第33話 お話し合い
ユウさんが家に来て、私とゆかりちゃんと三人でポーテに向かった。
保護者でもないのに高校生を居酒屋に連れて行くのは抵抗があったけど、現状を脱する為には少しでも情報が必要だと割り切った。
恐らくジンさんもさっちゃんも、ユウさんの力を知ってる。もしかしたら彼らも何かしらの力があるのかもしれない。
ゆかりちゃんの事を忘れない条件が、この力を持っている事だと仮定すると、確かにポーテに行かなければならない。だからユウさんは、今日と明日、ゆかりちゃんに時間をくれと言った筈だ。
今日ジンさん達に会わせて、明日確認するのだろう。
普通の人ならこんな話信じない。
自分が変な力を持っているからすんなり信じる事が出来る。でも正直、ゆかりちゃんを忘れたって人を正確には見ていないから、その確認もしたい。
忘れた後の人は見てるし、ゆかりちゃんの涙も嘘だとは思わないけどね。
ともあれ、ポーテに到着した。
私とゆかりちゃんはテーブル席に着いたけど、ユウさんはジンさんに何かを話に行ったみたいだ。
「ゆかりちゃん、好きな物頼んでね?」
「あ、ありがとうございます」
メニューを見て迷っているゆかりちゃんは、多分遠慮しているんだろう。だから私はさっちゃんを呼んで、鍋を注文した。
「モツ鍋大丈夫?」
「あ、はい!大好きです!」
「ユウちゃんがさっき言ってた子だね?高校生なんだって?ご飯準備してあげようか?」
「うん!さっちゃんありがとう。ゆかりちゃん食べるよね?ご飯」
「はい。ありがとうございます」
食べていると、ユウさんが呼んだのだろう、ゲンさんと真奈さん、後何故か華奈さんも現れた。
同時にユウさんとジンさんも此方に来た。
「ちょっと早く店閉めるから待っててくれ。客には説明してるし、看板もCLOSEにしたから、閉めた後に話をしよう」
ジンさんはそう言うと、カウンターの中に戻って行った。
私とゆかりちゃんはご飯を食べて、ユウさんとゲンさん、真奈さんと華奈さんは他の席に座り、話を始めた。
「楓さん…なんか私…」
泣きそうな顔で俯くゆかりちゃん。
「迷惑を掛けてるって思ってる?」
「はい…」
「そうだね。迷惑掛けられてるよ」
ゆかりちゃんはギュっと目を瞑った。
「でもね、ゆかりちゃんが一人で解決出来る事じゃないでしょ?ゆかりちゃんはまだ子供なんだから、大人に頼るのは当たり前なんだよ。私達は確かに迷惑を掛けられてるけど、嫌々ゆかりちゃんを助けようとしてる訳じゃない。折角知り合ったんだし、そういう繋がりって、大事にしたいと思うじゃない?ゆかりちゃんいい子だしね?解決したらお返ししてもらおうかな?」
私はそう思う。子供は守らないといけない。勿論、自分の手の届く範囲で、自分の出来る範囲の事しかするつもりはないけど。
助けられた子供は、自分を正しく導いてくれる相手の背中を見て成長する。そうやって育った子供は大人になって、また自分の出来る範囲で人を助ける。皆が皆そうだとは思わないし、恩を感じないで、助けてもらえるのが当たり前だと勘違いする人もいるけど、ゆかりちゃんはそうではないと思いたい。
ゆかりちゃんは大きく目を見開き、大粒の涙を零した。
「…はい。必ずお返しします…」
私はニッコリと笑った。
それにしても…お店のお客さんもジンさんに言われてそそくさと帰り始めたけど、ジンさんが「悪ぃな!」と声を掛けるだけで「気にするな!」と言う声が帰ってくる。いいお客さんだなぁ。とてもいい関係だよね。
そう思いながら店内を見回していると、少し気になる事があった。
さっきから華奈さんがユウさんに引っ付き過ぎてないかな?
私はゆかりちゃんの傍にいないといけないからって、ユウさんの隣に座って、甲斐甲斐しくお酌なんかしている。
ああ!華奈さんがこちらをチラリと見てニヤリと笑った!くっそう!
「あの〜、楓さん?」
「なぁに?」
遠慮ガチに声をかけてくるゆかりちゃんに、自分でも分かるくらいのぎこちない笑顔を返す。眉間に皺を寄せ、引き攣ったように口端をあげる私の笑顔は鬼気迫るものがあったのかもしれない。
「ヒッ…」
そう思ったのは、ゆかりちゃんが私の顔を見て、息を飲んでいる表情をしたからだ。
失敗失敗。私は大きく息を吸込み、深呼吸をした。
「大丈夫、大丈夫」
華奈さんめ!後で覚えてろよ!
程なくして、店内にお客さんはいなくなり、残っている皆で店内の片付けをした。
片付けを終え、ジンさんとさっちゃんが適当に飲み物とツマミを持ってきて、テーブルに着く。
私達は話し合いを始める。
まず最初に今起こっている事をユウさんが皆に説明した。
皆真剣に聞いているけど、何故疑わないのか。
それは皆知っているからなのかもしれない。普通ではない力の事を。
ユウさんは、ゲンさんと真奈さんに視線を向け、一つ頷いた。先程二人には話をしたのだろう。
ゲンさんと真奈さんは、ゆかりちゃんを複雑な表情で見つめて、頭を下げた。
「すまん。この前河川敷で飯を作った時に、高校生と食べたのは覚えている。だが、君の事は覚えていないんだ…」
「ごめんなさい…」
ゲンさんと真奈さんはそう言った。
初めて私達の周りから、ゆかりちゃんを忘れてしまった人が出て、今起こっている事を実感した。
「いえ、しょうがないです」
悲しみを隠すような笑顔をするゆかりちゃんを見ていると、なんだかやり切れない気持ちになった。
そっと息をついて俯くと、私はまた、ズキズキと頭が痛くなってきた。
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