第110話 使い魔用スキル
「早く呼ばないと…その前にテンリ。頼むから何処か飛んで行かないでね。ここ危険だし、いないと悲しむから」
「……キュッ」
あの発言から時間が経って午後2時。
レストは仮の名前として『テンリ』と呼ぶようになった天空龍を連れて海運の離島に転移し、テントから出て朝の時間帯だが、山で影になった砂浜に立った。
ステータスを一度確認した後、レストは手を正面に出す。
「【サモン:フタバ】」
【召喚術】はあくまで召喚できる使い魔の数であって、召喚するスキルではない。
召喚するスキルは、使い魔に名付けることで、名付けられた使い魔の召喚スキルを習得できる。
それがレストによって『フタバ』と名付けられた赤ん坊を召喚する【サモン:フタバ】だ。
召喚スキルは召喚に必要MPがレベル×召喚数で呼び出せ、召喚中は常時MPが減少する仕様。
ちなみに、使い魔は任意か、召喚者が倒されるか、一定のダメージを受けると送還される。
レストがスキルを発動すると、マッドネスウルフがエレメントウルフを召喚した時のように青い渦が現れた。
だがあの時とは違い、青い渦は地面に平行となるよう出現し、一度少しだけ下降し上昇する。
「あい!」
「……キュッ」
青い渦が通り過ぎ、消えた後にはフタバが仰向けの状態で召喚され、不安そうだった顔から一転、近づいたテンリに満面の笑みで抱きついて頬をすりすり。
胴体を捕まえられ、頬擦りされて狼狽えているテンリは、しょうがないなといった感じで、フタバの自由にさせる。
ほっこりした表情のレストがフタバの近くに腰を下ろしてそれを眺めた後、モンスター避けの【天魔波旬】で2体を驚かし、フタバの常時召喚をする為にマナポーションで回復してからレベリングの準備を始めた。
レストが準備したものは燃焼草とスライムの欠片と樹脂と紙を原料で作れる、基礎レシピに“爆弾”と記載されたアイテムだ。
作り方は燃焼草を乾燥させて粉末状にした“火薬”と紙で、導火線と爆発部分の球体を作り、スライムの欠片と樹脂を加工したスライム糊で導火線と爆発部分を接合して作ることができる。
テニスボールぐらいの球体に導火線が突き出た、花火玉のような見た目。
これはフタバやテンリが寝ている間や、テンリがフタバの相手をしている時に作ったものだ。
名称:爆弾
種類:道具 品質:5
耐久値:30/30 重量:1
効果:導火線に火を点けると4.62秒後に微爆発する。攻撃力+2。与ダメージ上昇微。投擲可能。自爆可能。
導火線の長さや使われている火薬に応じて、爆発までの時間が変動するため、爆弾の一つ一つが爆発までの時間が違う。
それと火を点けるチャッカ◯ンを用意したレスト。
わざわざ爆裂玉の劣化版とも呼べる爆発アイテムを用意した理由だが。
「フタバちゃん、頼みたいことがあるけどいい?」
「あぅ?」
ろくに動くことができず、怖がりで戦闘に向いてないフタバをどうやってレベル上げすればいいか、考えた末に思い付いた。
──フタバが爆発アイテムで使えば、倒せなくてもモンスターに攻撃できることを。
だが、この方法ではレストが持つ爆裂玉は衝撃で爆発するため、落とすなら兎も角、投げることが出来ないフタバに使わせることが出来ない。
それに爆裂玉は爆発規模が大き過ぎて、フタバに使わせるのは不安だった。
「赤ん坊にこんなこと頼むのは、人としてどうかと思うけど…言ったら、これにこれで火を点けてくれる?点けたら、こっちに渡して投げるから」
だから、レストは爆発規模が小さく、フタバでも起爆が可能で、爆発まで数秒の猶予がある投げれる爆弾を作ったのだ。
それにこれなら、投げることでモンスターを爆発させられる可能性が上がり、フタバが爆発に巻き込まれる可能性が減る。
「念のため、火避けの指輪付きレザーネックレスした装備を着けて…」
レストは火属性耐性上昇小、火傷耐性上昇微、HP+1の効果を持つ装飾をフタバに装備させ、数度チャッ◯マンの使い方を教えた。
その時、フタバは爆発や火で泣き出しそうだったが、爆風を体で遮ったりしている内に、安全だと理解したのか普通に出来るようになっていた。
「ありがとうな」
「あい!」
点火用の魔道具を持っているフタバを抱き上げた状態で、恐る恐る撫でながらお礼を言うと嬉しそうに笑って返事した。
それにほっと息を吐いたレストは、途中から海の上空を飛んでいるテンリに声を掛ける。
「テンリーー!こっちに来てーー!」
「……」
「テンリちゃーーん!!ちょっと、こっちに来て欲しいです!」
「……」
「テンリちゃーーーん!!」
「あぅ~!」
「……キュッ」
レストの呼び掛けには答えず、フタバが呼ぶと戻ってきた。
出会いが出会いだったのでレストは嫌われても文句言えないが、仲良くなれる兆しのないテンリと仲良くなったフタバに羨ましいそうな顔した後。
再びフタバにお礼を言って、テンリに仕事を頼む。
「テンリも、やってもらいたいことがあるから手伝って欲しいかなーって」
「……キュー」
「ちょっと待って!これ、フタバも関わることだから!!」
「…キュッ」
何処かへ行こうとするテンリに、慌てて止めに入るレスト。
テンリはフタバに関係することだと言われ、一度フタバを見た後、レストに話を促すように鳴いた。
「えっと、テンリにやって欲しい事というのは、フタバが火を点けた爆弾を投げた後、【ショートカット】。これを上空から落として、とどめを刺して欲しい」
レストがテンリとフタバをレベリングする上で思い付いた方法は。
①モンスターの索敵後に、レストはフタバに爆弾、テンリに爆裂玉を渡す。
②フタバが着火した爆弾をレストが投げて、ダメージを与える。
③攻撃が届かない上空から、テンリは爆裂玉を落としてモンスターを倒す。
という爆発アイテムをふんだんに使ったレベリング方法。
もし、③で倒せなくてもレストが、【ショートカット】で呼び出した爆裂玉を投げて倒す予定だ。
でも、この方法の欠点として、モンスターに攻撃した対象が『火を点けたフタバ(爆裂玉を落としたテンリ)になるか』、それとも『投げた(所有者の)レストになるか』の違いがある。
もし、後者なら経験値が入らないので一から考え直す予定だ。
とりあえず、レストは爆裂玉がどれだけ危険か見せる為に、海の方へ投げて爆発させる。
「あぅーーう!」
「……」
「【ショートカット】。これぐらいの爆発力あるから試しに落としてみようか?もちろん、巻き込まれないように気をつけてね」
爆発に慣れたフタバは爆発を体で表現し、テンリは海を抉った爆発を見て固まり、黒いレストはいつも通りの表情で宣言する。
この後、爆撃練習を終えた一同は、【天魔波旬】の効果が終わると同時に山へ入り、この方法で出来ると確認してからレベリングを開始した。
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