第27話 エピローグ

 休みの日に、河川敷にやってくるのは久しぶりな気がする。


 色々と後味の悪い事件に巻き込まれたのも、ここから始まったのだと、タバコを吹かしながら思い出す。


 缶コーヒーの最後の一口を一気に呷り、ゴミ箱に投げ入れた。


「うわぁ!凄い!」


 携帯灰皿にタバコをねじ込み、声の聞こえた方を見る。葉山ゆかりだ。


「ゆかりちゃん、久しぶり。今日も学校?」


「お久しぶりです!松田さん!学校です」


「そっか。頑張ってね」


「ありがとうございます!」


 ゆかりが去って行くのを見送り、再びタバコを咥える。

 紫煙を燻らし、何となくゲンの事を思い出す。


 沢村が死んだ事を伝えると、自分を困らせていた相手の事にもかかわらず、とても辛そうな顔をしていた。

 自分を困らせた相手というよりも、元後輩だという思いが強かったのかもしれない。


 良い奴過ぎるだろ。


 ゲンと言えば、気になるのは真奈ちゃんの事だ。

 聞いてみたら、ゲンも真奈ちゃんの事が好きだったらしい。それも会社にいた時から。

 ゲンに見せてもらった会社の集合写真に写っていた真奈ちゃんは、現在の面影が無いほど太っていた。

 容姿のことなんか関係ないのだと、自分も容姿が悪いのだからと、ゲンはそう言った。


 俺は二人の気持ちを分かっているし、お似合いだとは思う。それでも二人はお互いの気持ちを伝えていないし、だからといってこちらが世話を焼いてやるなんてのも違う気がする。あの二人はゆっくりやっていくのがいいのだろう。


 一つだけ世話を焼いてやったのだが、それは華奈に、ゲンと真奈ちゃんの事には口を出すなと言ってやったくらいだ。ゲンは良い奴だと俺が保証したけど、ゲンの会社の社長の娘からも、同じような事を言われたらしい。

 因みに、この時初めてキングの強権を発動してやった。眉間に皺を寄せた華奈は、一つ条件を出してきた。ブルージェイルとしては、ポーテに行く事を禁止されているけど、華奈個人としてポーテに行く事を許して貰いたいから、その口添えをして欲しいという条件だ。


 そんな事はなんでもないので、了承したのだが、ブルージェイルのキングという立場が、本当に名誉職なのだと条件を出された時に感じて、少しホッとしたのだった。


 朝の涼しい時間を過ぎ、洗濯をする為に家に戻った。


 そう言えば楓だが、包帯ぐるぐる巻きにする程の、そこそこ大きな怪我を腕にしていると思っていたのだが、翌日にはその包帯は取れていた。大したこと無かったようだな。大袈裟な奴だ。


 気温が上昇してきているので、洗濯物は早く乾きそうだと思いながら、ベランダに出て干していく。

「布団も干すか」と呟き、ベランダのサッシに干し、高くなっている太陽に、目を細めた。


「今日もいい天気ですねぇ〜」


 隣の部屋の住人が、ベランダ越しに話しかけてきた。


「ええ、洗濯物も早く乾きそ…おい」


「おはようございます!ユウさん!」


 楓がニコニコしなが手を振っている。

 なんでお前がそこにいる。


「いやぁ〜、毎回送って貰うのも申し訳なく思ってたんですよね。この部屋狙ってたんですよ。これならその…心配しなくても大丈夫ですよ?」


「何を言ってるんだお前は」


 頬を染め、モジモジしながら、こちらをチラチラ見ている楓からは、確かに恋愛感情を感じた。


 告白したことによって、こういう明白あからさまな態度をするようになったなと、そういう分かりやすい態度だったなら俺だって気づいていたはずだと思い、少しばかり痛くなってきたこめかみを抑えながら、思ったままを楓に告げた。



「ストーカーか?」



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第一章 終了です

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