あ💧スミマセン💧
・・・ついさっきなんですね?・・・」
〈サトル〉は素直に反省し、
詫びながら再度『確認』と称し訊ねると、
《男性》も『非常事態』の様相を感じたのか、神妙に頷いた。
『・・・―間に合うのか・・・⁉️』
〈サトル〉は『最善策』を考えながら、
その《男性》に途中まで船を出して欲しい事と、
自分用に《ダイビングスーツ》の一式を貸して欲しいと願い出た。
「・・・ほな、船はワシのでええか?」
「助かります‼️」
突然の訪問に加え、
急な申し出にも関わらず応じてくれた《男性》に〈サトル〉は深々と頭を下げる。
『・・・ミサキちゃん―・・・』
ただ、無事でいて欲しい・・・。
〈サトル〉は、
またも逸(はや)る気持ちを抑えるだけで精一杯だった―・・・。
「・・・泉、よう聞いてな。これから私が一人で《祠岩(ほこらいわ)》に行って来るから、
もし・・・『一時間』経ってもココヘ戻って来んかったら、
バァちゃんに連絡して欲しいねん―・・・」
〈ミサキ〉達を乗せた舟が《祠岩(ほこらいわ) 》に着くと、
一呼吸置いた後・・・〈泉〉を自分の正面を向かせて、そう告げた。
「・・・ええ⁉️💦そんなん嫌やわ💦
私も一緒に行ったらアカンの⁉️💦」
その《親友》のただならぬ様子に
ベソをかくような声で言う。
「二人一緒に行ったら意味が無いから‼️・・・今、泉に頼んでるの‼️
私が戻って来るまで―・・・この舟に隠れて待ってて。お願い‼️
絶対・・・《祠岩(ほこらいわ)》に来たらアカンで⁉️」
「・・・絶対・・・ミサキ戻って来る?」
涙目で縋(すが)る〈泉〉に、
穏やかに微笑むと〈ミサキ〉はしっかりと頷いた。
「・・・私の『一生のお願い(笑)』、
泉やったら聞いてくれると思ぅた」
《親友》の不安を取り除くように冗談めいて明るく微笑(わら)い、
〈ミサキ〉は〈泉〉のその瞳(め)に浮かんだ涙を拭ってやった後、
颯爽と舟を降り一人・・・《祠岩(ほこらいわ)》へ向かった―・・・。
『・・・貴方は、自分の弱さに溺れてしまっているっ―・・・‼️』
まさか、
あの場面で・・・あの《青年》が《脅迫者(ヤツ)》を庇い、飛び出して来るとは―・・・
思ってもみなかった。
『こんな―・・・っ。これじゃあ貴方は、ただの《殺人鬼》じゃないですか‼️・・・いいんですかっ⁉️』
・・・自分に対して、
本気で『怒り』・・・『哀しみ』・・・心の底から叫ぶ『その声』に、
〈小菅〉は《闇》に呑み込まれる時と同様の『恐怖』を感じ―・・・
あの場所から逃げ出すしか無かった。
『・・・何処へ行けば―・・・』
途方に暮れかけたその時、
〈葉子〉に案内して貰った《祠岩(ほこらいわ)》が脳裏に浮かぶ。
『あぁ・・・彼処へ行けば―・・・
《姫》に逢えるに違いない・・・』
そうほくそ笑むと、
〈小菅〉は迷う事なく当然のように漆黒に光る夜の海に飛び込んだ―・・・。
あれから此処でどれだけの時間を過ごしたのか、
その感覚さえ既に無かったが・・・。
遠くから、舟の近付いて来る音に
初めて気付く。
「・・・来た・・・」
〈小菅〉の口元が、
自然と微かに弛んだ―・・・。
獣道のような登りを上がって行くと、直ぐに拓(ひら)けて奉ってある《祠(ほこら)》が見える。
〈ミサキ〉がそこに足を踏み入れると、目の前の《祠(ほこら)》の石段には―・・・
頭(こうべ)を垂れ、膝を抱えてしゃがみ込む〈小菅〉の姿があった。
「・・・先生―・・・」
感極まる〈ミサキ〉の呟きに、
弾かれるように顔を上げた〈小菅〉は、そこに居た人物に驚愕する。
「・・・⁉️―・・・多嶋・・・ミサキ・・・⁉️」
充血した瞳を目一杯に見開き、
掠れた声で呟くが・・・それ以上にやつれ《不精ひげ》や髪がボサボサに乱れた、
その変わり果てた姿に〈ミサキ〉は立ち尽くしたままだ。
「・・・どうしてキミが・・・」
フラフラと吸い寄せられるように〈小菅〉は〈ミサキ〉に近付こうとするも、よろけて膝から崩れ落ち倒れてしまう。
「先生‼️」
瞬間、躊躇する間もなく〈小菅〉に駆け寄り・・・
肩を支える〈ミサキ〉に、
「・・・『灯台もと暗し』とは、この事だな―・・・。
まさか・・・キミが・・・」
〈小菅〉は嘲けた笑みを向けた。
「先生、いつから《祠岩(ココ)》で待ってはったんですか⁉️
・・・こんなになるまで―・・・」
この場所までどうやって来たのかは、〈ミサキ〉にも大方の予想は付く・・・にしても、
飲まず食わずで待っていたに違いがない《風貌》には心が痛む。
「・・・どうして・・・オレが、ココで待っている事が判ったんだ・・・?」
「何で―・・・って💧
ただ、《姫》さん待つんなら《祠岩(ココ)》や無いか・・・って思ぅたんです」
「・・・オレに『殺される』為に・・・?」
〈小菅〉はそう言うと薄ら笑いを浮かべ、
〈ミサキ〉の頬を優しく撫でた。
「ホンマに・・・《姫》の生まれ変わりの女性(ひと)殺したら、
先生の・・・《島長(しまおさ)》の苦しみから『解放』されるんですか―・・・⁉️」
〈ミサキ〉は潤んだ瞳(め)で真っ直ぐ見つめ、
自分の頬に触れている〈小菅〉の手に自身の手も添えて訊ねる。
その手の柔らかさと温かさに、
〈小菅〉の心が一瞬揺らいだ。
「―・・・葉子が・・・そう教えてくれた」
「葉子さんが⁉️」
自ら導き出しての『犯行』だと思っていただけに、
その名前が〈小菅〉の口から出るとは思ってもみなかった。
「・・・苦しむオレを救う為に―・・・自分を犠牲にまでして・・・」
「・・・エッ⁉️」
〈ミサキ〉の、
驚きに大きく見開かれた瞳から視線を外すと、
重ねられた手もスルリと離し・・・自分の《ジャケット》のポケットから《呪符》を取り出す。
「オレが・・・この『呪縛』から解放されないと―・・・
葉子の死が『無駄』になってしまうんだよっ‼️」
そう言うが早いか、
〈小菅〉は素早く〈ミサキ〉の首に《呪符》を巻き付け交差させた。
「・・・っ・・・‼️」
一瞬にして息が出来ない。
声を出したくても出せない〈ミサキ〉は、
必死の抵抗で足掻いてみせても男性の力に到底敵うハズも無い。
徐々に薄らいでいく意識の中で、
心配顔の《祖母》や舟で身を潜めて待ってくれているであろう〈泉〉の顔が次々と浮かんで来た。
死ぬ間際には思い出が《走馬燈》のように駆け巡ると聞いていたが、
こういう事なんだろう・・・。
そして最後には―・・・
夢の中の《姫(わたし)》と同調(シンクロ) するような苦しさに、
一筋の涙を溢すと―・・・
何故か哀しげな笑顔の〈サトル〉が思い浮かんだ。
『・・・サトルさん―・・・ごめんなさい・・・』
その時。
「止めろっ‼️その手を放せっ‼️」
〈サトル〉の叫ぶ声に、
〈小菅〉は驚き・・・咄嗟に交差させていた力が弛むとその隙を付き、
〈ミサキ〉は残った力を振り絞って〈小菅〉を突き放す。
―・・・その反動で、
思い切り後ろに転がるように離れた〈ミサキ〉は激しく咳き込んだ。
・・・声の主を探し、
辺りを必死で見回す狼狽した〈小菅〉は《祠(ほこら)》の裏側から現れた〈サトル〉を見付けると、
まるで《化け物》でも見るような目で戦(おのの)きワナワナと畏れ震えた。
「・・・貴方は・・・《姫》を殺す為に生まれ変わったんじゃないんだ・・・」
濡れた《ダイビングスーツ》姿に
髪からは幾つかの雫を垂らし・・・軽く息の上がった様子で、
二人の前に現れた〈サトル〉に驚いたのは〈ミサキ〉も同じだ。
「・・・サトルさんっ‼️・・・ココまで泳いで⁉️💦」
咳き込みながらも息を整えようと必死の〈ミサキ〉に、
〈サトル〉は脇目も振らずに近寄ると・・・介抱するように優しく肩を抱き、
〈小菅〉など眼中に無いかの振る舞いで、ただ〈ミサキ〉だけを気遣う。
「・・・まさか❗️ココまで船だと小菅(このひと)に気配を勘付かれてしまうだろうから、
途中まで連れて来て貰ったんだ・・・」
「・・・―お前は・・・一体何なんだ・・・」
自分の『正体』を見抜き、
その犯行の全てをも知っていながら何時も臆する事なく、
『平然と』した態度で現れる・・・
この正体不明の《青年》の存在が、不気味以外の何物でも無い〈小菅〉は、
怯えるように後退りしていく。
「・・・―そんなに・・・僕が、怖いですか―・・・⁉️」
自分の背に〈ミサキ〉を庇い、
護る姿勢は〈小菅〉を見上げる状態になる。
〈サトル〉はそれでも《殺人鬼》
を前にして尚、臆さず悲し気な眼差しを向けた・・・。
「・・・僕は貴方に刺されようと、怖がられようと。
どんなに『重い罪』を犯したとしても・・・。
《島長(あなた)》を『憎む』事が出来ないんです―・・・」
「・・・サトルさん・・・」
《病室》で語り合った『あの時』
も、同じ事を言っていた・・・。
広い背中に護られ、
その後ろ姿からでは〈サトル〉の表情(かお)を窺い知る事は出来ないが
語りかけるその声で判る。
「・・・何故なんだ・・・?」
そして〈小菅〉にも、
〈サトル〉のその言葉には嘘や偽りの綺麗事では決して無い『声』が痛い程に伝わっていた。
「・・・《海女伝説》には―・・・
《姫》や《島長(しまおさ)》さえも知らず―・・・
『言い伝え』にさえならなかった、小さな『真実』が一つあったんです・・・」
「・・・―⁉️」
「・・・エッ⁉️」
〈ミサキ〉は、
遂に語られるであろう〈サトル〉の《正体(そんざい)》に息を飲む。
『鼓動』を確かめる訳でも無いのに、自然にその背中に自身の両手を添えていた。
「・・・《姫》のお腹の中には―・・・
『赤子(こども)』が居たんです。
命を宿したばかりで・・・《母親(かかさま)》にも気付かれない程の・・・」
「・・・まさか―・・・」
〈ミサキ〉の呟きに、
〈サトル〉の鼓動が反応しているかのように掌(てのひら)に伝わって来る。
「・・・それが、『僕』です―・・・」
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