第25話 ポーテに帰還

 肝心なことを忘れていた。


 送られてきた画像が偽物と分かった時点で確認しなければならなかったのだ。


 楓に連絡を取る為、メッセージを送った。

 直ぐに反応はあった。しかも電話で。


「もしもし?」


『あ、ユウさん?えーっと、お疲れ様です。えへへー』


 何だこの反応は…


「お前今何処にいるんだ?」


『ポーテにいますよ?大丈夫です!ユウさんとゲンさんの話はジンさんに聞いてますよ?私はここで大人しくしてるので、お戻りをお待ちしています!』


「分かった…じゃあ後でな」


 何か引っ掛かる反応だよなぁ。


「ユウさん!何か予定があるんですか?」


 華奈が聞いてくるので、俺は今迄ゲンと飲んでいたのだと話した。


「そうなんですね。それってサチさんの所ですか?」


「そうだよ?あ、私も店に戻らないと。今日は客が多くてね」


「そうだな、さっちゃん世話かけた。ゲンも一緒に戻ろうか」


「ああ。そうだな。このまま帰ると無銭飲食になってしまう」


「後はブルージェイルに任せていいのか?」


 俺が聞くと、華奈は楽太郎に目配せをした。

 楽太郎は頷くと椅子から立ち上がり、メンバーの所へ打ち合わせをしに行く。


「任せて下さい。今からでもメンバー動かしますから。今回は顔写真あるから楽なもんです。相手も多少は警戒してるでしょうけど、まさかこんなに早く自分に疑いがかかるなんて思いもよらないでしょうから。近いうちに話が出来ると思いますよ」


 まぁな。まず前提条件で、念写に気づかなければそうそうバレることはないと思ってるだろう。

 しかもそんな力信じてる方が少ない。

 更に俺をブルージェイルに嗾ける事には成功したが、一人で奥の扉に辿り着けるとも思ってはないだろう。ダメだった場合、俺が警察に駆け込む事も考えているかもしれない。そうなるとブルージェイルと警察がゴタゴタを起こす。

 自分が立ち上げた裏会社を生贄にした事から、身を隠す事も考えているだろう。恐らくその時間稼ぎ。


 逃げる準備をしている沢村を捕まえないといけないので、余り時間は無いかもしれないが、俺達に直接的な手段を使ってくる可能性は低い気がする。

 奴は最後の仕上げをしたつもりだろうからな。


「そうか。じゃあ任せた」


「「「了解です!キング!」」」


 …今なんつった?キング??誰が?俺が〜!!?

 いやいや、気のせいだ。


 聞かなかった事にして俺達はポーテに戻る事にした。


 ぞろぞろとポーテに戻る道中、俺はチラリと後ろを振り向いた。


 何故だ、何故華奈と真奈と楽太郎が着いてくる。


「おいさっちゃん、なんであいつら着いてきてるんだ?いや、真奈ちゃんはゲンの為にもいいかもしれないけど」


「飲みたいんじゃないの?ブルージェイルにはうちで飲む事禁止してたんだけど、さっき華奈に今日だけでもって言われてさ、いいよって言っちゃったから」


「…そうか。まぁそういう事なら…なんで今日だけなのかはわからんが…」


「今日だけと言うのはね、ユウちゃん。新しいキングが立ったからだと思うよ?」


「………は?」


「ブルージェイルはさ、頭を含めた全員を捩じ伏せた相手を頭が認めると、その相手をキングとして戴く掟があるからね」


「えぇー!」


 嫌だ!嫌だぞそんなの!


「でもほら、全員は捩じ伏せてねえだろ!?」


 さっちゃんはクスクスと笑っているが、洒落にならねえだろ。

 俺はブルージェイルになんか入りたくない!

 責任なんて負いたくねえぞ馬鹿野郎!


「いえ、今日いたのでブルージェイルは全員です。後は協力者が沢山いますけど」


 華奈がするりと俺とゲンの間に滑り込んでくる。


「え?だってさ、俺は四天王の残り三人に会ってないぞ?」


「ブルージェイルって23歳までで卒業するんですよ。あたしと楽太郎は来年で卒業ですけど、四天王の三人は今年の四月で卒業したんで、今は楽太郎だけです。なぁ楽太郎」


「はい」


 なんだそりゃ!

 じゃあ四天王って言うんじゃねえよ!

 いや、それもあるが、楽太郎歳下なのか?ビックリだよ!


「えーっと、謹んでお断り申し上げます」


「ダメよユウちゃん。決定事項だから」


「さっちゃ〜ん」


 さっちゃんが嗜虐的な微笑をして下す無慈悲な否定に泣きそうになる。


「俺ブルージェイルに入る気はないぞ?責任なんて負いたくねえし!」


 こういう時は回りくどく言うものじゃない。ハッキリと断るべきだ。


「大丈夫です!名誉職みたいなもんですから!何かしてもらおうと思ってる訳じゃないので、安心してください!まぁユウさんがあたし達に協力を求める事があれば全力で協力します。なぁ楽太郎」


「はい。遠慮なく仰って下さい、キング」


 いやぁぁぁぁ!逃げ道がない!


「名誉職と言うならしょうがないんじゃないか?ユウさ…いや、キング」


「おいゲン。お前は俺の事キングなんて呼ぶな」



 肩を落とし、とぼとぼと歩きながらポーテに辿り着いた。

 店の扉を開けてさっちゃんが入り、次に俺が入って行く。


「ユウさん!このやろう〜無理すんじゃねえよ〜〜」


 店に入るなり抱きついて来た楓はニヤニヤとしている。


 あ〜。そういう事かぁ。あの電話の反応は。

 そうだなぁ。結果的にそうなったんだ。何も言えない。


「おい!ユウさんに何してるんだこのビッチ!」


 慌てて俺から楓を引っぺがすと、目を三角にして怒鳴る。


「なっ!ビビビ、ビッチって!何を言ってるんですか!この…えっと…サゲマン!」


 んー、楓は余り悪口を言う語彙力がないようだな。


「サゲマンとはなんだ!どちらかと言うとアゲマンだ!」


 あ〜うるせぇ。


「取り敢えず座ろうぜ。楓、腕どうした?」


 抱き着いてきた時に気がついていたが、楓は腕を包帯でぐるぐる巻きにして、三角巾で吊っている。


「え?あ〜これ、ちょっと転んじゃって…アハハ」


 俺達が出て行った時に比べて客が減っているから、テーブル席が空いていた。

 取り敢えず俺と楓と華奈と楽太郎で座る事にした。

 真奈とゲンは、さっちゃんが華奈を折角だからと説得してカウンターに連れて行った。


 首謀者が捕まっていないとはいえ、今回の一番大変な山場を越えたのだ。

 今日は楽しく飲んでもいいかもしれない。


 俺が尺をすると楽太郎は両手でグラスを持ち、頻りに恐縮している横で、楓と華奈がキャンキャンと言い合っている。

 これはこれで面白いと思いながら、カウンターに視線を向けてみると、不器用な二人は遠慮がちに会話しながら笑っている。


 後で聞いた話だが、あのストーカー騒ぎは、どんな間違いがあって起こったのかと思っていると、間違いなくストーキングをしていたらしい。

 ゲンはその事については聞く気はないようだったので、俺だけが知っている秘密だ。



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