第23話 犯人確定

「あれ?ゲンのストーカーじゃん」


 驚いて思わずポロッと言ってしまったら、華奈が眉をひそめた。


「いくらユウさんでも、あたしの妹が友田元気如きのストーカーなんて言うと怒りますよ?」


 しまった!うーん、でも本当の事だからな…


「友田さん…なんでここに…」


 真奈は、気まずそうにしているが、その顔は嬉しそうに見える。

 一方ゲンは、唖然とした顔をしている。


「樋口さん?あ、その〜、少し痩せたみたいだな」


 え?いやいや、そうじゃないだろ!

 ストーカー女じゃん!お前が怯えていた女だろこいつは!それにしても多少痩せたからって気づかないもんかね。


「あ、はい…二十キロ程…」


 二十キロ!!ビックリだよ!

 そりゃ気付かないでもしょうがない!


 ポツリポツリと話す二人を、華奈は交互に見ている。


「真奈は仕事を辞めてから痩せたんだよ。お前も知ってるだろうが、沢村のせいで相当ショックを受けてたって言ってたからな。お前の会社の社長の娘が。あいつはあたしのダチだからよく話を聞いてた」


 なるほどな。

 確かに精神的にきつかったら痩せもする。二十キロってのはちょっと考えられないが。


「お姉ちゃん、あの…違…」


「樋口さん!あの時は君を守れなくて済まなかった!」


 真奈が小さな声で何か言っていた所で、いきなりゲンが頭を下げ、謝った。

 ビックリしたよ。急に大きな声で。

 真奈もビクッてして固まっているじゃないか。


 華奈はそんなゲンを見て、溜息をついた。


「真奈、折角知り合いが来たんだ、久しぶりに出ておいで」


「…うん」



 再び店のフロアに戻る。


 先程話し合いしていたテーブルには、コーヒーが人数分置かれていて、壁際にブルージェイルのメンバーが並んで立っている。

 結構な威圧感である。

 それを見たゲンは、ギョッとして後ずさりしたしたほどだ。


 テーブルに着き、話し合いの再開だ。


「ねえ真奈、あたしはあんたが怖い思いしたから、思い出させないようにあの時の話はしなかったんだけど…あんたを拐おうとしたのはこの友田元気じゃないの?」


 華奈の隣に座り、俯いて話を聞いていた真奈は、驚いて華奈を見た。


「ち、違う…知らない男の人…だった」


 それを聞いたさっちゃんが眉をひそめ、華奈を睨んだ。


「華奈、あんたが妹に甘いのは仕方の無い事かもしれないけど、最初から聞いていたらこんな事にはならなかったんじゃないの?」


 その通りだと思う。

 こんな善人のゲンに危険が及ぶ事なんてなかった筈だ。


「そうですね…」


「ゲンちゃんに言う事があるんじゃないの?」


 華奈は一度目をギュッと瞑り、次に開けた時は覚悟を決めた顔をしていた。

 椅子から立ち上がり、壁際にいるメンバーの前まで歩いて行く。楽太郎もそれにならった。


「友田元気さん、すみませんでした!」


「「「すみませんでした!!」」」


 メンバー全員一緒に、腰を90度に曲げて謝罪をした。


 ゲンも慌てて椅子から立ち上がった。


「いや!もう大丈夫です!誤解だってわかって貰えたら!」


 全く、どんだけ良い奴なんだよ。一度は入院させられたんだぞ?


 居心地悪そうな顔で頭を掻いているゲンを見て、俺もさっちゃんも笑った。

 真奈も、ゲンを見て微笑んでいる。

 ストーカーするだけあって、やっぱりゲンが好きなんだろう。

 その辺の話はしないのかな?まぁ今はそれよりもやる事があるか。


 ゲンが謝罪を受け入れた事で、ブルージェイルとゲンの確執はなくなった。ここからは、犯人の特定に協力し合う仲間だ。


「じゃあ華奈、念写の確認は済んだだろ?お前が言う犯人を教えてくれ」


「はい。友田元気が言った通り、あたしのスマホを楽太郎のスマホで撮ってみた所、画面が黒く写りました。それで、犯人はこれをあたしに送信してきた奴しかいないですよね」


「まぁそうだが…会ったのか?俺はいきなり送られてきたんだが…ゲンもそうだよなぁ?真奈ちゃんはそんな事出来ないんだろ?あ、そうだ。なんでゲンの風呂覗いてたの?」


「なっ!真奈が友田元気の風呂を覗いた?どういう事ですかユウさん!」


 俺は初めてゲンと会った時の話をして、ゲンに例の画像を見せるように言った。


「…真奈。本当なの?」


 俯いている真奈は、小さく頷いた。


「そんな…どうして?」


 真っ青な顔になった華奈は、真奈に詰め寄る。


「いや、これももういいんです!気にしてませんから」


 ゲンはそう言って真奈を庇う。

 あれ?ゲンも脈アリなんじゃねえの?

 あー、変な事聞くんじゃなかったわ。

 空気が重くなった事で、罪悪感が湧いてくる。

 ゲンが気にしていないのなら俺も別に聞きたいと思わない。


「友田元気…」


 強気な女の泣きそうな顔を見て、居た堪れない気持ちになった。


「すまん。俺が余計な事聞いちまったな。それより今は華奈の言っていた男の話だよな」


「…はい。そうですね。あたしにこれを送信してきたのは…楽太郎、DVD持ってきて」


 楽太郎が立ち上がり、店のカウンターの裏に置いていたDVDを持ってくる。


「これ、この女をゲンに寝取られたって言ってきた男だ」


 DVDを手渡された華奈がそれをテーブルに置き、写っている女を指さした。

 その瞬間、ヒュッと真奈が息を飲み込んだ。ゲンも大きく目を見開き、その女を見詰めたまま固まっている。


「…二人とも、知ってる人みたいだね」


 二人の様子を伺いながら、さっちゃんがそう言った。

 二人の話では、ゲンの会社にいた沢村が手を出した女の一人だったそうだ。更にいうと、真奈を連れ去ろうしたうちの一人だったそうだ。この女に声をかけられ怖くなり、引きこもってしまったんだと。


 もう溜息しか出ない。

 てことはだよ、もう間違いないだろ。


「ゲンに恨みがあって、この女の知り合いなんて、沢村しかいないだろ。華奈は沢村の顔は知らないんだよな?でもまてよ…真奈ちゃんの事知ってるのにブルージェイルに姿を見せたのか?沢村もバカだろ」


 華奈は少し考えて、俺を見た。


「いや、ブルージェイルの頭があたしだって余り知られてないんですよ。それに、あたしが真奈の姉だって事も知らなかったと思います。真奈は外でそんな事言わないんで」


「それに私、この人に連れていかれそうになった時、私が樋口真奈だって気づいていないようでした」


 なんて事だ。真奈ちゃんが痩せて分からなかった事といい、ブルージェイルを利用してゲンを潰そうとした事といい、全て偶然で墓穴をザクザクと掘っていた訳か。

 悪い事は出来ないもんだな。


「後は、沢村の顔を華奈が確認出来れば確定だな。でも、ゲンも真奈ちゃんも写真なんか持ってないだろうし…」


 二人はスマホを弄り出した。

 同時に出したのは、社員全員で撮っている集合写真だった。


「へぇ、こんなのよく持ってたな」


 二人は頬を染めて、恥ずかしそうにそっぽを向いた。


 その反応を見た華奈は、面白くなさそうにしながら、スマホに注視する。


「ああ、こいつだ」


 華奈が指さしたのは当然


「沢村だ」

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