第34話 頭痛が痛い
話し合いは現状報告と、もしかしたら力を持っている人には干渉しないゆかりちゃんの無意識の力なのではないかという、仮説をたてた。
因みに、やはり山井兄妹は力があるそうだ。
ジンさんは物を別の場所に転送出来るらしい。それはほんの小さな物だけらしい。
さっちゃんは、予言のような事が出来るらしい。以前占いをしてくれたけど、それの事だろう。ハッキリと見えないし、解釈によって色々と変わるので、本当に占い程度らしいけど。
それと、この店の常連は、そういう人が多いという事だ。
ユウさんや、ジンさんが力を手品として見せているのも、力を持っている人にはそれが手品ではないと、分かるらしい。一度ではわからないけど、何度か見ると分かるらしい。それを見たお客さん達は自然とここに集まり、安心して飲める常連となって、隠すことなく情報交換などをしているという事だ。
なるほど、ゆかりちゃんの件もすぐにそんな予想を立てた私やユウさんは感じていたからなのだろう。
ゲンさんや真奈さんは、多分優しいから私達が言っている事を信じてくれたんだと思う。少しくらいは、疑っているとは思うけどね。
そう思っていたら、ブルージェイルの件で、念写なる物を見たらしい。
皆が教えてくれたので、私も自分の事を教えた。
擦り傷程度の傷を治せるという事を。
この話し合いは、ジンさんが動画撮影している。
これをまた明日、ここで確認する事にして、その日は帰る。
翌日昼前に、ゆかりちゃんと河川敷に向かった。
ゆかりちゃんは一人でいいと言うけど、心配だからと、着いていく事にした。
昨日同様、二人が現れた。
ゆかりちゃんは笑顔でそれを迎えたけど、二人は顔を歪ませ、泣きそうになっている。
ゆかりちゃんの名前が出てこないのだ。
ゆかりちゃんはそれでも笑顔を絶やさず、「しょうがないよ」と言うばかりだった。
どうして母親は忘れたのに、この子達はゆかりちゃんを忘れないのだろう。名前は忘れたのに、自分達の大事な人だと分かっている。
「お前が好きなんだ…名前も出てこないのに…気持ちばかり大きくなっていくんだ」
ケイタ君は泣きながらそう言った。
なぁ〜んだ。好きな人だから必死に抗っているんだね。好きな人を諦めたくない気持ちは分かるよ。
「私も…ケイタが好き」
ゆかりちゃんも泣きながら答えた。
でもその二人の間の空気は、喜びでは無く、悲しみに満ちている。
酷すぎるよね。自分の力だと言うのに、そのせいで好きな人が自分を忘れていくなんて。
私はどんどん頭が痛くなってくる。
ズキズキとした痛みと共に、頭の中の何かにヒビが入っていくような感覚がある。
一体なんだというのだろう。
「何?私を除け者にするつもり?私だってあなたの事大好きなんだから!」
マチちゃんも泣き笑いで言った。
彼女はゆかりちゃんの親友だそうだ。もう一人いた男の子、シンタ君は、マチちゃんの彼氏なんだって。
忘れそうなのに必死にお互いの手を伸ばし、繋がろうとする姿はとても綺麗だと思った。
でもね、恋愛感情や友情に、親の愛情が負けるとは思えない。母親の方が先に忘れてしまったのは、もしかして一番近くにいたからかもしれない。一番影響を受けているから。
親子がそうやって離れないといけないなんて余りにも悲しい。
あぁ…悲し過ぎて頭が痛い。
これは絶対に何とかしなければ。
そしてゆかりちゃんは、好きな人達の中に帰って貰いたい。
私は邪魔だと思い、ゆかりちゃんに絶対家に帰ってくるようにと言って、家に帰った。
頭痛が酷くなってきたから、ベッドで横になっていた。窓の外から音がする。ベランダでユウさんが洗濯物を干しているようだ。
ユウさんに会えば頭痛なんて吹き飛ぶかもしれないと、私もベランダに出た。
「ん?どうした?顔色悪いぞ?」
「え〜、そうですか?寝不足ですかね?色々考えちゃって…」
「まぁ気持ちは分かる。お前なんか一緒に寝泊まりしてるんだからな。考えない方がおかしい。無理するな…」
あぁ、ユウさんと話してると落ち着くなぁ。
私はユウさんが大好きだ。
ゆかりちゃん達の姿を見せつけられて、私もユウさんが恋しくなっちゃった。
「…ぉぃ…」
ユウさんが好き。会いたい。触りたい。抱き締めたい。ずっと一緒にいたい。離したくない。
何処か遠くの方でユウさんの声が聞こえているような感覚。
気がつくと私は、ユウさんに馬乗りになって唇を奪っていた。
何やってるんだ私は。あぁ、頭痛が痛い…でも幸せ
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