第117話 本来の事情と推測した内容は違うことが多い

 テンリとフタバはまだレベルが低く、レベル50の敵の攻撃を食らったらひとたまりもない、と考えたレストは自らを囮にするが。

 魔法陣を見て後衛型だろうから近接攻撃しても問題ないだろうと思い込み、同レベルのボスであるマッドネスウルフより弱そうだという慢心もあって普通に近づいた結果。

 見事手痛い反撃を受ける事となった。

 レストはマッドネスウルフも近接も魔法もできたことを思い出しながら苦笑し、適度な距離を見極めるために移動しつつ上を向く。


(…あれぐらいの高さなら問題ないかな)


 テンリはあの攻撃を見ていたらしく、フタバの安全を確保するためか、さらに上昇していた。

 それに安心したレストが【宝物庫】からただの石を取り出し、こちらに意識を向けされるようカンニングネペンテスの真横に投げる。

 高速で投げられた黒く染まった石は何の反応もないカンニングネペンテスの横を通り過ぎ、爆発範囲外の場所にある植物に当たり落ちた。

 その際、カンニングネペンテスは一瞬だけそちらの方を向き、すぐ後にレストへ蔓を振るい弾き飛ばす。

 僅かに弾き飛ばされたレストを確認したテンリは、完成した緑色の魔法陣を二つ、カンニングネペンテスの直線上に並べた。


「ガァァァア!!」

「ッ!」


 フタバによって魔力が強化済みの風弾が放たれた。

 それと同時に、遅れて魔法陣を完成させたカンニングネペンテスが上向き、片方の蔓で地面を叩く。

 声無き生物故に、それが魔法発動の合図となった。

 カンニングネペンテスの頭上で緑色の魔法陣が輝くと、風がカンニングネペンテスの周囲を覆う。

 風魔法【ウィンドベール】の設置型の全方位防御魔法だ。

 半球状に展開された風はテンリの放った風弾を呑み込みながら回り、魔法攻撃を無効化する。

 それを見ていたテンリは悔しそうに「グヴゥゥゥウ…」と鳴き、レストは石を投げた。


「よりにもよって飛び道具対策の防御魔法!?」


 魔属性が付与された石ですら、風の防御を越えることなく、、後方に飛ばされた。

 これを見て、もしかしてと思いレストは【ショートカット】で出した爆裂玉も投げる。

 風に流され、遥か後方で爆発。

 頬を引き攣るレストが、新たに魔法陣を準備し始めたカンニングネペンテスと、その周囲を見て漏らす。


「初手失敗したかもな…」


 初めの爆破の余波でカンニングネペンテスを中心とした周囲の木々は薙ぎ倒され、自動回収で無くなったため、相手に有利な環境となり。

 さらに、その影響でカンニングネペンテスが防御魔法を使い、近寄せないようテンリに魔法で攻撃させたが無意味となった。

 今にも特攻を仕掛けそうなテンリに、難しい顔をしたレストは色々と失敗続きで聞いてくれるかか分からないが指示を出す。


「テンリはその風が無くなった瞬間魔法で攻撃して!!…あと、フタバは攻撃してきた時に回避できるよう【アクセルコマンド】をお願い!!」

「あい!」

「……グヴゥゥゥウ」


 嬉しそうな声で返事したフタバに、何故か獰猛に唸り声を上げて魔法の準備を始めたテンリ。

 取り敢えずで、爆弾に火を点けて投げたレストがぼやく。


…か」


 マッドネスウルフにしろ、このカンニングネペンテスにしろ、回避や防御魔法で唯一の攻撃手段爆撃があっさりと無力化されていることに、「このままでは不味いのでは」と危機感を覚え始めるレストであった。

 ちなみに、爆弾は意味がない場所にクレーターを作った。



 カンニングネペンテスと戦って十数分経った頃。

 防御魔法解除後の再展開するまでの僅かな時間で、テンリが新登場の風球と風弾を交互に使い攻撃して、あともう少しでHPが半分と削れそうな所まで来た。

 その途中で、防御魔法越しに放たれた風の刃【ウィンドカッター】、風弾より速い風の矢を放つ【ウィンドアロー】で攻撃されたり。


「集中砲火!?」


 土魔法の【アースバインド】で拘束されて、攻撃スキルらしき鞭の連撃を放たれたり。


「そこ叩かないでぇーー!!あふんっ!!」


 【天魔波旬】が切れたタイミングで、虫系モンスターが乱入してきて毒液を頭から浴びたり。


「ゴッホゴッホ!鼻から入った。ゴッホゴッホ!!毒になってるし…」


 とにかく散々な目にあったレストは、フタバの回復魔法で泣きそうになりながらも、カンニングネペンテスの攻略方法を頑張って探した。

 そのお陰で、レストはカンニングネペンテスの欠点を見つけた。


「テンリ慎重にね。もし捕まっても助けるから!」←回復アイテムの二刀流

「あう!」←回復魔法を飛ばす

「…グヴゥゥ」


 その欠点とは、カンニングネペンテスが何故、鞭のような蔓を使いにくいこの場所に棲息していたかの答えのようなものだ。

 カンニングネペンテスは目も見えず、音も聞くことが出来ないことは【視線察知】と【挑発】を乗せた声で分かった。

 そこからレストは観察を重ね、誰もいない空に攻撃を放つ光景を目撃して閃いた。

 それがカンニングネペンテスの索敵方法では、空にいる存在の居場所を探知する術を持ってない、というものだ。

 テンリが魔法を使ったタイミングで防御魔法を発動し、カウンター気味に魔法でしか攻撃しなかったこと。

 それと殆どの攻撃が自身に集中していたことから。

 レストは気がついたのだ。


──地上にいる存在を感知するスキルと、発動後の魔法を感知できる【魔力察知】でしか、居場所を特定できない?


 そう考えると、上空にいたテンリとフタバは何処にいるか分からないので己に攻撃が集中した理由も分かるし。

 魔法を放って移動した後、魔法を放った場所に攻撃したとすれば、誰もいない空に攻撃した光景に説明がつく。

 このことから、カンニングネペンテスは草原や野原では空からの攻撃を阻止できるものがないから、森の中で棲息していた、とレストは考えた。


「フタバ、怖いかもしれないけど我慢してね」

「あぃー!」


 レストはテンリが高く飛び上がったのを確認すると、抱えていたフタバを【天魔波旬】の黒き衣で背中に固定する。

 そして、蔓が届くギリギリを入ったり、出たりしてカンニングネペンテスの気を引き、レストに蔓を振るう。


「グガァァァア!!」


 今までの鬱憤を晴らすように、生き生きとした様子のテンリは攻撃した。

 弧を描いて急速落下し、フタバの筋力強化に、遠心力とスキルを使った尻尾による振り下ろす攻撃だ。

 魔法陣を頭上で待機させていたカンニングネペンテスは、爆発で地面に叩きつけられた時みたいに、クレーターのある地面と衝突し、一割に届きそうなダメージを食らう。

 一撃離脱したテンリを確認したレストはニヤリと笑い、拳を空に突き出す。


「よし、この方法ならテンリの得意な攻撃が使える」

「あー!うー!あぃあー!」


 フタバも片手を上げて、楽しそうにニコニコと笑顔を浮かべる。

 余談だが、カンニングネペンテスは本来上空から訪れた敵に対して、木を伝って届いた振動で迎撃する筈だった。

 そう、初めに投爆して自動回収した木だ。


「テンリ、こっちに攻撃したタイミングで、攻撃よろしく。もちろん、攻撃後は念のため即離脱してね。フタバはダメージ負ったら回復魔法お願いね」

「あい!」


 本来の事情と微妙に違う推測の内容だったが、それでも有利な状況に違いはない。

 この後、レストが気を引いている時に、薙ぎ払われた蔓の最速攻撃がフタバに当たるかもと思われた場面で蔓を掴む、という運営すら驚愕させた場面があったらしい。

 それから順調に攻撃して、カンニングネペンテスのHPが残り約三割と言った所で、状況に変化があった。

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