第14話◆約束
「・・・《島長(はんにん)》は必ず、《姫》の生まれ変わりであるミサキちゃんを殺しに来るでしょう―・・・それでも、怖くないですか?」
決して『脅し』で言っている風では無く〈サトル〉は真顔で〈ミサキ〉に訊ねた。
しかし、殺されるかも知れない―・・・と言われても、
まるで『実感(リアリティ)』が無い。
その『恐怖心』よりも・・・
《犯人(しまおさ)》を救いたいという『使命感』みたいな方が大きいのは、〈サトル〉に感化されてしまっているからなのか―・・・?
それとも、
自分の中にある《姫》の『想い』が強いのか・・・〈ミサキ〉には判らなかった。
「・・・不思議と全然、怖ぁないんです。それよりも『逢いたい』感情がいっぱいで―・・・。
私ん中の《姫》さんが、《島長(しまおさ)》に逢わせてくれ・・・って言ぅてるんかもって、思ぅてます」
〈ミサキ〉のその芯の強さに、〈サトル〉は心底驚嘆する。
「・・・大丈夫。僕が必ず『護る』から・・・」
そう言うも、
「ただし、『お願い』があります。
・・・敢えて《犯人》の名前は教えませんが、僕が《結子(すくね)》に戻るまで・・・決して一人で行動を起こさないで下さい」
〈ミサキ〉を真剣な瞳で見た。
「誰か判らんかったら、動きようがありませんから・・・(笑)。
そんなに心配せんといて下さい💦大丈夫です」
そう言って〈ミサキ〉は苦笑するが《犯人》が〈小菅〉だと知れば居ても立ってもいられずに、
きっと行動してしまうだろう。
それが判っているだけに、
〈サトル〉はもどかしい思いに駆られる。
そんな心情を覚(さと)ったのか、
〈ミサキ〉は〈サトル〉に言った。
「・・・安心して下さい。『約束』しますから・・・」
ふと、いつの間にか病室の窓が明るくなっている事に気付いた〈ミサキ〉は、
慌てて自分の病室へと帰って行ったが―・・・。
〈サトル〉の不安は消えるコト無く病室(へや)の明るさとは対称的に―・・・暗く広がりをみせて行く・・・。
『・・・小菅(あのひと)は今、どうしているんだろう・・・』
〈小菅〉が《姫》の『生まれ変わり』が〈ミサキ〉だと気付くのも、時間の問題だ。
『・・・明日さえ―・・・何とかなれば・・・』
今更ながら、自分の退院が一日延びてしまった事を、
〈サトル〉は酷く悔やんだ。
《祖母》が病室に入って来るなり開口一番、
「今日は《本島(こっち)》で、
買いモンして美味しいモンでも食べて帰ろか‼️」
と言い出し、
〈ミサキ〉は目を丸くした。
「・・・バァちゃん、どないしたん?」
いつもなら《本島》に来る事があっても用件だけ済ませてしまえば、とっとと《結子(しま)》に帰りたがる祖母(ひと)が・・・。
「・・・たまにはエエやろ?・・・それにアンタ、サトルさんに『お礼』の何かでも買ぅといた方がええん違うんか⁉️」
〈フミ〉に言われて初めて気付く。
「・・・‼️・・・ホンマやね💦
サトルさん、何やったら喜んでくれるやろか―・・・💧」
〈ミサキ〉は空を見つめぶつぶつと呟きながら悩み始める。
その姿を見て、
思わず〈フミ〉はニヤけた(笑)。
「ほれっ‼️・・・とっとと退院の支度して‼️・・・サトルさんのは私(うち)も一緒に考えたるさかい」
病院を去る間際に―・・・
〈サトル〉の病室を訪ねたが、検査で留守にしていて結局会えず仕舞いとなった。
『・・・僕が《結子(すくね)》に戻るまで・・・決して一人で行動を起こさないで下さい―・・・』
あの時の〈サトル〉の真剣な表情(かお)を思い出す。
『・・・大切な、とても大切な《愛しい人》なんです―・・・』
『僕はその《愛しい人》を護る為に生まれて来ました―・・・』
―・・・彼は・・・一体『誰の』生まれ変わりなのか・・・?
〈ミサキ〉は今朝から、
〈サトル〉の病室を出て以降・・・ずっとその事を考えていた。
『・・・僕は《僕》でしか無いんです―・・・』
「・・・―ボクは『ボク』・・・」
「何、訳の判らんコト言ぅてんの⁉️ハイ‼️タクシー乗るでっ‼️」
〈ミサキ〉の意味不明な『独り言』を制し、
《孫》を停車したタクシーに押し込むと病院を後にした―・・・。
〈ミサキ〉の病室へ迎えに行く前に〈フミ〉は〈サトル〉の病室へ顔を出している。
・・・その時に、
「今日は『最終便の船』で《結子(しま)》に帰って欲しい」・・・と、
〈サトル〉に頼まれた。
「そら、別に構わへんケド―・・・。
何ぞあんのかいな?」
「・・・無駄な『時間稼ぎ』でしょうか?💧」
訝(いぶか)し気な〈フミ〉に、
何処まで話せばいいのか躊躇う〈サトル〉はそう答えるしか無い。
しかし、
流石は『年の功』(笑)。
察しのいい〈フミ〉は呆れたように、
「・・・何や💧変なコトに巻き込まれてしもたんやなぁ・・・💧まさか、
ミサキも関係してんのんか?」
〈サトル〉を凝視すると、
何の言葉も発せぬままに小さく頷く。
それを見て、
〈フミ〉は深い溜め息を一つ吐くと
「・・・惚れた弱味やなぁ~・・・💧」
「・・・えっ⁉️💦」
〈サトル〉の間の抜けた声と呆けた表情(かお)をチラ見しつつ、
「アンタや無かったら『一喝』してるトコやけどな」
そう言い、続けて真顔で訊ねた。
「・・・ミサキ(あのコ)を護れる自信があるんやろね?」
「もちろん、です」
〈サトル〉も真摯な思いを込めて答える。
・・・すると、
それに根負けしたように〈フミ〉は苦笑すると、
「・・・判った。今、私(うち)に話せん『事情』があるんやったら、
ココの《病院代》立て替えといたるさかい、また・・・その《お金》返してくれる時にでも話してんか」
半ば自分にも呆れたのか、
最後は溜め息混じりでそう告げた。
「・・・ありがとうございますっ‼️」
〈サトル〉は深々と頭を下げると
その姿を見ながら、
〈フミ〉は沁々と吐露する。
「・・・ホンマに不思議な人やなぁ・・・初めて逢ぅた時から、どうも《他人》のような気がせんのや―・・・。
・・・ミサキは勿論やけど、
アンタもあんまり無茶しぃなや?」
『―・・・フミ(このひと)には敵わない・・・』
この《結子(しま)》に来てから、
思えばいつも肝心な所で自分を支え救ってくれている〈フミ〉に、
〈サトル〉は心から感謝をし・・・『熱いモノ』が身体の奥底から込み上げてくるのを我慢するのに精一杯だった―・・・。
《タクシー》の中で、
〈フミ〉が急に思い出したのか〈ミサキ〉に、
「そやっ‼️泉ちゃんから『《スマホ》が繋がらん』言ぅて、家(ウチ)に電話して来てたで?」
と教えると、
「・・・あっ‼️💦《電源》切ったままやったわ‼️💦」
・・・〈サトル〉を見舞うのに、
病院で《電源》をOFFにしたまま自身も一晩『入院』する羽目になった
為に、すっかり失念していた事に気付く。
慌ててバッグに放り込んだままのスマホを探し出すと、
《電源》を入れた途端に受信音がひっきりなしで鳴り続け、
〈ミサキ〉は思わず〈フミ〉と顔を見合せた。
「・・・何か大事な用事でもあったんかな?💧」
「ん?・・・そうでも無かったみたいやで?アンタが一日入院する、言ぅたらビックリしてたケドな(笑)」
「そんなんビックリするに決まってんやん‼️💦」
〈ミサキ〉が《祖母》を軽く睨み付けながらアプリを開くと、
【ミサキぃ~今、ヒマ?】
から始まる〈泉〉からのモノがズラズラと並んでいたが、
中々『既読』にならない事を心配したのか、
電話の着信履歴までも残っていた。
〈フミ〉は『そうでも無かった』と言うが、
流石に〈泉〉が自分に何か伝えたいコトがあったに違いないと感づく。
・・・すると、
今朝、登校する前に入れたであろう《メッセージ》に、
〈ミサキ〉は愕然とする。
【とりあえず言っとくね?】
【小菅失踪⁉️職員室大揺れ‼️】
【昨日は授業にならんかったよ】
【今日も大変かも・・・】
『・・・こんな時に何で―・・・⁉️』
その瞬間、
昨日の〈サトル〉の事を思い出す。
『どうして』そこまで《犯人》を構うのか、その『意味』さえも自分には教えてくれなかったが、
苦渋に満ちた表情は辛そうだった―・・・。
『・・・敢えて《犯人》の名前は教えませんが―・・・』
〈サトル〉は〈静香〉の《通夜》の時に〈小菅〉を見て知っている。
『ミサキちゃんの好きな男性(ひと)か・・・』
・・・まさか《先生》が―・・・⁉️
目まぐるしい程の速さで、
自分の感情と〈サトル〉の言葉が次々と頭の中で交差していく。
《タクシー》から降りる際には、思わず目の前が真っ暗になる『眩暈(めまい)』を起こし、
〈ミサキ〉は道端に崩れるようにしゃがみ込んでしまった。
「どないしたんや⁉️・・・また具合でも悪なってしもたんか?」
〈フミ〉が慌てて介抱しようと顔を覗くと、
真っ青な顔色の《孫》は縋るように瞳(め)を潤ませて、
「・・・バァちゃん、私・・・先に《結子(しま)》に帰ってもエエ?」
と、懇願して来た。
しかし、
〈フミ〉は迷わずキッパリと断る。
「アカン‼️・・・今日は最終の船で帰るて、《サトル君(あの人)》と『約束』したさかいにな」
「・・・サトルさんと⁉️」
自分の知らないトコロで《祖母》が〈サトル〉と、
そんな『約束』を交わしていた事にも驚いたが、
「・・・アンタも、何か『約束』したんと違うんかいな・・・?」
そう言われ、合点がいく。
『・・・ただし《お願い》があります。・・・敢えて《犯人》の名前は教えませんが、
僕が《結子(すくね)》に戻るまで―・・・決して一人で行動を起こさないで下さい―・・・』
〈サトル〉は《先生》が『犯人』だと自分が知れば、
きっと『こう思う事』も予見した上での『あの発言』であり、
更には《祖母》にまで頼む程の念の入れようで護ろうとしているのだ―・・・と・・・。
「・・・何で、そこまで―・・・」
〈ミサキ〉の絞り出すような言葉に、
「そんだけ・・・アンタを大事に想ぅてくれてんのと違うか・・・?」
〈フミ〉はそう言いながら優しく背中を叩く。
『・・・僕にとって―・・・《姫》の生まれ変わりのミサキちゃんも、
《島長(しまおさ)》の生まれ変わりである《犯人》も・・・大切な、とても大切な《愛しい人》なんです』
自身が傷付いてでも―・・・
思い遣り『護ろう』とする〈サトル〉は・・・一体、
どれだけの『想い』を自分達に抱(いだ)いているのか―・・・もう、計り知る事すら出来ない。
〈ミサキ〉はただただ切なくて、涙を止められずにいた。
「・・・バァちゃん・・・私、どないしたらエエのん?」
「今日は最終の船で、私(うち)と一緒に帰ろう。・・・明日になるんは直ぐや。サトル君、信じたげなアカンやろ?」
《祖母》の言葉に、
細かく何度も小さな頷きをしながら一緒に立ち上がる。
『・・・《先生》が―・・・《犯人》やなんて―・・・』
・・・信じられなかった。
〈葉子〉や〈静香〉を殺しただけでなく《結子(しま)》以外の人間をも殺害しようとし、
それを阻んだ〈サトル〉までが傷を負った―・・・その《犯人》が本当に、あの〈小菅〉なのか―・・・。
だが、〈ミサキ〉にも一つだけ。
ハッキリと判るコトがある。
それは―・・・
〈小菅〉が《島長(しまおさ)》の生まれ変わりであるという事。
自分の中に沸き上がる、
切ない迄の『愛しい』と想う感情はただの『恋心』だとかのレベルでは無く、
夫である《島長(しまおさ)》を求めている《姫》の気持ちそのものだと、今の〈ミサキ〉になら判る。
『・・・あの時も・・・』
無意識に〈小菅〉に触れていた自分を振り返った。
『私の中の《姫》さんが、あんなにも恋しくて求めてたのに・・・
《先生》の中の《島長(しまおさ)》は何も感じてくれへんかったんやろか・・・?』
そう思うと、
悲しくて気分も沈んでしまいそうになる。
自分が《生徒(こども)》故に気付いて貰えず、
〈葉子〉や〈静香〉達に《姫》の面影を見ていたというのなら、
〈ミサキ〉は居た堪れない。
『・・・《先生》は・・・どの位の苦しさを抱えて悩んでたん―・・・?』
《島長(しまおさ)》の苦しみを持って生まれた『原因』さえ判らずに
ただ、それから逃れたいが為に・・・
《姫》を重ねた結子(すくね)の《海女》を自ら殺めて―・・・。
『《姫》さんは私やったのに‼️』
考えれば考える程、
自責の念に駆られて胸が締め付けられる。
・・・そんな色んな感情は延々と涙となって止まらぬままだ。
傍に付く《祖母》も、
その〈ミサキ〉の尋常じゃない様子に数歩歩いては立ち止まり・・・を繰り返し、ゆっくりと《孫》を労っていたが、
「・・・何やったら、も一回・・・《病院》に戻るか?」
と、見兼ねて声を掛けて来た。
―・・・が、
当の〈ミサキ〉は頑(かたく)なにそれを阻んだ。
「・・・ゴメンね、バァちゃん・・・ゴメンね・・・」
・・・おそらく〈サトル〉は、
余計な心配を掛けたくないと《祖母》には《事情》を話してはいないだろう。
〈ミサキ〉もそう思っているだけに・・・自分の有り様の『説明』が出来ずにひたすら謝るしか無い。
況してや、
こんな状態で《病院》に戻ったりすれば〈サトル〉が尚の事、
心を痛めてしまうのは目に見えて判るだけにそれも絶対に出来ない。
「・・・もう💧何やの?アンタまでサトル君と同じ顔して―・・・。
二人して、何をそんなに秘めてんの
や・・・?」
〈フミ〉は、
自分だけが『蚊帳の外』に居る事にも不満があるが、
それ以上に『何の力にもなってやれない』でいる自分が、
一番に歯痒くて仕方が無い。
「・・・全部、私のコトやのに・・・サトルさん巻き込んだ上に、
バァちゃんまでは巻き込まれへん」
「何やて⁉️アンタが一番、関係したコトなんかいな⁉️」
〈ミサキ〉は黙って頷く。
〈フミ〉の呆れたような深い《溜め息》と共に、
「・・・アカン、辞めとこ💧また寿命が縮もぅてしまうから💧」
そう首を振りながら言われた言葉に「バァちゃん・・・」と《孫》は、
涙を枯らす事なく・・・更に『号泣』し兼ねない状況だ。
「そないに泣かいでもエエやんか
💦・・・アンタもサトル君も、
『それなりの覚悟』があるんでしょうが⁉️」
〈ミサキ〉は頷く。
「やったら❗️―・・・サトル君にも言ぅたケド・・・《無茶》だけはしぃな・・・な?
コレは、私(うち)との『約束』や、忘れなや?」
「・・・ありがとう・・・バァちゃん‼️」
感極まり、
《祖母》の胸元に顔を埋めるようにして、ワンワン泣く《孫》を、
愛しげに頭を撫でてやる〈フミ〉
に〈ミサキ〉もまた〈サトル〉同様・・・感謝しか無かった―・・・。
〈フミ〉は〈サトル〉と『約束』した通り、
最終便の船で〈ミサキ〉と一緒に《結子(しま)》へ帰っている。
「・・・明日は《学校》休むか?」
船の中で《祖母》に訊かれたが、
〈ミサキ〉は首を横に振り「行く」とひと言呟いたきり・・・それ以後、
会話をする事は無かった。
『・・・明日・・・サトルさん《結子(しま)》に戻って来たら―・・・
どないするつもりなんかな・・・?』
何か《心当たり》でもあるというのか・・・?
『明日、《学校》に行ったら・・・なんか手掛かりが見付かるかも知れん・・・』
失踪したと騒がれている〈小菅〉が、今回の《結子(すくね)》で起こった事件の《犯人》で・・・、
〈サトル〉を刺した事件の後、そのまま『行方不明』だと知っているのは〈ミサキ〉達二人だけだ。
『・・・《先生》・・・私が《姫》さんの生まれ変わりやて知ったら―・・・
どんな顔するんやろう・・・?』
この期に及んでも、
ただ純粋に『逢いたい』気持ちが勝っているからだろうか―・・・。
〈小菅〉の少し戸惑ったような笑顔を想像するだけで、
〈ミサキ〉は胸が熱くなった―・・・。
時は、それより少し前に遡る。
《病院》の面会時間終了間際に、
〈サトル〉の病室に先日の《刑事》二人が訪ねている。
「・・・意識が戻った⁉️」
〈小菅〉を脅迫していたあの《青年》が、つい先程意識が回復したという報告の為だった。
「・・・良かった―・・・」
〈サトル〉は素直に安堵する。
《被害者》が『死亡する』か『助かる』かで、
〈小菅〉の『罪』が大きく変わって来るからだ。
「・・・で?・・・彼は《犯人》の手掛かりになるようなコトは何か言ってましたか?」
〈サトル〉が何よりも一番気になるコトを単刀直入に訊ねるも、
二人の《刑事》は渋い表情(かお)をしたままなのが気に掛かる。
「・・・彼も『心当たり』が無いと?」
「アホな。アンタとは違うんや、そんな『言い訳』通るハズないやろがっ⁉️」
「・・・はぁ・・・💧」
背の低い恰幅(かっぷく)のいい《刑事》は、
初対面の時から〈サトル〉に対する態度が変わらない(笑)。
「何や・・・隠しとるんが見え見えやけど、《医者》が横に居るさかいに無茶も出来ん💢」
・・・《医師》が其処に居なければどんな事をするというのか―・・・💧
「・・・その愚痴を僕に言いたくて、
ココヘいらしたんですか?」
《嫌味(笑)》を言うつもりではなく、つい正直な気持ちが口に出る。
〈サトル〉に揶揄(からか)われたと思ったその《刑事》は、
顔を真っ赤にして怒り出す寸出で、
もう一人の体育会系の《刑事》に止められた。
「・・・キミは相変わらずやね(苦笑)」
そう言って苦笑するその《刑事》は改めて真顔になると、
〈サトル〉と向き合って尋ねる。
「どうやろう?あの時の《犯人》と《被害者》の事件の様子を、
もう一回話して貰えないかな?
・・・どんな些細なコトでもエエから思い出して貰えると助かるんやけど・・・」
「あの《青年(ひと)》の身元は判ったんですか?」
「・・・ん?・・・あぁ、市内在住の21歳〈市川拓也〉っちゅう専門学生や」
「・・・《専門学生》・・・ですか・・・」
《結子(すくね)》で殺害された〈瀧井静香〉の『彼氏』だというところまでは、
まだ《警察》も把握していないらしい。
〈静香〉の《父親》が通夜の席で『会わせてくれなかった』と言っていたが、
〈拓也〉という人物を思い浮かべると〈静香〉がそうしなかった理由も判る。
〈サトル〉がそう思うのと同じように恰幅のいい《刑事》も、
「《学生》や言うたかて、あの格好(ナリ)や。勉強どころか親のスネ噛った『ごく潰し』やろ💢」
と、苦虫を噛み潰したような顔をして愚痴る(笑)。
少々『若者』に対する《偏見》が過ぎるのかも知れない。
〈サトル〉は神妙な面持ちで、
且つ何処まで話せばいいのかを頭でフル回転させながら話し始めた―・・・。
「・・・僕は・・・ケンカみたいな怒鳴り声が聞こえて来たので何だろうと思って現場に行くと、
市川さんが《ナイフ》を持っていて・・・それを奪い取った《犯人》が逆に―・・・」
「⁉️・・・先に《凶器》を所持しとったんは《被害(ガイ)者》やて⁉️💢
・・・アンタ昨日は、そんなコト言わんかったやないかっ‼️💢」
「・・・えっ⁉️・・・そうでしたか?💧」
昨日はとにかく〈小菅〉のコトで『ショック』が大きく、
実は《刑事》とのやり取りの『記憶』すらロクに無い状態だ。
「・・・それで?」
《刑事》に促され、
〈サトル〉は慎重に答えていく。
「・・・《犯人》が立て続けに市川さんを刺しているのを見て、
助けないと―・・・と、咄嗟に飛び出して・・・」
「キミも傷を負ぅてしもうた訳か💧・・・その現場に直面してビックリしたやろう?怖ぁ無かったんか?」
「そりゃあビックリしましたよ⁉️💦・・・―でも早く助けないと死んでしまうんじゃないかと思って・・・」
「・・・ふうん。・・・―で?
その《犯人》の顔は見ていない?」
「ハイ・・・憶えていないです・・・」
半ば《尋問》に近いような『聴取』っぷりで、
その《刑事》は〈サトル〉を観察しながら楽しんでいるかにも見えて、何だか居心地が悪い。
すると、
互いに何やら『アイコンタクト』をした後、恰幅のいい《刑事》の方が 病室を出た。
「・・・キミは基本的に嘘が吐けん人間なんだろうね(笑)」
残った体育会系の《刑事》が、
そう言いながら自分の《名刺》を差し出す。
それを受け取り一瞥した〈サトル〉は驚いた。
「・・・《県警》の・・・『警視』さんだったんですか・・・💧」
「そんな《肩書き》はどうでもいいよ。・・・きっと『近日中』にキミからの《連絡》が来るのを待ってるから―・・・」
「・・・僕を『游(およ)がす』んですか⁉️」
自信たっぷりに、そう《警視》に言われ〈サトル〉は思わず非難めいた言葉を口にするが、
《警視》は気にもしていないのか
「ハハハっ‼️・・・そりゃあ《ドラマ》の中のハナシやろ?(笑)
《警察》はそないに暇やないからなぁ・・・💧」
と、一蹴した後、
「・・・ただ。キミが『何を』護ろうとしてんのかは判らない。
ケド、所詮は《素人》や・・・。
『限界』があるんや無いかなぁ―・・・と思ぅてね?」
意味深に〈サトル〉に微笑(えみ)を向ける。
『《警察》は何処までを掴んでいるんだろう・・・?』
〈静香〉の《彼氏》云々・・・は気付いていないにしても、
さっきの自分との『やり取り』だけで、この《警視》に『意味深』な物言いをされてしまうのだから、
これで〈拓也〉が〈小菅〉との一件を自白してしまえば、
『素人』と呼ばれた自分達よりも先に《犯人》を捕まえてしまうのは容易に違いない。
〈サトル〉は、
それだけはどうしても避けたかった―・・・。
もう一度・・・、
《名刺》に視線を落とすと観念したように、
「・・・判りました。必ず・・・〈吉野〉さんですね?ご連絡します―・・・」
「キミは《素人》なんやから・・・あんまり無茶したらイカンで?」
そんな〈サトル〉を気遣いながら〈吉野〉は《刑事》の顔になる。
「・・・ありがとうございます・・・」
〈サトル〉は礼を言いつつ、
「あのう💧どうして僕が『何かを隠してる』と思われたんでしょうか?」
気になり恐る恐る訊いてみた。
「(笑)。キミのそういう正直な性格かな?」
〈吉野〉は〈サトル〉に好感を持っているのだろう、
素直にそれに答える。
「・・・普通『事件現場』に居合わせた場合、《傷害》や《殺人》みたいな『自分の身の危険』も感じたら、
怖ぁなって逃げ出すか・・・もしくは息を潜めて様子見てるだけなモンや。ところがキミは、
驚いたケド『怖い』とは思わんと『助けたい』気持ちの方が強かった。・・・何でか?
そら《相手》を知ってるからや」
「・・・」
「・・・ただ。キミが不思議なんは、『助けたい』と言う言葉の使い方やな。《被害者》を知ってて『助けたい』―・・・違うやろ?
ホンマに誰なんか《身元》知らんかったみたいやからなぁ💧
―・・・やったら後は・・・」
「・・・・・・」
「・・・《犯人》を庇ぅたら立派な罪になるケド、キミのは『隠す』というよりかは、どっちかっちゅうたら『護りたい』みたいなニュアンスの方を感じるのがなぁ・・・💧
その『真意』は私にも汲み取れんケドどっちにしても・・・、
『最善(ええコト)』では無いんは判るよな?
キミはそこまで『バカ』や無いハズや。―・・・だから、
《連絡》が来るんやないかと思ぅてね?」
〈吉野〉は一頻(ひとしき)り、
そう話すと〈サトル〉の様子を窺いながら微笑(わら)った。
「・・・そうですね」
・・・自分が『素人』なら、
流石は《警察》は『プロ』だ。
〈吉野〉の見解に〈サトル〉は、ぐうの音も出なかった―・・・。
「・・・明日中には―・・・必ず・・・」
〈サトル〉の降参したような声に
「賢明やな」
満足げに一言、
〈吉野〉はそう言うと《病室》を後にした―・・・。
『・・・―明日・・・』
明日中に〈小菅〉に逢えさえすれば―・・・。
〈吉野〉が言うように、
〈サトル〉は別に〈小菅〉を庇い逃すつもりは毛頭ない。
犯した《罪》は償って欲しい・・・と、心からそう願っている。
『・・・《島長(あなた)》に逢いたい―・・・』
〈小菅〉に伝えたい肝心なコトをまだ言っていない。
夜が明けて《明日》が来る事を、
息を潜ませるように―・・・。
〈サトル〉はただ、じっと待っていた―・・・。
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