第116話 本能で回避する男。それはレスト

「ホォーーー(お前の調合の腕を見込んで、頼みたいことがある)」


 アノークが声のトーンを少し下げ、真剣な様子で言う。

 高価な調合セットに嬉しそうな笑みを浮かべたレストは、溢れる歓喜で反射的に頷こうとした直後。

 現れたもので動きが止まり、3秒経ってから動き出す。


『このクエストを受託した場合、承諾もなく連続的にクエストが進行します。クエスト失敗以外、途中で棄権はできません。それでも承諾しますか?残り57秒。Yes/No』

「…いや始めもだったよね!?」


 承諾もなくの部分が、勝手に始まったあのエクストラクエストにも当てはまり、思わず反射的にツッコミを入れたレスト。


(やるべきだよね)


 珍しいクエストを受けないとはゲーム的にあり得ない。

 それに失敗したなら兎も角、中途半端で終わるのは面白くない。

 そう考えたレストがYesを押すと、アノークはクエスト内容の説明を始めた。


「ホォーーーー(おぉ、受けてくれるか。それはありがたい。お前に頼みたいことって言うのは、秘薬作りだ)」

「秘薬?」

「ホォーーーーー(そうだ。これは聞いた話だが、この海運の離島にはな、殆ど手付かず故に本島では希少な動植物や、存在していない動植物が存在しているらしい)」


 人がない秘境だからレアな素材があるという話に、心当たりがあったレストは頷く。


「ホォーーーー(心当たりあるようだな。実はその中に、調合することで状態異常の呪いに効果がある秘薬を作れるみたいだ)」

「つまり、その秘薬に必要な素材を集めて、秘薬を作れって事ですか?」

「ホォーーー(この体では取り行くことも、作ることもできないからな)」

「なるほど…」

「ホォーーー(秘薬の材料は全部で3つだ。レシピは材料を持ってきたら教える。あと、なるべく早めに集めて来てくれ)」

「分かりました」


 承諾したレストは周囲の荷物を片付け、テンリを呼び戻す。

 そして、起きたフタバとテンリが仲直りしていることを確認してから、レストが森の中へ入ろうしたその時。


「ホォーーー(今さっき思い出したが、くれぐれも気をつけてくれ。秘薬の元になる材料は、強い存在から得られるらしいから)」

「…リ、リョウカイデス」 


 アノークの発言と同時に現れたクエストを見て、今さら「このクエスト一筋縄ではいかないかも…」と気づいた。


エクストラクエスト『アノークを救え②』

内容:6時間以内に、海運の離島の各所に出現する3体のボスモンスターを倒し、秘薬の材料を入手して、アノークに見せよう。残り5時間59分59秒。推奨プレイヤーレベル50以上。

報酬:錆びた海賊のカトラス、汚れた水宝の金杖、くすんだアクアリング、銀の耳飾り。



 海運の離島から南東方面に草木を縫って十数分経った頃、レストはそれらしき存在は見つけた。


(おっ、初めて見るモンスター)


 食虫植物のウツボカズラに似て、矢を収納する靫とそっくりな落とし穴式の袋が中心に一つだけあり。

 その周囲に二本の先が膨れて丸くなった、一切の葉がない蔦が生えていた。

 葉と葉の間から見える大量の葉で覆われた茎は太く、しっかりと根付いていることが分かる。

 例えるなら、虫を落とす袋が人で言う顔のようになっており、波打つ二本の蔦が左右の腕で、茎が纏う葉は服のようだった。

 高さは約3メートルだが、太くても茎は茎なので細く見え、何処かヒョロヒョロな人のようにも見える。

 そんな見た目からは強そうに見えないモンスターであるが、鑑定してみると、カンニングネペンテス(クエストボス)Lv50という目的のモンスターだった。


(レベル50か…フタバとテンリを戦わせるなら用心はした方が良いかな)


 レストはテンリとフタバのレベル上げも兼ねて戦わせることを決め、テンリに遠くから魔法で攻撃するよう念押し、フタバにテンリのことを頼んだ。


「【挑発】【天魔波旬】【ショートカット】!!」


 そして、物影から出たレストは中心が黒く染まった爆裂玉を投げ、戦闘を開始した。

 カンニングネペンテスは一撃で二割弱無くなり、茎が折れたような姿で倒れた状態から逆再生のように起き上がる。

 顔みたいな袋の穴と蓋がある方をレストに向け、足下で緑色の魔法陣を構築し始めた。


「よし!」


 動かない様子に喜びの笑みを浮かべるレストはタンクの役割をするため、より歩幅を広げ、少しだけ走る速度を上げる。

 だが、あと5メートルという所でカンニングネペンテスが動き出す。


「……」


 無音で袋と蓋が僅かに開くと、腕のような片方の蔓を振るう。

 それはまるでしならせた鞭。

 蔓の先端が地面すれすれの軌道を高速で描き、斜め下からレストを打ち上げる。

 勢いが乗った蔓とレストの軽さ故に、叩き飛ばされたレストは背後から木に激突した。


「はやっ…あれの回避は無理かな」


 あの鞭みたいな蔓は速くて回避できないと、レストは悟り腹を擦る。

 それに目がないモンスター故に【視線察知】が効かず、視線を向けたりしないから攻撃するタイミングも分からない。


「ヤバいな。あの蔓見た目より長いわ」


 あと、確証は持てないが、あの鞭のような攻撃は、あの蔓の長さよりも長い気がした。

 蔓による攻撃できるかできないかの距離を見極め、その距離を利用して攻撃を引き寄せようと考えたレストは再び走り出す。

 その行動が偶然にも、レストが死亡する運命を回避させた。

 当初予定していた至近距離で攻撃を食い止めようとして、蔓で絞殺される運命から。


────────────────────


あぶね。ギリギリ更新間に合った。

ちょっと用事が重なり、書く時間が取れなかったので、完成もギリギリで内容が薄いですね。

思ってたより戦闘シーンが書けなかったですし。

申し訳ない。

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