第15話 通り魔

 警察には、通り魔に襲われている所に駆けつけたと言う体で話をして、ゲンが心配だから一緒に病院に行くと伝えた。

 ブルージェイルの件は、ゲンと話さないと分からないので、そこは上手く隠しながら、通り魔の特徴も、身の丈2メートル位のモヒカンの大男が、訳の分からないことを言いながら自販機を壊し、ゲンはそれに巻き込まれたという事にした。


 俺が警察に話している間隣にいた楓からは、なんとも言えない視線を感じてはいたが、俺はその視線を全力で無視して話をゴリ押しし、楓も呆れながらではあるが、上手く話を合わせてくれた。取り敢えず夜も遅いので、通り魔のこともあり、楓を家に送って貰うことにして、救急車には、ゲンの付き添いとして俺が乗っていった。


 病院に着いて診察して貰い、MRIの結果も特に異常はないようだったが、大事をとってその日は入院するという話になったので、俺は帰ることにした。


 MRIに入る直前には目を覚ましていたので、帰る時に少しばかり話をしたのだが、ブルージェイルの事は全く知らないと言っていた。その表情に、嘘はなさそうだった。


 その日のうちに楓から連絡が入っていたが、内容はゲンの容態を聞いてきたことと、警察に話していた内容を作るのが下手くそすぎるという苦情だった。警察に送って貰っている最中に色々と聞かれたが、暗かったし、通り魔はすぐに逃げていったので、よく見ていないと話したらしい。


 うむ、ご苦労。


 後は、ブルージェイルって何ですかと言う質問と、四天王って何ですかと言う疑問だ。


 知るか。


 それらの疑問質問に一つずつ答えを書込み、随分と寝る時間が遅くなってしまったが、翌朝書き込んだはいいが送信していなかったことに気付き、朝だと言うのに徒労感を覚えてしまった。

 結局それは、翌日ということもあり今更感があったので送信しなかったのだが、後になってキャンキャンと文句を言われる羽目になった。


 まぁそうだな。ゲンの容態位は教えてやればよかったよ。お陰で一杯奢る約束をさせられた。



 週末、仕事終わりにポーテで飲むことになり、現在店内で鍋を突っついている。

 クーラーガンガンの店内で食べる鍋は美味いな。


「さてユウさんや、白状しなさい」


「何を言ってるか分からない」


 今日は俺も楓も泡盛を飲んでいる。夏に飲む泡盛のロックは最高である。度数が強いので、何杯か飲んでいる楓は既に目が据わっているけど、こいつがそんなに酒に弱い訳が無い事は知っている。記憶が無くなることもなければ、なんならここからがこいつは執拗いタイプだ。


 全く以て、めんどくさい。

 白状とはなんなのか。別に隠している訳じゃない。


「何が聞きてえんだよ。ゲンの事は話しただろ」


「ゲンさんの事は聞きましたけど…ブルーハーツって何ですか?」


「バンドだ」


 俺は間違っていない。


「あれ?何でしたっけ?そっちじゃなくて…」


「俺はそっちしか知らないが…ってはぁ〜。ブルージェイルだろ?」


「そう!それです!四天王合コンの楽太郎!」


「なんだよそのパリピみたいな奴は」


「本当ですよね?そうだ!ユウさん、今から合コンしましょう!二人で!」


「二人ってそれ合コンなのか?…もう聞く気ないんだろお前」


「いや、ごめんなさい。教えてください」


 酔っ払ってるのか巫山戯ているのかよく分からないが、ここで俺が教えなかったらまた後でぎゃあぎゃあ言ってくるのだこいつは。


「ブルージェイルって言うのはな、簡単に言うと、正義の無法者集団だ」


「訳分からん。ユウさん、何言いよーと?」


 うん。俺も訳分からん。

 正義って言葉と、無法者って言葉の意味が乖離しすぎているからな。でも結局こいつらはそういう集団なのだ。


「自分達が正義だと思っている事でも、警察に任せてたら手遅れになりそうな事とかあるだろ?そういうのを、この街では許さんって言いながら、ゲスな奴らを力でねじ伏せる集団だ。色々と面倒なんだが、確かに若い奴らの犯罪とか減ってるのはブルージェイルの力って話もあるんだ。まぁ警察はそんな活動許さないから、バチバチとやってるみたいだけどな」


「へぇ〜。そんなのがいるんですか?ブルージェイルってどんな意味何ですか?」


「知らん。俺もそんなに詳しくないからな。でもこの街じゃ有名だ。楓はまだこっちに来て一年位だから、知らなかっただろうけどな」


 チーム名の由来なんか知らんが、一度狙われたら執拗いって有名だ。


 そろそろ減ってきたので氷を注文する。

 週末にも関わらず、今日も客が少ない。何でも最近化け物みたいな通り魔が出ると噂があり、夜は余り出歩かないようにしている人が多いらしい。


「お待たせ。楓、久しぶりだね?」


 ジンさんの妹の桜智が氷を持ってきてくれた。

 サチはスレンダー美人だ。引き締まった女豹のようなしなやかさを感じさせる体型。黒髪をポニーテールにして、切れ長な目をしている。一見性格がキツそうに見えるが、実際も性格はキツい。仲が良くなればだけどな。でも女子には優しいから、女子にモテる。


「あぁ!さっちゃん久しぶり!さっきまでいなかったよね?」


「うん。客も少ないしね〜、少し引っ込んでた。って言うかブルージェイルの話してなかった?」


「そうそう。知ってるの?」


「有名だからね。何かあったの?」


「ん〜、ブルージェイルってどんな意味?」


「意味?あ〜、ブルーが青でしょ?で、ジェイルが監獄とかそう言う意味だよね?狙われたら、真っ青になって、自分から監獄に行きたくなるって意味らしいけど」


 俺も初めて聞いたけど、なんて安直な名前なんだろう。

 思わず苦笑いだ。


「そんな意味なんですか?なんて言うか、四天王といい、面白い人達ですよねぇ〜」


 四天王お気に入りだな楓。


「四天王?なにそれ?!バカっぽい!て言うかさぁ、最近この辺りで通り魔の噂があるじゃない?こういう時に活躍して欲しいもんだよね。通り魔なんて本当に迷惑」


 全くだ。ゲンなんてあんな良い奴を追いかけ回している暇があるなら、通り魔を退治して欲しいものだ。


「なぁさっちゃん。その通り魔ってどんなんだ?化け物みたいなって」


 サチは腕を組んで、眉間に皺を寄せ、嫌そうな顔をしながら教えてくれた。


「なんかね、身の丈2メートル位あるモヒカンの大男で、上半身裸のびしょ濡れで、訳の分からないことを喚きながら自販機を壊しながら全速力で女の子を追い回す奴らしいよ。どんな化け物よって話」


 すんませんでした!!

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