第105話 レストの失踪

『【出血耐性Ⅰ】を習得しました』

『【痛覚耐性Ⅰ】を習得しました』


(………あれ、死んでない?というか、息苦しくない…)


 暗闇で静寂の中。

 スキル習得を知らせるアナウンスで、死んでないことに気づいたレスト。

 驚いたことに、さっきまであったはずの酸欠での息苦しさもなかった。

 だが、起きようとしても目を開けることもできず。


(耳もダメ。肌も何も感じない。体が動かせない?本当にどういう状況?)


 外界からの情報の一切を遮断され、思考だけができるよく分からない状態。

 困惑するレストはこの状況のヒントとなるものを探し始め、自身の状態が視界の端に表示されていたことで、意外にも簡単に理由が分かった。

 それを見たレストは今まで焦って気づけなかったが、食堂で気絶した時にも、視界以外の五感は僅かにあったけどこの状況と同じ経験をしていたことを思い出す。

 今回の状況がどういうものか理解したレストは、感心したような呆れたような感情を抱いた。


(酸欠で気絶するって、妙に現実的なんですけど…)


 現実で酸素が不足している者が意識を保てなくなって失神するように、FMGでも似たような現象が起こる。

 それが呼吸不足での酸欠が続いた場合に起こる状態異常だ。

 酸欠は空気を取らないと息苦しさと効果が増し、立ち眩みするようになる眩暈、体に力が入らなくなる脱力が発生する。

 そして、効果が中になった酸欠は数秒毎に1%のダメージが入り、大となって昏睡を発症して意識を失う。

 特にこの酸欠は、空腹、疲労、脱水などと並ぶ、耐性が存在しない自力で回復できる状態異常なので、レストの装備の状態異常耐性上昇は効かない。

 そのことを詳しく分かった訳でもないが、酸欠の恐ろしさを直に感じたレストは自身の状態を確認する。


(遊泳速度低下小、難聴小、出血中、激痛小、出血耐性低下小、激痛耐性低下小、空腹微、疲労微、眩暈中、貧血、脱力小、昏睡…うわぁー、結構な重症。て言うか、よりにもよってあのサメ、搦め手タイプだ)


 過去最大数のデバフの数々。

 人食いシャークというふざけた名前とは裏腹に、周囲を泳いで遊泳速度低下を付与し、逃げられない相手を海中へ引きずり込み、溺死させる凶悪が似合うモンスターだ。

 それにFMGのサメモンスターは牙に出血や激痛の耐性を下げる【鮫の歯】と、出血と激痛を発生させる【鮫の牙】を生まれつき持っている。

 これら相乗効果で治療する余裕もなく、出血が長時間続き貧血という肉体系の状態異常耐性を低下と悪化させ、状態異常ではめ殺す戦法。

 レストにとって最も最悪だったのは、人食いシャークの牙が刺突攻撃に分類され、装備の斬撃耐性上昇が作用しなかったことだろう。

 そのせいで僅かにだけとは言え、攻撃スキルで弱点(ヒント:下半身を噛まれていた)にダメージを与え、状態異常を負わせられたのだから。


(これ起きたら、止血剤や鎮痛剤で回復する必要あるな…さすがに)


 念のために作っていた状態異常の回復手段が役に立ちそうで、こんな状況だがレストは少し嬉しかった。


(てか、出血ダメージで減ったHPを回復してるけど。もしかして、誰か助けてくれた?)


 白砂のビーチの段階ですら周囲にプレイヤーは居なかった。

 それなのに都合良くプレイヤーが助けてくれるか、と思わずにはいられない。

 だが、そもそも別のプレイヤーが戦っているモンスターは救援要請を出さない限り、他のプレイヤーは干渉することはできないので、ますます意味が分からない。


(まぁ、起きてから状況を見て考えよう。それよりも天空龍ちゃんに会いたいな…)


 考えても分からないので起きた時の自分に任せ、レストは天空龍に思いを馳せた。



 昏睡の効果時間が切れ、最初に感じたのは体の右側から掛かる圧力。

 その次に水を切る音が聞こえ、腹の下に人肌のような温かさがある何かがあった。

 レストは不思議に思いながら瞼を上げると、


「……ばびぞぼぢょぐぎょうなにこの状況


 理由は不明だが、周囲にたくさんのイルカがいた。

 それも海中でその群れの一頭に乗せられ、運ばれている。

 何かに巻き込まれたことは確定だと悟ったレストは、慌てず騒がず状況を確認する。


(もしかして…このイルカたちが助けてくれた?)


 眩暈中の歪んだ視界で時間を掛けて、イルカたちの情報を探った。

 分かったことはそれぞれに個体名が付けられており、青色のアイコンから友好NPCであること。

 出血ダメージで減ったHPを回復魔法で回復させ、水中呼吸を可能とする胸元の青い魔法陣が切れる度に付け直していること。


(うん。やっぱり、イルカたちに助けられたみたいだ)


 途中で再び人食いシャークが襲ってきたが、イルカたちが水魔法を一斉に放つことで退けていた。

 このことから、レストはあの人食いシャークからイルカたちが助けてくれた線が濃厚だと判断した。


(一体何で…)


 だが、幾ら見ても、助けられ、連れて行かれる理由は分からなかった。

 イルカたちから助けられる何かをした覚えがないレストは、本当に不思議だった。

 そんなことをしている内に、遠目で岩場から砂場へ変わる境界が確認できた。


(あー、そういうことか)


 どうやらあのイルカたちは、人食いシャークに襲われている人を救難する、お助けNPCだったらしい。

 レストを乗せたイルカだけが浅瀬の方へ向かって、陸まであと少しの地点で止まり、水面をペシペシと叩く。

 下りろと言われたような気がしたレストは、ゆっくりと立ち上がりながら感謝を伝える。


「助けてくれてありがとう」

「ピューーイ!」


 イルカが気にするなという感じて水面を叩き、颯爽と群れがいる方へ戻った。

 レストはイルカたちが見えなくなるまで、大きく手を振って感謝を示す。

 そして、砂浜に戻ろうと初めて陸地を見たレストが、海の方を向いて慌てて叫んだ。


「イルカ様、カムバーーック!!」


 イルカたちに連れて来られた場所は、何処からどう見ても“白砂のビーチ”ではない。

 レストがいる所は、何処からどう見ても海にポツンとありそうな孤島だった。


────────────────────


お待たせして申し訳ありません。

イベントまで誰にも目撃される訳にはいかなかったので、こういう方法を取りました。

これで誰にもイベントまで知られずにレベリングができる環境が整いました。

誰もいない辺境で育てて、イベントでお披露目…この展開で行きます!!

これからも楽しんで行ってください。

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