第124話 産声①
元々レストはそこまで好戦的ではない為、興味はあっても、激闘の後のボス戦では集中力が切れた。
そして、【天魔波旬】で遊び始めた少し経った現在。
「流石にこの数は難しいな…十二刀流」
手袋の代わりに装備した木の棒が2本、【天魔波旬】の今にも消えそうなぐらい細い黒き衣で持った木の棒が10本。
レストが12本の黒く染まった木棒を使い、塩をつつくという妙な現場が出来上がっていた。
その背景には、
「これが、ちょっと違うけど伝説の三刀流…ゴクリ」
三刀流に憧れたファンが居たり、
「一度に沢山の剣使えたら最強じゃねえ?」
剣初心者がろくに使えもしないのに剣を増やしたり、
「お~!」
「よし、さらに一本追加だ!!」
「あー!!」
「……ガァ…」
疲れた様子の龍に乗っている子供の歓声に気を良くして、曲芸と化した結果だとも言える。
フタバが喜んでいるとは言え、流石のテンリも戦闘中にふざけ過ぎだ、と
本来の目的でもあった属性攻撃を、増えた12本の木で、一度に12回の攻撃してコツコツとダメージを減らすしているといった場面だ。
2本の木で連続した攻撃と、遅いけど一度で12回攻撃のどちらが効率的か分からないが、
所で、レストが何故木で攻撃しているかと言うと、ちゃんとした理由がある。
レストが【天魔波旬】を使って
【天魔波旬】には動かせる速度や持ち上げたりする力が存在し、それは黒き衣の量に依存するというもの。
例えば、黒き衣で一つだけ手を使って動かした場合だと、廃坑の悪夢でやったようにそれなりの速さで、自分を動かせるほどの力がある。でも、逆に手を増やしていくと、途中で剣を持ち上げられなくなり、速く動かせない。
また、魔属性付与をやり過ぎると、黒き衣が無くなる性質も手を増やしたことも相まって、10本の木の棒を上げるのが精一杯だ。
黒き衣の使用量に応じて、黒き衣を動かす速さはもちろん、持ち上げる力も持った状態の速さにも影響を与える。
それに加え本数を増やすほど思うように動かせない為、レストは戦闘で使えるとしても「一つに纏めた手が限界だろう」と考えている。
物理的攻撃力が意味を持たない敵だから、今回は別として……
「これなら一度で魔属性付与の攻撃が沢山できる」
「おー!」
「………」
レストはテンリの視線に言い訳しながら。
フタバの可愛いらしい歓声にやる気を出し、テンリの視線に戦々恐々とすることを繰り返すレスト。
ちなみに、レストが木を装備していることに深い意味はない。敢えて言うならば、十二刀流なのに2本だけ剣はバランスが悪いという、レストのこだわりの結果だ。
◯
地道に削り、【
「おっと…」
レストは体の一部を囮にして、背後から現れた塩で足の動きが阻害される。
そのタイミングで、岩影に隠れた塩が3ヶ所に現れ、岩塩が放射される。
レストの制御が緩んだことで【天魔波旬】の自動防御能力が起動し、木の棒を落として広範囲の黒い壁が展開されるが。
「うがっ!!」
黒い壁を貫き、飛んできた一つが頭に当たり、その他も体に当たる。
自動防御で威力が削がれていたからダメージは受けなかったが、反射的に声を上げ、少しヒヤヒヤしたものを感じたレストだった。
転がる岩塩を掴んだレストに、テンリが近づく。
「グガァァ」
「はい、これよろしく」
レストは相手の攻撃手段を削ぐために、テンリが持つバケツに合計で7つ目となる小石サイズの岩塩を入れていた。
また木の棒を拾って攻撃し始めたレストを見ていたテンリは上空に上がり、MPが回復するまで待機する。
「おー!うー!あい!」
「………」
だが、その間にもテンリはレストを観察していた。
いや、正確にはレストが操っている【天魔波旬】の黒き衣だ。
木の棒を持ち上げ、振り下ろし、振り上げ、振り下ろす。
一件単調な動きだが、それを見て力の扱い方を学習したテンリは模倣した。
持っていたバケツを手放し、近くに浮かべる。
「おー…あーいー!!」
レストとお揃いの木の棒を振っていたフタバは、それに驚きながらも、目を輝かせてパチパチと拍手しながら喜ぶ。
そして、一度バケツを近づけるパフォーマンスをしたテンリは、フタバに何事かを話した後、行動を開始した。
「ふっ」
拡散させていたレストが残り1割まで少しと言った所で、集まった塩の塊を蹴ろうとして、上から水が落ちてきた。
「……えっ?」
空を見上げると、「あーーう!!」と叱っている様子で叫んでいるフタバに、あからさまに顔を横に向けているテンリ。
「えっ、えっ、何が…」
取り敢えずテンリが何かしたこと以外、分からなかったレストは戸惑うしかなかった。
テンリたちを見てあることに気づいたレストは声を上げた。
「あれ…バケツの中は?」
レストは浮いているバケツが逆さまになっている光景を見て、真っ先にバケツの中身に反応する。
現状とその光景が繋がってきたレストは茫然と言葉を漏らす
「まさか、バケツに水が?」
自分に付いた水を口に含むと塩辛い味が広がり、落ちてきた水が岩塩を使ったであろう食塩水だと理解して、「バケツ程度の量の水で、岩塩を溶かしただと…」とずれた発言をする。
でも、レストはすぐに忘れていた塩の存在へ目を向けた。
「固まってる」
キッチンで湿気によって固まった塩が思い出しながら、レストはすぐに叫んだ。
「テンリ!!こいつに水を掛ければ最初の状態に戻るかもしれない!!だから、水を取ってきて!!」
テンリが偶然にも攻撃できそうなものとして持って帰って来た水は、小粒化して一切の攻撃を無効化したオブスキュアソルトマンの攻略法だったのだ。
レストは【宝物庫】から水入りバケツを持って、他の塩に掛ける。
川から水を組んできたテンリも塩目掛けて、バケツの中身を落とす。
「……倒したか?」
水を含んで固形となった塩すら洗い流したかのような、水浸しの場所でレストは言う。
木霊する呆気ないと言いたげの声に反応したのは、
──ゴルルルゥ…
テンリやフタバではない。
足下の水が一ヵ所に集まり、5メートル以上の人型を形成すると、
───ゴルルルルルルァアアアア!!
悲鳴のような産声を上げた。
レストの声に答えたテンリやフタバでも、ましてやオブスキュアソルトマンでもない。
本来の攻略法から外れ、とある条件が揃った時に生まれる、オブスキュアソルトマンの成れの果てと言うべき存在だった。
────────────────────
レストが攻略法を見つけたと思って行動したら、水のやり過ぎが大事になり、ヤバい何かを引き当てる回でした。
10月23日23時
すみません。今週の更新は用事があって書けませんでした。
なので更新は次週です。
タイトルを『水やり過ぎるのは良くない』から『産声』に変更しました。
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