第19話 友田元気

 最近、変な事件に巻き込まれる。

 職場では後輩の不祥事。家ではストーカーに覗かれ。外では大男に襲われる。


 気分が下向きになりそうな事ばかりだったが、いい事もあった。

 友人が出来たのだ。


 ユウさんと言う人に初めて会った時は、蹴り倒されたけれど、それが誤解からだった事で謝られ、飲みに誘われた。

 酒は苦手だし、酒を飲む場というのも苦手だったのだが、それは今迄仕事でしか飲む機会がなかったからだと分かった。


 仕事をしていく上で、最低限の人付き合いしか出来ない俺は、一人でキャンプをする事が好きだ。

 実際好きではあるのだが、それとは別に、趣味を持っている、だから好んでボッチな訳じゃないんだと、外向きに言い訳する為に初めたという面もある。


 ユウさんはそんな俺を、事ある毎に誘ってくれて飲みに連れていってくれる。俺も気を使わないで接する事が出来て、とても面倒見の良い男前だ。

 楓さんが惚れるのも無理はない。


 ユウさんと楓さんはお似合いの恋人だと思っていたが、どうやら付き合ってはいないらしい。


 俺は今に至るまで恋人が出来たことがない。

 容姿に自信はないし、もう既に諦めているほどだ。

 たとえ好きな人が出来たとしても、俺から気持ちを伝える事が出来ない。こんな不細工な男に告白されても、相手が恥ずかしい思いをするだけだろうからな。


 もう辞めてしまったが、職場に好きになってしまった人がいたんだ。

 その人は決して綺麗でも可愛い訳でもなかった。

 恥ずかしがり屋で、人と接するのが苦手で、自分に似ていると思った。俺の仕事の事務面を任せていたこともあり、そこそこ接する機会もあった。偶に見せてくれるぎこちない笑顔が好きだった。


 社長の娘が同僚だったのだが、彼女は俺の気持ちに感づいていたような気がする。そしてそれを陰ながら見守っていて、俺が彼女と話しているとニヤニヤとしていた。それは別に、悪意のある感じではなく、実際二人は仲が良かったようで、彼女に恋人が出来る事を、純粋に応援しているような話しをしていたのを聞いた事がある。


 残念ながら、それは叶わなかった訳だけれど。



 大男に襲われて入院した後、またユウさんに飲みに誘われた。恐らくブルージェイルの件を聞きたいのだろうが、俺にも正義の無法者と言われるブルージェイルに狙われる覚えはないのだ。話せることは無い。


 まぁそれでもユウさんとの飲み会は楽しいから、喜んで行く事にした。楓さんも来るようで、またユウさんとの軽快なやり取りを見れるかと思うと、頬が緩む。それに、ユウさんは物凄い手品を披露してくれる。それをまた見れるのかと思うと、楽しみでしょうがない。

 お陰でユウさんよりも早くポーテに到着してしまった。


 店内に入るとこの前とは違い、お客さんが多かった。

 ジンさんからカウンターを勧められ、席に着いた所で、いきなり知らないお客さんから写真を撮られた。今時見る事も無い旧式のポラロイドカメラで、撮っている人はニコニコとしている。


「北村さん、ありがとう」


 それに対して何故かお礼を言ったジンさんが、俺の前に来て、話しかけてきた。


「なぁゲン、ちっとこの前の写真見せてくれないか?あ、風呂の怖ぇやつじゃなくて、メールで送られてきたっていうお前の渋い横顔のやつ」


 訳が分からなかったが、俺は例のメールを見せた。


「ありがとうな。これサービスだ」


 そう言って俺の前にビールを置いてくれた。

 俺のスマホを難しい顔で見ているジンさんを横目に、ビールをグビりと一口飲み、先程写真を撮っていた人に視線を向ける。

 出て来た写真を見てニヤリとした北村さんとやらは、その写真をこの間はいなかった女性の店員さんに渡していた。その女性は写真を見て苦笑いをしているが。


「ゲン、このメールなんだけど、おれのスマホに転送してくれないか?」


「は?こんな物どうするんですか?」


 俺の横顔なんて見て誰が喜ぶと言うのか。本来なら消したい所だが、なにか厄介な事が起こった時に証拠になると思い残しているだけなのだが。


「いいから、いいから」


 首を傾げながらジンさんのアドレスを聞き、転送した所で、ユウさんが来た。


 ユウさんの手品は相変わらず凄かった。

 変な噂を流されて迷惑をかけられたみんなから、ペナルティーとして、パイを投げられていたのには笑った。ジンさんから「ゲンもあいつのせいで迷惑を被ったんだから遠慮なく投げろ」と言われたので投げたが、俺はユウさんに感謝もしているので、下手投げで投げた。


 ユウさんが風呂に入っている間、またジンさんが話しかけてきた。


「ちょっとこれ見てくれるか?」


 そう言って見せてくれたのは、さっき撮られたポラロイド写真だった。しかしそこに写っているのは俺なのだが、俺ではなかった。

 そこにいる俺は何故かふんどし一枚の俺なのだ。


「…なんですかこれ?合成?」


「いや…それとこれな、さっきお前から送って貰ったメールなんだが、見てみろ」


「はぁ…あれ、写真は?」


 確かに俺が転送したメールがあるが、添付写真は無くなっていた。


「やっぱりな。ゲン、そのポラロイド写真、お前のスマホで撮影してみろ」


「なんなんですか一体?」


 何をさせられているのかさっぱりわからなかったが「一通り終わったら説明する」と言われ、取り敢えず従った。


 ポラロイド写真を撮影して、今度は俺のメールに添付されている写真を表示させられ、その状態のスマホをジンさんが撮影した。

 そんな事をしていると、ユウさんが戻ってきた。


 ユウさんに改めてブルージェイルの件を聞かれたのだが、他に伝える事もなく、ユウさんにメールが入り、それを見たユウさんの様子がおかしくなっていく。

 訝しく思い、ユウさんのスマホを覗き込んだら、そこにはコマ送りのようになっている、カフェの写真が写っていた。そして最後の一通を見た瞬間、その場の皆が驚愕に目を見張った。


 下着姿の楓さんが写っている写真を見たユウさんが激昂して、店を出ていった。


 ブルージェイルという件名から、これは俺がユウさんや楓さんを巻き込んでしまったのだと思い、慌てて俺も追いかけようとした。


「待て!ゲン!」


 大声でジンさんに止められ、俺はそこで驚く事を聞く事になった。





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