第20話 友田元気2

「チッ、くそっ!ゲン、こっち来い!北村さん!」


 店を出ようとした俺の腕を掴み、店の裏に連れて行かれる。凄い力で抗うことも出来ない。


「なんですか、ユウさんが!楓さんが!俺のせいで…」


「おい、ゲン。お前に送られてきたメールだが、誰が送ってきたか検討はついてるのか?」


 この場で聞く事なのか?今はユウさんを追わないと!


「ありますよ!ストーカー女しかないでしょ!」


「本当か?じゃあユウに送ってきたのもそのストーカー女か…」


「なんなんですか本当に!」


「まぁいい、お前に送られてきたメールの写真もユウに送られてきたのも、念写ってやつだ」


「……は?いや!巫山戯てる場合じゃないでしょ!」


 いきなり何を言い出すのか。この非常時に!


 しかしジンさんは真剣な表情で、北村さんが写した俺のポラロイド写真を目の前に突き出してくる。


「この写真な、北村さんの念写だ。合成とかじゃない」


「はぁ?」


 訳が分からないけど、この状況でジンさんが冗談を言うとも思えない。けどいくらなんでも…


「あ〜くそっ!だからゆっくり説明したかったんだがな…嘘だと思っても構わないから、ユウを追いかけるなら黙って聞いてくれ。後でユウに説明出来ればそれでいい」


 ジンさんの説明は意味がわからず、目を白黒させるばかりだったが、その焦った表情を見て、聞いておかなければならないのだと理解した。


「北村さん、ちょっと説明してくれ」


 ジンさんがそう言うと、北村さんがずいっと俺の前に来て、ニコニコとしながら説明をしてくれた。


「あのねぇ、友田君。念写で写した画像ってのは拡散出来ないようになってるんだよ。だから、この写真をコピーする事も、写真で写す事も出来ない。私はこのポラロイドカメラでしか出来ないけれど、ケータイの写真機能で出来る人も居るかもしれないね。実際私は、テレビに映せる人とあった事がある。だけど、それを録画する事は出来なかったんだ」


「だから色々試して見たんだ。お前のメールを俺に転送させたり、お前のスマホでこの写真を写させたりしただろ?」


 俺は慌ててスマホを取り出し、先程ポラロイド写真を撮った画像を確認した。


「なっ!写ってない…」


「お前から転送してもらったメールも、写真消えてただろ?」


 確かにポラロイド写真を写した画像はあるが、その肝心の俺が写っている筈のポラロイド写真は真っ黒になっている。たとえ光の加減で見えなくなっているとしても、黒く写るのはおかしい。信じられない物を見て呆然としていたが、ジンさんにそう言われてゆっくりと頷いた。


「まぁそれが念写だと言う証拠になる」


「それとこれが重要なんだけどね、念写ってのは、その人のイメージを写すんだよ。決してその場にある物をそのまま写す写真と、同じ物だと思わない方がいい」


 何が言いたいのか分かってきた俺は、北村さんとジンさんを交互に見る。


「そうだ。ユウに送られてきた画像は偽物の可能性がある。ブルージェイルがおびき寄せるためにやったのか或いは…」


「ブルージェイルとユウさんを潰し合いさせる為に送ったかって事ですか?」


「まぁそうだな…ブルージェイルがお前を狙っているって事なら、恐らく誘き寄せるなんて手は使ってこない。奴らはバカだから正面から来るはずだ。て事は、ブルージェイルを利用している奴がいるんだろう」


「それがストーカー女…」


「とは限らないがな…まぁいい、取り敢えず説明は以上だ。行くなら行け。とんでもない事になってるだろうがな…」


 ジンさんは忌々しそうな顔でそう言った。


 俺は混乱する頭を振って一つ頷き、ジンさんを追いかけた。しかし、俺はカフェの場所を知らない。

 店の前まで走った後に呆然と立ち尽くす俺を見てジンさんが溜息をつき、店内に向かって大声を出した。


「サチ!案内してやれ!」


 俺はサチさんと一緒に監獄Cafe鉄拳に走った。



 路地裏という表現が正しいのか、日もくれた現在、大通りから入り込んだこの場所には人通りがない。


「この先なんだけどさ、ブルージェイルに狙われてるゲンちゃんには危ない場所かもしれないけど…いいの?」


 道案内をしてくれたサチさんが心配そうに声をかけてくれた。


「ええ、俺が巻き込んだも同然なんで…」


 俺の表情を覗き込んでいたサチさんは呆れた顔で、そっと溜息をついた。


「ゲンちゃんがいい人だってのは分かったけどさ、自分から面倒事に突っ込んでいくのは、余りオススメしないよ」


「あ、ははは…」


 俺は乾いた笑いを浮かべるのが精一杯だった。

 正直怖い。震えが止まらない。

 でも俺のせいだと思うと、知らないフリなんか出来ないのだ。


 路地を奥に進むと、そこには死屍累々という光景が広がっていた。


 確かにそこに監獄Cafe鉄拳があった。

 店の前には、数人のガタイのいい男が血塗れで転がっていて、周りには紙くずが散らばっている。雑誌だろうか。男達はピクリとも動かない。


 キリキリとした胃の痛みを感じながらも、店の前に歩を進める。


 開け放たれたドアから、喧騒が聞こえてくる。

 俺は急いで店内に入った。


 店内のフロアには、五人の男達が大の字に倒れていて、その中心で仁王立ちして大きく肩を上下させているユウさんの後ろ姿と、奥のソファに足を組んで悠然と座っている女性、その横に佇む俺を襲った男の姿があった。

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