第5話◆不思議な来客
いわゆる《帰宅部(笑)》と称される、
何処のクラブ活動にも属していない〈ミサキ〉は、いつもなら同じ《帰宅部》である〈泉〉と共に下校するが、
今日ばかりはマイペース(笑)の〈泉〉にシビレを切らし、彼女を待たずして早々に一人で下校し家路を急いだ。
やはり、今朝からの〈葉子〉の件が気になって仕方が無かったからだった。
少しでも何かしらの『情報』を得るべく、《祖母》から色々と話が聞きたいと思い、帰って来た家には――・・・
その姿が無く・・・ガランとしたままで〈ミサキ〉は思わず拍子抜けしてしまう。
いつもなら漁も済み、
既に帰宅している時間のハズなのだが―・・・
もしかしたら、
〈葉子〉の事で色々と大変なのかも知れない。
仕方なく先に二階の自分の部屋に上がり、着替えを済ませたそのタイミングで、窓の外から家の門を開ける音がした。
『帰って来たっ‼️』
急いで〈ミサキ〉は階段を降り、
駆け出したまま勢いよく玄関のドアを開けるが早いか、
「バァちゃんっ‼️聞いたぁ⁉️・・・葉子さんがっ―・・・‼️」
と、ほぼ悲鳴に近いような声で尋ねた。
―・・・するとそこには、
怪訝な顔をした《祖母》と――隣には見知らぬ《青年》が目を丸くして立って居るのが目に入り、
〈ミサキ〉は慌てて口を噤む。
「・・・何やの⁉️ハシたないっ‼️・・・サトル君が、ビックリしてるやないのっ‼️💢」
《祖母》の一喝にふて腐れている〈ミサキ〉の仕種が、まるで《子犬》が飼い主に叱られてションボリしているように見え、
何とも可愛らしく感じてしまう。
〈サトル〉は思わず小さく吹き出してしまった。
そんなクスクスと笑い続ける《青年》を、
〈ミサキ〉は恨めしそうに上目遣いで軽く睨んでみせる。
『・・・このヒト・・・――誰なんやろ・・・?』
《結子(すくね)》の人間では無い事は判るが、
この〈サトル〉と呼ばれる《青年》が、
やけに《祖母》と親しげなのが気になった。
『バァちゃんに気に入られるってどんなヒトなん⁉️💦』
〈ミサキ〉はマジマジとその《青年》を見つめた。
つい『可愛い子犬(笑)』に例えてしまったが、目の前にいるあどけない《少女》の自分に向けられた『ガン見』に近い(笑)その視線は――・・・
流石にチクチクと刺さるように痛い。
が、
〈サトル〉はそれに対して嫌がる気配も見せず、人懐っこい微笑(えみ)を返した。
『・・・‼️💦』
その意外な《青年》の行動で、
〈ミサキ〉は逆に己れの『不躾さ』に気付き瞬く間に、真っ赤になったであろう火照った顔を隠すように俯いた。
『・・・《芸能人》なんやろか・・・?💦』
そう思ってしまう程、
〈サトル〉の端整なルックスは勿論のコト、今みたいな自分に対する対応や所作が人並み外れている気がする。
『神対応』とは、こういう事を言うに違いないと初めて実感したが、
この《結子(すくね)》に何かしらの番組ロケの撮影隊が来る――・・・となれば、
数日前から島ではその話で持ちきりになるハズだが、〈ミサキ〉は一切耳にはしなかった。
最近は、芸能人が『仕掛人』になって《一般人》に『ドッキリ』みたいな事をしている《番組》も、よく見掛けるのを思い出す。
『・・・まさか《それ》なん⁉️💦』
こんな小さな地方の島で《芸能人》に会える機会なんて、
『絶対』と断言出来る程(笑)有り得ないだろう。
〈ミサキ〉の中で既に《芸能人(笑)》化している〈サトル〉への『好奇心』が芽生え、
何処かしらに《カメラ》があるかも知れないとキョロキョロと辺りを窺い始め、
その『妄想(笑)』が暴走しかけていた直後、
「今日からサトル君、ウチに泊まるから」
「・・・エ"ッッ⁉️」
突然の《祖母》の言葉に、
〈ミサキ〉は自分でも聞いたコトの無い変な声を発してしまった。
驚いて、
冗談だろうとチラッと〈サトル〉に目線を向けたが――・・・
そこには複雑な(笑)表情(かお)をして申し訳なさそうに小さく会釈する《彼(せいねん)》がいた――・・・。
――自分の家のハズなのに、
まるで余所のお家に『お招ばれ』でもされているようなそんな不思議な『ぎこちなさ』を感じてしまったのは、ほんの一瞬だけだった。
いつもなら《祖母》と向き合う二人だけの食卓に、今日は見知らぬ『他人』が加わっているというのに――・・・
その『違和感』のない雰囲気が、
〈ミサキ〉の感じた『微妙な緊張(笑)』をも取り払ってしまっていたのである。
『・・・もしかして遠縁の《親戚》⁉️💦』
自分の前に座り《祖母》の手料理を本当に美味しそうに頬張る〈サトル〉は、
どこから見ても『親戚のお兄ちゃん(笑)』としか思えない。
それほど立ち振舞いがあまりに自然で、それでいて『礼儀』もキチンとしていたりと、妙な感心さえしてしまう。
しかし。
それが〈サトル〉なりの『気遣い』だという事が、《祖母》は判っていたらしい。
だからこそ、
この好青年を招き入れた――と、後になって〈ミサキ〉は聞かされたのである。
「・・・泊まるトコ、無いんやったらウチに来るか?」
《漁協》の待ち合い室で、
海女達との談笑中に最年長の《海女》が〈サトル〉に声を掛けた。
「えっ⁉️―・・・いいんですか?」
満面の笑みで『渡りに船』とばかりに喜ぶ。
「《本家》に呼ばれるんやったら色んな話が聞けてエエんちゃうの?(笑)」
その場に居た他の海女達も賛成した。
〈サトル〉は自分の無知を前提に《海女》や《結子(すくね)》に関するあらゆる事を質問し、逐一細かくメモを取っていた。
《大学》の『卒論』に活かしたいと言う。
海女達も、
〈サトル〉のその純粋さに惹かれながら、親切に教えていた。
「・・・何や、フミさんやミサキちゃんが羨ましいわぁ~💦」
海女の一人が、
つい正直な(笑)気持ちを口にした。
「・・・ミサキちゃん・・・?」
この場所で、今初めて耳にする《名前》に敏感に反応した〈サトル〉が〈フミ〉を見ると、
「・・・―孫。私(うち)の若い頃にそっくりな美人や✨」
その言葉に、他の海女達は大笑いをしているが――・・・
それとは反対に愕然とし、
青ざめた顔をした〈サトル〉は『異議申し立て』よろしく慌てて言った。
「お孫さんがいらっしゃるなら‼️💦
僕がお宅に『泊まりに行く』のって、ヤバいんじゃないですかっ⁉️💦」
「・・・何や💧顔も見んうちに狙ぅてんのかいな?(笑)・・・―《男前》は敵わんなぁ~💧」
〈フミ〉のあっけらかんとした態度に、
周りの海女達は身体を捩(よじ)って大爆笑しているが、
当の〈サトル〉はそれどころではなく、顔を紅潮させ真剣に憤慨している。
その様子を見て――・・・
今のこの『ご時世』に未だこんな純朴な《青年》がいるものなのかと〈フミ〉は心底感心し、
「・・・―アンタやなかったら、こんなコト言ぅて無いがな・・・」
〈サトル〉に優しく微笑んだ。
『――・・・。』
・・・――確かに。
いくら地方の素朴な土地柄であっても、高々この数時間。
会って、話をしただけの『得体の知れない自分(にんげん)』を、
自分の家に泊めてやろう――・・・なんて物騒な事を、そう簡単に決めたりは『通常』有り得ない。
『・・・―あぁ・・・』
この女性(ひと)は、自分を『ちゃんと』信用してくれているんだ――・・・。
そう思うと、途端に胸が熱くなって来た。
「・・・ありがとうございます。お世話になります‼️」
〈サトル〉は心から『感謝』をし・・・――、
〈フミ〉に深く一礼をした。
「・・・―全国、旅してはるんですか⁉️」
夕食を終えても、
〈サトル〉から語られる色んな話の内容は、〈ミサキ〉には未知のモノばかりで飽きるコトが無い。
「《全国》ではないよ💦それは大袈裟💦」
苦笑しながら照れる仕種もやっぱり《イケメン》にしか見えない(笑)。
「・・・僕は、ただ《海女》さんのコトが色々知りたくて、『所縁の土地』を訪ねて周ってる――・・・って、だけのハナシで💦」
「・・・―でも、何で《海女》なんですか?」
〈ミサキ〉がそう思うのも当然だろう。
〈サトル〉も丁寧に答える。
「僕自身が、海が好きで《スキューバダイビング》のライセンスを持っているのが『きっかけ』かも知れないんだろうケド・・・」
と、一瞬間を置いて、
「『潜る』事を生業(なりわい)にしている職業って、他に何があるんだろう―・・・って考えたら、パッと(笑)《海女》が浮かんで。
僕の専攻の《海洋生物学》も相まって色々調べてみたら、コレが堪らなく魅力的に思えてきちゃってね―・・・」
我ながら、その単純な発想と思考能力に呆れたのか、
〈サトル〉は恥ずかし気に微笑(わら)った。
「・・・―『潜る』仕事・・・」
〈ミサキ〉は独り言のように呟く。
・・・――そうなのだ。
《海女》は『潜れてなんぼ』の職業なのに―・・・自分の『不甲斐なさ』が本当に悔しかった。
そう、〈ミサキ〉は泳げない。
正確に言えば水に『潜れない』のだ。
かと言って、
別に《水》が怖い訳じゃない。
だから泳ごうと思えばとりあえずは泳げるのだが――・・・
傍からの意見によると、
それは『溺れている(笑)』風にしか見えない―・・・との事だった。
それが、
〈ミサキ〉の大きな《コンプレックス》なのである。
さっきまでのキラキラした様子が一変、
沈んだ表情になった〈ミサキ〉に気付きつつも〈サトル〉は別の話を始めた。
「《伊勢志摩》に行った時に《海女》の事が知りたいのなら、この《結子(すくね)》がいいと、そう教えられて来たんですが・・・」
「・・・―《結子(ココ)》が『海女発祥の地』やからやろ」
夕食の洗い物を済ませた〈フミ〉が席に着くなり、そう言った。
「《海女伝説》もあると伺いました」
〈サトル〉は好奇心旺盛に瞳(め)を輝かせて訊ねる。
「・・・―それがあるから、《結子(すくね)》が最初に《海女》業をやってたんやないか・・・っちゅうコトらしいわ💧」
〈フミ〉はどうやら、
『このテ(笑)』の話が好きでは無いらしい。
が、〈サトル〉は構わず話しを続けた。
「この《結子(すくね)》で漁業に携わっている方の殆んどが〈多嶋〉姓なのに、海女さんをしているのはフミさんのお宅だけみたいですよね?」
「・・・―せやからウチが《本家》っちゅうコトになってるんや」
「・・・なるほど――・・・」
実は、
〈サトル〉はこの話を既に《北結子(きたすくね)》の人間から教えられて知ってはいたが、初めて聞くように装う風になってしまった。
「・・・じゃあ《海女伝説》に、この《本家》は何か深く関係しているんでしょうか?」
「・・・やろうなぁ――・・・💧」
〈フミ〉は素っ気ない返事をする。
《海女伝説》に対して余程、
嫌な思いでもあるのか――・・・。
〈サトル〉の話しっぷりに辟易したのか、
一言「風呂に入る」とだけ言うとリビングを出て行ってしまった。
《祖母》が去って暫くの沈黙の後、
〈ミサキ〉が〈サトル〉に声を掛ける。
「・・・よう、怒られなかったですね?」
「やっぱり―・・・しつこかったですか?(笑)」
〈サトル〉の確信犯的な笑みに、
〈ミサキ〉は目を丸くし、遂に笑い出した。
「・・・やっと笑ってくれましたね」
〈サトル〉が嬉しそうに言う。
『‼️・・・アッ・・・』
さっきから、
つい落ち込んでしまっていた事を何気に気付いて心配してくれていたのか―・・・と知り、
「・・・―《清午(せいご)》っていう、隣の地区に《海女伝説》を奉ってある『祠岩(ほこらいわ)』があるんですケド・・・」
と、
〈ミサキ〉は《祖母》が話したがらなかった『続き』を口にし始めた。
「・・・その《祠》には本家(ウチ)の家紋が入ってあるんです」
「じゃあ、ミサキちゃん達に『由来』があるんですね・・・⁉️」
〈サトル〉の言葉に〈ミサキ〉は浮かない顔をする。
「・・・『由来』って言ぅたら聞こえがいいですケド・・・💧島の人間は『祟り』みたいに言ぅてます―・・・💧」
「・・・祟り・・・?」
〈サトル〉は思わず眉を潜めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます