第115話 正道から外れた邪道

 3時間以内に製作物とスキルの効果で、クジラのHPを30000回復させる。

 つまり、プレイヤーがこのクエストを達成するには、1時間当たりの回復量が10000、1分当たり回復量が約167、1秒当たりの回復量が約3回復させれば良い。

 だが、ここで多くのプレイヤーたちに運命が立ちはだかる。


「ライフポーションが12ない…生命水も使えないだろうし…。フタバ、【プラントヒール】できる?」

「あぅー」

「フタバのMPもないか」


 クジラが起きるまで、負傷した傷を治し、状態異常を治し、巨鮫の血痕で出血ダメージを負う度に治す。

 この行動がプレイヤーたちからアイテムを消耗させ、MPを枯らせる。

 例え、約100個の在庫を持つレストも、MPが高めのフタバも例外ではない。

 だからこそこのクエストは、プレイヤーのMPを回復させるにせよ、その場で回復アイテム作れる【調合】スキルが必須なのだ。

 製作物とスキルしか回復できないという点から見ても。

 それはレストも例外ではない。


「あぅ…」

「落ち込まなくても


 でも、落ち込むフタバを撫でるレストはある意味で例外だった。

 普通ならこのクエストは、生産活動が出来ないパーティメンバーや従魔たちが素材集めに向かったり、生産活動ができるプレイヤーや使い魔たちで大量生産に励んだり、など役割分担する必要があるけど。


「まぁ、回復量が300と考えて100本…いや急いで作るから回復量200と考えて、150本作れば足りるかな。神殿で作れば加速機能あるし」


 【万物の創造者】で回復量と素材と時間の問題を解決し、【調合の秘法】で大量生産できるレストには関係無かった。

 こうして、運営が用意していた救済処置に気づくことなく、レストはあっさりとクエストを達成した。

 そして、救済処置のクエスト期間中にモンスターを倒すだけで初級の上、下級ライフポーションの素材がドロップするという、島破壊活動歩く災害が起こってもおかしくない状況は回避された。



 クジラの近くにある砂山の頂上で、ライフポーションの中身入りバケツを傾けているレストに、クエスト達成を知らせる声が届く。


「ホォーーーー!(そこのハーフリング。すまんな迷惑を掛けた。お陰で大分ましになった)」

「……うおっ!?…ちょっ!」


 目の前から鳴き声に渋い声が重なって聞こえ、驚きのあまり後ろに重心が傾いた結果、レストが砂山を転げながら下りる。

 それに困惑した様子で「ホォー(大丈夫か?)」と声を掛けるクジラに、レストは「だ、大丈夫です」と震えた声で立ち上がり敬礼した。

 本来話せない動物が話すという展開に、レストはこれぞVRゲームの醍醐味と言いたげに頬を緩ませながら。

 そんな残念な人物にテンリは、頭の上で空の瓶を両手に持ち、頭を傾けてキョトンとしているフタバが、影響を受けないように顔の向きを変えた。


「ホォー(大丈夫ならいいが)」

「あははー。こっちは全然問題ないです。ダメージはないので」

「ホォーーー!(そうか。あーそれと、そちらのお嬢ちゃんと)」


 レストから視線を外し、一拍子置いてからクジラは言う。


「ホォー(龍お「グガァァァァァァアア!!」……」

「あう!?」

「グガァァァァァア!」

「ちょっ!?テンリどうした?」

「あぅぅぅ」


 今までにないぐらい荒ぶった様子で吼えるテンリに、レストは狼狽え、ぽろぽろとフタバが泣き始める。

 フタバの泣き声でハッと怒りが冷めたテンリは、レストの方に頭を下げ、フタバを渡す。


「あーーーー!!あーー!!あーーー!!」

「テンリ、どうした?」

「………グヴゥ」


 心配するレストを余所に、テンリはまるで頭を冷やしてくると言った感じで唸り、一度だけ海に潜ってから天高く、太陽を目指して飛び上がる。


「あんまり遠く行くなよーー!!」

「あぅぅぅ!あーーー!!」

「ほらほら、大丈夫だからね~」


 レストがフタバをなだめる光景を横目に確認し、クジラは声を響かせないで告げた。


「…ォーーーーー(…まさか、竜種の中でも特別な龍種がここにいるとはな。どうやら、訳有りのようだが)」


 フタバが腕の中で眠りについた頃。

 テンリとフタバの分まで互いに自己紹介を済ませたレストは、大きな傷痕がある方にいた。

 だが、前回見た時よりも赤い光の放出量は少なくなっていた。

 それに気付いたレストは目の前のクジラ、アノークに聞く。


「この傷はどうしたんですか?それに巨鮫の血痕って何ですか?」

「ホォーーーー(それのことか。これは厄介なやつに付けられたものだ)」

「厄介なやつ?」

「ホォーーーーー(神隠しでやって来た存在だ。油断していたとは言え、そいつは想像以上に狡猾な上、強者でな。海域中にいる人食いシャークを群れさせ、遊泳速度が落ちた所をやられた)」

「………」


 神隠しという気になる言葉があったが、人食いシャークと聞いて、レストは溺死させられ掛けた記憶が再起する。

 そして話の内容的に、ヤバいことに巻き込まれてる、と確信して頬が引き攣った。


「ホォーーー(お前が言う巨鮫の血痕っていう状態異常は、一種の呪いのことだ)」

「呪い…装備の呪いや呪詛と同じもの、ですか?」

「ホォーーー(様々なデバフの効果を持つという点で同じだが、本質は違う)」

「本質が違う?」

「ホォーーーーーーー。ホォーーー(まず、装備の呪いと違って、この呪いはバフの効果はない。それに術者を倒すまで、例え浄化しようが再発する。何度でもな。あと、マーキングとしての側面もある。だから、術者ならこの呪いを持つ獲物が何処にいようと特定される)」


 実質、解除不能な状態異常。

 呪いのアイテムでさえ、装備解除不可や最大HPの減少などのデメリットと、敏捷の値10%上昇などのメリットを持つのに対し。

 呪いと言うべき巨鮫の血痕は、場所の特定に、解除不可、様々なデバフ効果という、デメリットしかない状態異常だった。

 レストは試しに生命水を飲ませてみたが、貧血しか治らなかった。


「ホォーーーー(でも呪いは消せないが効果の弱体化は可能だ。お前にやって貰った、短時間で多大のHP回復とかな)」


 そう言ったアノークはクエスト報酬である、高価な調合セットを出して告げた。


「ホォーーー(お前の調合の腕を見込んで、頼みたいことがある)」


────────────────────


当初の予定では、30000回復するのに苦労するはずでしたが、余裕で作れることに気付き断念しました。

平常に持ってるポーションが100本(ヒント)ですし、下手に増やすと他のプレイヤーが無理ゲーになりますしね。

まぁ、予定からずれることは良くあることですから、殆どの人の予想通りこのエクストラクエストは続きます。

それにしても、邪道に進んだレストがもし救済処置に気づいたら、確実に時間ギリギリまで、素材集めするでしょうね(島の危機)。

もう、この救済処置はありませんが。

あと、フタバは兎も角、テンリはどうしたんでしょうね。


あっ、次回から久しぶりの戦闘パートの予定です。

これからも楽しんでいってください。

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