第109話 誰か!ここにテロリストがいるよ!

 野菜炒めと使い魔に必要のないホットミルクを作り、その次の日にアリスへのお詫び作りや仲良くなろうと色々やって失敗し、さらに一日経った8月23日の午前9時過ぎ。

 ログインしたレストは、真っ先に天空龍と赤ん坊がいる果樹園へ向かった。


「あぅ~」

「…キュー」

「あい!」


 この2日間、天空龍との関係は一切の改善の兆しが見つからなかったが、一緒にボールで遊んだ(ボールを取りに行っていたのはレスト)お陰か、それとも肉の香草焼きを出したお陰か、触ろうとしたら怒るが近づいても怒らないようになり。

 赤ん坊との関係は、天空龍もレストも見るだけで怯えていたけど、天空龍とはいつの間にか、レストとはある切っ掛けで、怯えなくなった。

 それどころか、天空龍に関しては赤ん坊の隣で眠るようになり、寝ている赤ん坊に布を掛けて冷えないようにしたりなど、赤ん坊の世話をするようになっていた。

 今も作った布団が並べて置いてある上で、うつ伏せの赤ん坊がコロコロと遊んでいたボールがどっかに行くと、天空龍が回収しに行って遊ばせるという構図が出来ている。


「良かった…」


 その光景を遠くから眺めていたレストは、ずっと傍に居られる訳でないので、2体が仲良くなったことに自分のことのように嬉しかった。

 芝を踏む音で近くにいることに気づいた天空龍が、顔を向けると同時にレストは挨拶する。


「おはよう、二人とも」

「…あぃ」

「キュッ」


 少しびくびくしながら返事する赤ん坊に、そっぽ向いて返答する天空龍。

 それにまだまだ先は長そうだと苦笑したレストは、日課である水やりを始める。


「赤ちゃん、このぐらい?」

「あぅあぅ~」

「まだか」


 レストが話し掛けられるぐらい仲良くなれた切っ掛けは、育てている木への水やりだった。

 赤ん坊は育てている木に成った実から生まれた存在なので、考えれば意外でもないが。


「このぐらい?」

「あい」

「肥料は?」

「あぅ~」

「要らないっと」

「あい」


 必要な水量、肥料の有無を聞くと教えてくれるので、そこら辺よく分かってないレストにとって天啓と言える。

 水やりを終えたレストは天空龍の食事、玉ねぎと鶏肉と卵を使ったご飯が無い親子丼を作り始めた。

 すると、少し離れた位地で料理をしているレストの元に、天空龍が渋々といった雰囲気で近寄って来る。

 それに気づいたレストは包丁で肉を切るのを止め、振り向いて聞く。


「天空龍ちゃん、どうかした?ご飯はまだ出来てないけど…」

「キュッ」


 天空龍はレストの問いかけに、顔の向きを赤ん坊の方へやった。


「…あーもしかして、赤ちゃんに何かあったから来いってこと?」

「キュー」


 それで悟ったレストが聞くと、天空龍が返事すると同時に赤ん坊の方へ行く。

 レストも赤ん坊の方へ向かい、赤ん坊から少し離れた所で座った。


「何かあったそうには見えないけど……」


 すると、赤ん坊は押さえていたボールから手を離し、ゆっくりと寝返りを打って近づいてくる。

 レストは過去にない光景で瞠目する。

 そして3回の寝返りを打って息が荒くなった時、赤ん坊はうつ伏せの状態で「あぅー、あぅー!」と叫び、手を伸ばしてきた。 

 前みたいに触ったら泣き始めないか考えてしまい、レストは手を出したり引っ込めたりする。


「キュー」


 赤ん坊の不安げな表情がどんどん歪んできた頃。

 天空龍は呆れたような鳴き声を上げ、レストの手を噛んで赤ん坊の方へ持っていき、近づいたレストの人差し指を掴んだ赤ん坊が、ぱぁーっと顔を輝かす。

 レストは泣かなかったことに安堵しつつ口元を押さえた。


「あぃ…」


 最後に、可愛らしい欠伸をした赤ん坊は掴んでない方の手を上げ、仰向けで眠りについた。


「天空龍ちゃん、食事は後でいい?」

「キュー」

「…あと、ありがとう」

「……」


 天空龍は赤ん坊に掛け布を被せた後、赤ん坊の隣でとぐろを巻き、目を閉じた。


「やば…子供ってこんなに可愛いなんて思ってもなかった」


 天空龍が僅かに目を開けると、指を掴まれているレストが口元を隠していた。



(これが使い魔3体分か…意味分からん)


 2体が眠りに、その場から動けないレストは暇になってステータスを見たことで、赤ん坊のステータスが閲覧可能だと気付き、確認した結果──ツッコミ所が多かった。

 考えるのを放棄したくなるぐらいにだ。

 2体を起こさないように、脳内でツッコミしたレストは再び赤ん坊のステータスを見た。


『ステータス』

名前:名無し

種族:ドライアド

レベル:1

アビリティ

HP:2/2 MP:50/50

筋力:0 体力:0

魔力:6 耐久:0

敏捷:0 器用:2

スキル

【共存共栄】

芽吹いた土地でたくさんの命を育むことができる。

【指揮統率】

芽吹いた土地で生きる者たちを率いることができる。

【現身】

本体とは別に肉体を持つ。

【草の加護】

草属性の与ダメージを補正。

草属性の耐性を補正。

【精霊魔法Ⅰ】

精霊が扱う魔法に補正。

魔法の消費MPが減少。

【自然の息吹】

対象にHP回復量上昇中、MP回復量上昇中を付与する。

土地に使用した時に植物を高速で成長させる。

この魔法による土質低下、品質低下が起きない。

精霊族と植物族に使用した時に身体能力上昇中、不屈を付与する。

必要MP500。詠唱時間60秒。使用時MP継続消費。再使用時間クールタイム300秒。

装備

頭:【空欄】

体:【空欄】

両手:【空欄】

足:【空欄】

靴:【空欄】

装飾:【空欄】


 生まれてすぐなので名無しやレベル1なこと、木から生まれたからドライアドだということは納得できる。

 それにアビリティも見た感じ、数度寝返りを打っただけで体力が尽きる理由が、MPと魔力が多い魔法特化だからと納得できたが。

 でも、スキルの【共存共栄】【指揮統率】【現身】【自然の息吹】が意味不明過ぎた。

 まず【共存共栄】はかろうじて何かを育てるスキルとは分かるが、はっきりとした効果が分からない。

 次に【指揮統率】は従魔や使い魔を率いるのに便利な【指揮術】と、リーダー個体が持つことで連携技を可能とする【統率】を合わせたかのようなスキル。

 さらに、本来はデフォルト装備以外装備することが出来ない筈なのに、別の肉体を持つことで装備可能としている【現身】。

 そして、ユニークスキルだと分かる【自然の息吹】は、植物を促成栽培するのに向いた魔法で、それ以外にも効果を発揮するけど、現在MPの関係で使えない。

 この赤ん坊は後方支援型とも言える存在だった。

 それもレベル上げる方法がない能力値とスキル構成である。

 このことから、


(つまり、この子に装備させろってことだよな…)


 使い魔なのに装備可能な理由は、モンスターと戦えないぐらい弱いから、装備できるようになっている、とも言えた。

 それ事態は別にレストと相性が良いから気にしてないけど、肝心の問題が発生する。


(やっぱり、赤ちゃん用の服なんてないよ。てか…どうやって作れば)


 持っているレシピに赤ん坊が着る為の服なんて記されていることもなく、赤ん坊の服を作った経験もないからどんなものを作れば良いか分からない。


(これは調べて作るとして…どうやってレベル上げよう。天空龍ちゃんは風の弾を放てるから大丈夫だけど、赤ちゃんがな…)


 ここで、レストは始まりの街に戻ってレベリングする発想は出なかった。

 それは同レベルの相手よりも格上の相手を倒した方が、経験値が多いことを知っているからと、まだあの島を探索してないからというのもあるが。

 マーリンに行ったのと同じ方法でレベリングすることしか、考えてなかった。

 だが、その方法では赤ちゃんは魔法を放てないので攻撃が出来ない。


(魔法が出来なくても、せめて投擲が出来れば話は変るけど…ん?)


 自分で言っていて、あることに気づいた。


「この子が爆発物を使えれば上げられるかも」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る