第22話 話し合い

 最初に目を覚ましたのは四天王である、剛腕の楽太郎だった。


 目覚めた楽太郎は俺に敵対する様子もなく、ブルージェイル二代目華奈の命令に淡々と従い、外で倒れているメンバーを店内に運び店をCLOSEにして、倒れたテーブルや椅子を整えた。


 その働きぶりは、剛腕の名に恥じない働きぶりであった。

 まぁ伸びている人を運ぶのは力がいるからな。


 さて、テーブルに着いた俺達だが、俺とゲンが並んで座り、対面に華奈と楽太郎。上座に何故かさっちゃんがいる。

 楽太郎は腕を組み、目を瞑っているが、華奈はずっとゲンを睨んでいた。


 因みに、ゲンが開いた鉄の扉の先にあった部屋だが、俺のメールで見た部屋とは全くの別物だった。


 部屋の中は、白やピンクが目立つ小さい女の子の部屋のようで、中にいたのは布団を被り寝転んでゲームをしている女の子であった。


 一度その扉はそっと閉めて、話し合いとなっているのが現状である。


「じゃあ華奈、何でゲンちゃんを狙ってたかを教えて貰える?」


 華奈はゲンを睨みながら説明をはじめた。

 その内容は驚くべき事だった。

 ゲンが女性を脅して、違法なアダルトビデオを作っているというものだった。


 そのゲンはというと青い顔をして、ブンブンと顔を横に振っている。


 さらに言うと、ゲンが女と共謀して先程見た扉の先にいた妹を、連れ去ろうとしていたらしい。

 証拠もあると。


「分かった。じゃあゲンちゃんの言い分と、さっき店でジンと話していた事を教えて貰える?」


 ゲンの話も驚くべきものだった。

 全く身に覚えはない事と、ジンさんから聞いた念写の話。


「どう、華奈?貴方もそういう力がある事知ってるでしょ?」


 華奈は苦々しい顔をして、頷いた。


「なぁさっちゃん、じゃあやっぱり念写をした奴ってゲンのストーカーだろ?」


「友田元気のストーカー?初代、それは男ですか?」


 俺の話に反応したのは華奈だった。

 でもなんで男だとおもったんだ?


「華奈、初代は止めて。私は山井桜智って名前があるんだからね?樋口華奈さん?」


 さっちゃんが恐ろしく冷たい笑顔でそう言うと、華奈はビクッとして姿勢を正した。


「あ、すみません!!」


「ふふっ…ゲンちゃんのストーカーは女だよ。写真もあるし、そこにいるユウちゃんも話した事がある」


「そうですか…」


 華奈は難しい顔をして考え込んだ。


「えーっと、華奈さんでいいかな?何で男だと思ったんだ?」


 そう訪ねてみると、今度は俺に向きなおして、姿勢を正した。


「はい!あたしが考えてる犯人は男だからです!ユウちゃんさん!」


「……」


 ユウちゃんさんって…

 どうしたものかと、そっとさっちゃんに視線を移せば、そのさっちゃんは後ろを向いていた。

 肩が小刻みに震えているところを見ると、笑いを堪えているようだ。


「あの…ん〜。ユウちゃんさんっておかしくない?ちゃんか、さんか、呼び捨てでもいいからね?」


「は、はい。では…ユウさん…」


 少し頬を染めながら、呼び方を変えてくれた。それならまぁいいが、そんなに恥ずかしがる事もないだろいに。


「うん。じゃあそれで、華奈さんが考え…」


「華奈です!華奈と呼んでください!」


「あ、はい…」


 もう一度さっちゃんを見てみると、先程よりも肩の震えが大きい。

 ちゃんと仕切れ!


「華奈…が、考えてる犯人って?」


「はい、ユウさん。さっき聞いた友田元気の話が本当なら、犯人は一人しかいないんです。その前に本当に念写なのか、確認してみます」


 そう言って、華奈のスマホを楽太郎が写している。

 隣を見ると、ゲンが何かを考え込んで、ブツブツと呟いている。


「ゲン、どうした?」


「え?あ、いや…サチさん、彼女の事樋口って言いましたか?」


 話しかけられたさっちゃんは、漸く此方を向いて、涙を拭っている。

 涙が出る程面白かったのか!


「そうだよ。こいつは樋口華奈」


「何だ友田元気。樋口で悪いか!」


 ゲンに対しては相変わらず厳しいし、呼び方もフルネーム呼びだ。


「いえいえ!ただ、華奈さんは先程妹さんの名前を真奈さんと言いませんでしたか?」


「なんだお前?やっぱり妹に何かしようとしてんじゃないだろうな?」


 ユラりと椅子から立ち上がり、ゲンに威圧をかけていく華奈。俺は何となく察した。こいつはシスコンなのだと。


「華奈!ゲンの話も聞いてみようじゃないか」


 俺がそう執り成すと、剣呑な雰囲気は一気に治まり、ストンと椅子に座った。


「はい、そうですね。友田元気にどれ程の話が出来るのかわかったものでは無いですが、ここはユウさんに免じて聞きましょう。友田元気、話せ」


 何だこいつは…初めて会った奴に免じられるのか。

 その横暴な物言いに頬を引き攣らせながら、ゲンは話し出した。


「えっと、はい。ユウさん、ありがとうございます」


 ゲンも訳も分からず、俺に礼を言うし…

 それを見ている華奈は満足そうに頷いた。


「俺の元同僚が樋口真奈といって、同じ名前なんですよね。だから少し驚いただけです…」


 ゲンの話を聞いた華奈は、再び立ち上がり怒鳴りつけた。


「お前が沢村かぁ!!」


「え?いえ、友田元気です」


「…そうだったな」


 何これ。

 華奈ってのは妹の事になるとダメになるタイプだな。さっきから自分で、しかもフルネームで呼んでいた相手に沢村かって…

 とは言え、華奈の口から沢村の名前が出てくるという事は、ゲンの元同僚で間違いないんじゃないか?

 確か、太った子だったかな?


「ああ、やっぱりそうだったんですね…華奈さん!一目会わせて貰えませんか?」


「はぁ?なんで友田元気にあたしの大事な妹を合わせないといけないんだよ!」


 もうダメだこいつ。


「華奈、いいじゃない。ジンが聞いた話によると、仕事してた真奈ちゃんの味方だった人だよ、ゲンちゃんは」


 ここに来て初めて仕事をしたよ、さっちゃんが。


「え?そうなんですか?サチさんがそう言うなら…友田元気、お前の評価を少し上げることにしようか」


「あ、ありがとうございます?」


 取り敢えず、妹をこの場に呼ぶ事になり、皆が席を立った所で、気を失っていた男達が起き出した。


 男達は楽太郎に任せて、俺達は真奈の部屋に向かい、扉を開いた。


「真奈、真奈の知ってる人が来てくれたよ?」


 先程とは打って変わったような優しい口調で、華奈は妹に呼びかけた。


 扉を開けた時に、ゲンは布団を被った姿しか見ていなかったので、それが知り合いだとは思わなかったようだな。


 相変わらず布団を被って寝転んでいる真奈は、ムクリと起き上がり、恐る恐る此方に振り向いた。


「あ、あれ?樋口真奈さん?」


 コクリと頷いた彼女は、ゲンのストーカーだった。

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