第11話◆混沌とした真実
『・・・本当に、このままでいいのか・・・?』
あの日以来、
帰りの船の中で〈小菅〉はいつも考えていた。
自分の為に全てを投げ出し、
身を潜めるように日陰の生活を強いられている〈葉子〉が『不憫』に思え胸が痛かった。
・・・が。
そう思う〈小菅〉自身、
彼女に『依存』するように毎夜の『逢瀬』を重ねている。
そこに《恋愛》としての感情が、
あの出会った時からハナから無かった事にも今更ながらに『後ろめたさ』があったのだ。
『・・・同じじゃないか―・・・』
苦しみから逃れたい気持ちから《競泳》にのめり込んだ時と同様に、
今度はまた〈葉子〉へと逃げている己れの『弱さ』が憎かった・・・。
『・・・彼女は気付いているんだろうな―・・・』
〈葉子〉の自分に対する『愛情』は男にとっては重い程、深かった。
・・・かと言って、
『邪険』に扱うだけの勇気もない。
未だに苦悶し、
もはや『強迫観念』と化した《闇》に襲われ喚き暴れた時でさえ〈葉子〉は必ずそれを受け止め、
落ち着きを取り戻すまで抱き締め続けてくれていた。
その甘美なまでの大きな優しさは《母》以上のモノであり、
自分の全てを委ねられる『安心感』は、
やがて当たり前のように無くてはならない《存在》として、
『依存』した関係になってしまっていたのだ。
『・・・このままで・・・いい訳、無いじゃないか―・・・』
〈小菅〉の不安は日に日に増していくのだった―・・・。
そんな〈小菅〉の『愁い』とは裏腹に、
〈葉子〉は自分がどんどん『開放』されていく悦びに満ちていた。
《家庭》を捨て《結子(しま)》をも出てしまった事に対しての『後悔』すら微塵も無い
今までの自分からは想像も付かないこの『現実』を、
不思議に思いながらも・・・毎日が充実感に溢れて幸せだった。
〈小菅〉との関係を誰にも邪魔されずに済むのならどんな事をしても構わない。
それが証拠に、
自慢だった長い黒髪を自らの手で短く《ショートカット》にまでしたのも、
例え《本島》に身を隠そうと・・・万が一にも《結子(しま)》の人間に見られた時に、
直ぐ様『甲田の嫁だ』とバレないようにする為だ。
毎夜、仕事が終われば自分の元へ来てくれる〈小菅〉が待ち遠しくて堪らない・・・。
あの逞(たくま)しい躰に抱かれる悦びも、
普段は決して誰にも見せないであろう脆くて弱い愛しい姿も――・・・。
とにかく『独り占め』しておきたかったのだ。
しかし、
何よりも一番嬉しいのは自分が〈小菅〉に必要とされていると『実感』出来る事である。
〈葉子〉自身のこの『想い』程、
〈小菅〉に想われていないであろうと重々承知の上で。
それでも毎夜逢いに来てくれるその優しさこそが、
夫の〈圭司〉にも無かった『自分への慈愛』だと信じていた。
『・・・もっと愛されたい―・・・』
あの時、あの船で出逢ったのは《運命》だった―・・・。
『私は・・・小菅(あの人)を救う為に生まれて来たんかな・・・?』
そう思うも、
未だに《闇》に苦しむ〈小菅〉を『解放』出来ずにいるもどかしさは否めない。
『・・・一体、どないしたら・・・』
そこで、不意に〈葉子〉が呟く。
「・・・私がホンマに、その為に生まれて来たんやったら―・・・小菅さんは『私と出逢う』為に・・・?」
・・・〈小菅〉が《海女伝説》の《島長(しまおさ)》の『生まれ変わり』だという事は判っている。
では、その《島長(しまおさ)》は何故今になって〈小菅〉となり、
自分とこうして出逢ったんだろうか―・・・?
・・・今の〈葉子〉には、
充分過ぎる程の考える時間がある。
極力、人目に付かないように《ホテル》から出る事は無かったからだ。
〈小菅〉と過ごす時間以外は、
次第にそのコトだけで頭がいっぱいになり始めていた。
そんな〈葉子〉の様子に、
流石の〈小菅〉も何か変だと気付き声を掛けるも、
その度に何事も無いかのように振る舞われてしまう。
「・・・今の生活が辛かったら・・・《結子(すくね)》に戻ってもいいんだぞ?」
労(いたわ)る甘い声が耳を擽(くすぐ)る感じでさえ『嬉しい』と思う〈葉子〉は、
素直に言葉にする。
「・・・何も辛いコトなんか、あらへんよ?―・・・私、今ホンマに『幸せ』やもん・・・」
そう言って、
恍惚な微笑(えみ)を〈小菅〉に向けると求めるように深い《キス》をした。
それをまた拒めぬままの、
弱い自分を責めながらも『応えてやりたい』という、男の本能が〈小菅〉を伏せ負かす。
―・・・既に知り尽くした〈葉子〉の身体を愛しむ愛撫が、
やがては己れが味わうが如く夢中に弄(まさぐ)り始め出すと、
それを待っていたかのように悦ぶ〈葉子〉の身体も・・・敏感さを増し、熱い吐息がその都度洩れた。
時間が経つ程に、
互いは昂揚(こうよう) し・・・我を忘れて貪(むさぼ)り絡み合うと、
〈小菅〉は更に〈葉子〉を喜悦の世界へと誘わんとばかりに、火照る躰を一心不乱に突き動かし続ける。
『このまま繋がってたい・・・‼️』
〈小菅〉の激しさにも離さずにいる〈葉子〉の両手に一段と力の籠った、その瞬間――・・・
二人して昇り詰めたまま、緩やかに堕ちて行くのである・・・。
〈葉子〉は寝ている〈小菅〉の髪を掻き上げるのが好きだった。
・・・そうしながら、
何故〈小菅(このひと)〉だけがこんなにも苦しまなければならないのだろう?
―・・・そう思う度、涙が溢れて止まらない。
ただ《島長(しまおさ)》の『生まれ変わり』というだけで―・・・。
『・・・《姫》は生まれ変わって来てるんやろうか―・・・』
自分の『想像』が徐々に纏(まとま)り始める《糸口》に気付く。
『私の―・・・私の、この想い・・・』
〈小菅〉へのひたすらに一途なこの《愛情》は・・・
愛する夫を想う《姫》そのものなのでは無いだろうか?
『・・・あぁ・・・そうやわ、そやから私―・・・こんなにも小菅さんのコトが好きで仕方ないんと違う?』
ならば、
《運命的》な出逢いにも合点がいく。
一度そう考えてしまえば、
何もかもが面白いように『一つの線』に繋がって行き、
思わずゾクゾクと背筋が寒くなって来た。
『私が《姫》の生まれ変わり・・・』
〈葉子〉の中で少しずつ何かが崩れ始めようとしていた――・・・。
〈小菅〉が始めに『おかしい』と気付いた時点でしっかりと向き合っていれば―・・・
もしかすると状況も変わっていたかも知れない。
その後の〈葉子〉の様子は一見普通にも思えたが、
日を追うにつれ情緒が不安定になって行くのが〈小菅〉にも明らかに判るようになっていた。
―・・・そして、あの日。
〈葉子〉の口から思ってもみなかった言葉を聞かされるのである。
「・・・あのね、小菅さん・・・怒らんと聞いてくれる・・・?」
風呂上がりで《バスタオル》を纏(まと)った〈葉子〉は、
ベッドに腰掛ける〈小菅〉の隣に座ると真剣な眼差しを向けて来た。
「・・・どうしたの?改まって・・・」
〈小菅〉は思わず苦笑したが〈葉子〉は何処までも真剣だ。
「何?・・・どうしたの?」
流石に気になり〈小菅〉までもが真顔になる。
ここ最近の様子は確かに変だったが、
気にしつつも声を掛けるのが怖かった・・・。
『―・・・今の生活が辛かったら《結子(すくね)》に帰ってもいい・・・』
何時だかそんな事も言ったりもしたが、それは〈小菅〉の『本心』ではない。
依存的であっても、
今や〈葉子〉の居ない生活は考えられなかったからだ―・・・が。
「・・・戻るか?《結子(しま)》に・・・」
惜しむように口にした。
「えっ⁉️」
〈葉子〉は目を丸くし驚くも、
〈小菅〉の淋しげな表情に満足そうに微笑むと明るく否定する。
「嫌やわぁ・・・そんな今更。そんなんや無いよ?」
そう言って〈小菅〉の前髪に触れると優しく掻き分けながら続けた。
「・・・もっと真面目なハナシ。小菅さんの『闇退治』のコト」
「えっ⁉️」
〈小菅〉は驚いた。
「・・・私ね?ずうっと考えてたんやけどね。
小菅さん《島長(しまおさ)》の生まれ変わりやのに、それが『原因』で苦しめられるんは何でやろう・・・て―・・・」
〈葉子〉の掻き分けていた手は、
そのまま〈小菅〉の顔の輪郭をなぞる。
「絶対、『苦しむ』為に生まれて来たんと違うハズ。・・・そしたら『何の為に』生まれ変わって来たんやろう―・・・って思ぅてたら、私、気付いたんよ」
「・・・何を・・・?」
〈小菅〉は息苦しい思いに駆られ始めた。
「・・・きっと―・・・昔も今も《姫》さんが怖ぁて仕方がないから『苦しい』ん違う?」
「・・・⁉️」
「だって《島長(しまおさ)》だけが生まれ変わって、《姫》さんは生まれ変わって無いなんて・・・変でしょ?」
「・・・葉子・・・何が言いたいの・・・?」
〈小菅〉の『不安感』に気付きながらも〈葉子〉は構わずに、
「・・・何処かで生まれ変わってる《姫》さんを殺してしまわな・・・小菅さんは、この先もずっと苦しい思いをしていかなアカンのんと違うかな―・・・」
「何を馬鹿な・・・っ‼️」
〈小菅〉は思わず立ち上がり声を荒げるも
自分を見上げる〈葉子〉の、
その瞳いっぱいに涙を浮かべて微笑む姿に絶句する。
「私―・・・何でこんなにも小菅さんのコト好きなんか、不思議やったの。でも、あるコト考えたら『納得』出来た・・・」
「・・・まさか・・・」
〈葉子〉の言わんとする意味に愕然とする。
「私は・・・小菅さんを救う為に生まれて―・・・ううん、『生まれ変わって』来たんやって」
そう言うと、
〈小菅〉にあの時の《呪符》を差し出した。
「だって・・・ホンマに『運命的』な出逢いやったもん―・・・」
〈葉子〉がスッと立ち上がると、
纏(まと)っていた《バスタオル》は、その躰を舐めるようにしてハラリと床に落ちる。
しかし、
気にも留めず《呪符》を〈小菅〉の手にしっかりと持たせて、更に続けた。
「長い間・・・いっぱい辛い思いさせてゴメンね―・・・でも、それも今日で『おしまい』」
茫然と立ち尽くす〈小菅〉の肩にゆっくりと両腕を回すと、
〈葉子〉はいつもと同じように深い《キス》をした。
「・・・貴方に殺されるのなら『本望』よ、私」
何度も抱かれた――・・・、
その逞しい躰とも別れなければならない。
それを惜しんでいるのか、自身の裸体を密着させて・・・。
「・・・オレがキミを―・・・」
〈小菅〉は小刻みに震えているばかりで〈葉子〉には触れようともしなかった。
「・・・そんなコト・・・出来るハズが無いだろう・・・?」
息をするのも辛そうに、ただ言葉を絞り出す。
「《姫》の『生まれ変わり』の私を殺さんと、何時まで経っても・・・その『苦しみ』から解放されへんのよ・・・?」
「いや―・・・違う。そんなハズが無い‼️」
「ホラ・・・『殺せ』。《姫》を『殺してしまえ』」
「辞めろっ‼️」
〈葉子〉は耳元でそう囁くも、
〈小菅〉は硬く目を瞑ったまま必死に首を振り抵抗し続ける。
その健気な姿に、
判っていても涙が溢れて止まらない〈葉子〉は切なげに微笑むと、
覚悟を決めて―・・・自分が生きて来た中で発した事もない、低い声で『最期の言葉』を囁いた。
「・・・《姫(わたし)》に殺されたいの?」
一瞬にして空気が凍る。
足の爪先から全身に寒気が走ったと同時に、激しい動悸に襲われ息も出来ない。
ザワザワとしたあの漆黒の《闇》は〈小菅〉の気付かぬ内に躰に纏わり着くと、
毛穴という毛穴から身動きの出来ない身体の中に『侵食』し始めた。
『オレは・・・殺されるっ‼️』
―・・・その後の『記憶』が無い。
ハッと我に返った時には、
あの《呪符》を手に〈葉子〉の首を絞めている最中だった。
「―・・・っ‼️」
言葉にならない声を上げながら、
〈小菅〉は慌てて《呪符》を放り投げると〈葉子〉を抱き上げた。
・・・薄らいで行く意識の中、
正気に返った〈小菅〉に気付いた〈葉子〉は、
遺された力を振り絞り・・・手を伸ばして〈小菅〉の前髪に触れようとするも―・・・、
その寸出で事切れた。
「・・・葉子っ‼️」
自分の腕の中でしなる、
白い綺麗なその裸体は二度と息を吹き返す事は無かった――・・・。
頭の中が『真っ白』なまま―・・・
あの後。死んだ〈葉子〉をどうしたのか、
どうやって家まで帰って来たのかも、
全く覚えてはいない。
『・・・コレでオレは《解放》されたのか―・・・⁉️』
その《答え》は〈小菅〉自身が一番よく知っていた。
「・・・クッ・・・クッ・・・」
しゃくり上げる声は泣いているのか、嘲笑(わら)っているのか―・・・。
己れの罪の深さに〈小菅〉は打ちのめされていた。
自らを犠牲にしてまでも『救いたい』と願ってくれた〈葉子〉は、
結局は《姫》の『生まれ変わり』でも、
何でも無かったのだ―・・・。
『・・・遂にオレは《人殺し》か・・・』
積年の苦しみから解放されたいが為に大切な〈葉子〉を喪ってしまった。
『絶対、苦しむ為に生まれて来たんと違うハズ・・・』
〈葉子〉は確かに、そう言ってくれた。
『・・・そしたら何の為に生まれ変わって来たんやろう―・・・て思ぅてたら、私、気付いたんよ』
どれだけ自分のコトを思い、考えていたのだろうか?
『・・・何処かで生まれ変わってる《姫》さんを殺してしまわな・・・小菅さんは、この先もずっと苦しい思いをしていかなアカンのんと違うかな―・・・』
「・・・そうだよなぁ――・・・」
〈小菅〉は今更ながら、
込み上げてくる哀しみに涙が止まらなかった。
『・・・《姫》さんを殺してしまわな―・・・』
「―・・・あぁ。オレが解放されなきゃあ・・・葉子は『無駄死』になっちまうよなぁ・・・」
『・・・《姫》さんを殺してしまわな・・・』
「あぁ、判ってるよ・・・。葉子――・・・」
〈小菅〉の中で〈葉子〉の言葉が繰り返されていく内に・・・
『心の箍(たが)』が、音を立てて外れた気がした。
「オレは『その為に』生まれて来たんだからな・・・」
〈瀧井静香〉とも出会ったのは帰りの船だった。
深刻な面持ちで《デッキ》に佇んでいる所を、〈小菅〉の方から声を掛けた。
お互いの面識は無かったが、
〈静香〉は今月の《広報誌》に掲載され、ちょっとした『時の人』だ。
見知らぬ人間に声を掛けられる事も多くなっていたのだろうか、特に警戒もしないでいた。
すると、
〈小菅〉が《母校》で『産休教師』をしていると知り、〈静香〉は懐かしさもあって気を許したのか――・・・一気に距離が縮まると、
自分から身の上話を始めた。
どうやら最近、《本島》に居る《彼氏》と上手くいっていないと言う。
〈小菅〉にしてみれば他愛のない『どうでもいい話』だが、親身になって聞いていたのが効を奏したのか、
軽い誘いに〈静香〉はあっさりと乗って来た。
それは《彼氏》に対する『当て付け』のつもりだったのか、
ただ、単に『年上の男性』に心惹かれたのか――・・・。
『・・・《姫》さん殺してしまわな・・・』
「・・・―判ってる・・・」
「エッ⁉️・・・何?」
〈小菅〉の小さな呟きに気付き、
〈静香〉が訊ねるも、それに答える様子もなく・・・軽く唇を重ねた後、意味ありげに微笑んだ――・・・。
「・・・エッ⁉️帰るのん?💦」
てっきり、
何処かの《ラブホ》にでも行くものだと思っていた〈静香〉は、
あからさまに非難めいた声を上げた。
「当たり前だろ⁉️『卒業生』ったってキミは未だ《未成年》だし、オレは《現役教師》なんだから」
その『正論』も、平然とした態度も憎らしい。
〈静香〉は自分一人で舞い上がった感が否めず赤面した。
「・・・ホラ、そういう正直なトコ(笑)」
と、軽く〈小菅〉が微笑(わら)う。
「キミがそんなだから―・・・今日は、もう《彼氏》に会わないで帰った方がいいよ」
―・・・確かに。
こんな状態で会ったとしても、また無駄なケンカをしてしまいそうだ。
「・・・期待させた罰に、家(ウチ)まで送るよ」
「エッ⁉️・・・そんな・・・小菅センセが無駄足になるやん💦」
「・・・だから言ったろ?『期待させた罰』だって(笑)。・・・それに独りで船に乗って帰るんじゃあ、キミも淋しいだろ?」
〈小菅〉はそういうと、
〈静香〉の頭を軽く撫でる。
「・・・センセ―・・・」
〈静香〉は素直に嬉しかった。
「いや―・・・本当は『抱きたい』よ?(笑)・・・だけど、キミが悩んでいる内は《彼氏》に対する『想い』がまだある証拠だろ?・・・なら、キミはきっと『後悔』するだろうからね」
「・・・センセ・・・」
〈小菅〉の優しさが、
撫でる手付きで伝わって来る。
〈静香〉は、
自分もだが・・・《彼氏》も年上のくせに、いかに『男性』として未熟かを〈小菅〉を通して感じていた。
『私は、何であんな《彼氏(オトコ)》の為に悩んでたんやろ?💧』
ついさっきまで、
深刻に悩んでいた自分が馬鹿馬鹿しいとさえ思う。
『・・・《彼氏》と別れたら、センセは私と―・・・』
既に気持ちが切り替わり(笑)、
〈静香〉のなかでは『答え』は出ていたが〈小菅〉の言葉に甘えてみたい。
「・・・ホンマに家まで送って行ってくれんのん?」
「あぁ。・・・但し、オレの車で送るから《北結子(きたすくね)》行きのフェリーを経由するぞ?・・・時間、遅くなっても大丈夫か?」
「全然OK‼️・・・めっちゃ嬉しい❤️」
少しでも、一緒に長く居られるのなら充分だ。
〈小菅〉の車に嬉しそうに乗り込んだのが、
〈静香〉の最期の姿になった―・・・。
〈小菅〉は暗い部屋の中・・・
肩で大きく息をしながら壁を睨み続けていた。
鞄を投げ付けたその壁には、傷跡が残っている。
「・・・オレは『その為に』生まれて来たんだよ―・・・」
〈小菅〉は小さく自嘲しつつ、
自分に言い聞かせた。
コレは『逃げる方法』ではなく、己れの『助かる方法』なのだと。
・・・間違っているハズは無い。
〈葉子〉はその為に―・・・自らの命を賭したのだから―・・・。
その時、
《玄関》のチャイムが鳴った。
こんな時間に新聞のセールスでさえ来ないのに、
チャイムは〈小菅〉が反応するまで執拗に鳴らされる。
荒い呼吸を整えつつ玄関のドアを開けると、
見知らぬ《青年》が立っていた。
「・・・センセん家、やっと見ぃ~付けた🎵」
ニヤニヤしながら《ガム》を噛んでいるその耳障りの悪い音に―・・・
〈小菅〉は聞き覚えがある。
・・・自然と口角が上がっていた。
〈ミサキ〉の家に、
『確認の為』と称して《漁協組合》
からの連絡が入ったのは、
〈サトル〉が居なくなってから2日も経っての事だった―・・・。
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