第106話 くっ…長くなった

「この辺り見回ってみるか」


 イルカに連れて来られた場所は海運の離島。

 無人島に漂流した人のような気分を味わったレストは、状態異常をある程度回復した後、砂浜と近くの山を探索した。

 だが、想像以上に広そうだったので、探索は30分ぐらいで打ち切り、砂浜に戻った。

 海辺からイルカたちがいる方を見つめていたレストは、理解したかのように呟く。


「なるほどね。だから、ここだったのか…」


 そう言ったレストの手には、2種類のアイテム。

 一つは出血を微小軽減する“血止草”、もう一つは激痛を微小軽減する“遮痛葉”だ。

 これはレストですら初見の状態異常を回復させる素材である。

 レストが知っている限り現在の状態異常を解除方法は回復魔法か、状態異常が発生する素材から作った状態異常回復アイテムのみ。

 しかし、状態異常を回復させる素材が山に入ってすぐにあった。

 つまり、イルカたちが連れてきたこの島には、『サメに負わされた状態異常を回復させる手段がある』ということになる。

 その事からレストが言った通り、回復手段があったからここに連れて来られたことが分かる。


「まぁ、考えても仕方がないか」


 そこまで考えた所で、レストは思考を立ち切るように頭を振った。


「…さて、どうしようかな」


 レストの頭には、二つの選択肢が浮かんでいた。

 それが『この島を探索するか、それとも街へ戻るか』だ。

 もし、前者を選択すれば、今日は残りの時間を消耗品の補充予定なので、天空龍の元へ行くのは最低でも明日以降となる。

 だが、後者を選べば、リスロを利用して街に戻った場合、来ようと思ってもこの島へたどり着ける保証がない。


「本当にどっちにしよう…」


 それを難題に直面した表情で、腕を組み悩むレストは、一度だけ山に視線を向けて決めた。


「ごめんよ、天空龍ちゃん。男は…無人島というロマンに弱いんだ…」


 レストは天空龍と無人島のどっちを取るかで、以外にも無人島を取った。

 理由としては、会いに行けば会える天空龍と、今回限りかもしれない無人島だと考えたら、無人島を選ぶのは必然かもしれない。

 まぁ、それは無人島にロマンを求めるレストの建前だが。


「海にテントを立てる場合は確か…」


 テレビ番組に毒されているレストは番組の知識を使い、波が届かない地点の砂浜にテントを張った。

 この時のレストが非常に嬉しそうな表情だったことを、ここに記す。


「無人島と言えば…モリか…うっ、ゴムを入手するまで作らない予定だったのに…【神工房】」


 そして、レストは毒されている言葉で嘆いた後、テントからプレイヤーホームとして扱われている神殿へ転移した。


「キュッ…」

「て、天空り「キュー!!」ゅんっ!?」



 焚き火で熱したフライパン。

 その上に置かれた一口サイズのマッドネスシープの肉を、菜箸でひっくり返す。

 肉からは食欲がそそられる匂いと共に、じゅうじゅうと焼ける音が放たれる。

 レストは軽く塩をパラパラと掛け、裏面が焼けたことを確認すると、一つ口に運んだ。


「うん。やっぱり、暴獣からドロップした肉は美味しいね」


 マッドネスシープの肉は、シンプルな塩のみで焼いているのに、臭みはなく。

 それどころか、味の深みと上質な肉の味を舌に届けてくれる。

 羊の肉なんて食べたことがないが、美味しいと思わずにいられない肉を味わうレストは、自然に顔がほころぶ。

 すると、近くで見ていた天空龍が不機嫌そうな唸り声を上げた。


「キュッ…」

「あっ、ごめんごめん…はいどーぞ」


 レストは天空龍に催促され、急いで木皿に焼いたマッドネスシープの肉を乗せ、布が敷かれた場所に置く。

 それを確認した天空龍はそこを陣取り、黙々と食べ始める。

 その光景を見て口元が緩みそうになるレストに、天空龍がジロリと見て料理を促した。


「キュッ…」

「…あっ、はい。ちゃんと作るから」


 怒られたレストは弱々しい言葉を返し、残りのマッドネスシープの肉を焼き始める。


 この状況だが、説明すると理由は単純だ。

 放置されて腹ペコになった天空龍に、レストが食事を作っているという状況である。

 レストが不注意で居なくなったあの時、天空龍は神殿へ転移されていた。

 【神工房】による内部時間が半分の神殿で、孵化して一度も食事を取ることなく。

 食べ物の在り方が分かる力もない。

 その結果が、半日以上放置したレストに尻尾ビンタ。

 噛みつかれた状態で水やりに向かっていたレストが、なんとなく鑑定したことで空腹が発覚して、今にいたる。


 ちなみにだが、天空龍には“ドラゴンには肉”というイメージの元、最初は【万物創造】したマッドネスシープの生肉をあげてたが。

 隣でレストも食べようと思い焼き始め、それを食べた天空龍が料理するよう催促するようになった。


「もっと欲しがったら知らせて」

「………」

「本当にごめん…色々…」

「………」


 追加で作った料理を置いたレストは天空龍に声を掛けたが無視され、精神に深いダメージを負った。

 それから、可能性の種から生えた木への水やりと、見た目以上に食べている天空龍からの催促を繰り返す。


 そして、水やりを終えて催促もしなくなった頃。

 天空龍は布地の上でとぐろを巻き、暖かな日差しと満腹感で欠伸して、寝ようとしていた。

 その光景を和んでいたレストは、現実世界の方に写真を残す課金コンテンツを買おうと、割とガチで考えていると…


(一体何が!!)


 突然風もないのに、大切に育てていた木はガサガサと揺れ始めた。

 その異常事態に、眠ろうとしていた天空龍もビクッと反応して顔を上げる。


「ヤバッ!!」


 枝葉が擦れる以外の音はしなかった。

 だが、レストはしっかりと瞳に捉えていた。


──あの木に成っていた実が落ちる光景を。


 それを見た瞬間、レストは反射的に走り出す。


(届けぇーーー!!)


 何か予感があったのかもしれない。

 それとも、初めて育てた植物だったから、思い入れがあったのかもしれない。


(あと少し!!)


 本人すら分からない何かに突き動かされたレストは、ヘッドスライディングのような体勢で落ちてくる実を、両手に乗せた。

 顔や胸などを地面に激突し、痛みがあるけど両腕を伸ばし、実にはダメージが行かないようにする。

 両腕を上げて地面に顔から突っ込んだレストに、NPCの天空龍ですら呆れた表情を浮かべた。


「良かった…」


 実を確認したレストはその体勢のまま、地面に頬を着けて安堵の息。

 天空龍はその光景を見つめた後、寝ようと顔を戻そうとする。

 この一息を吐いた瞬間、レストに既視感のあるアナウンスを届く。


『【召喚術Ⅰ】を習得しました』

『【召喚術Ⅱ】を習得しました』

『【召喚術Ⅲ】を習得しました』

「うぉっ!?」

「キュッ!!」


 レストはアナウンスに驚いて顔を上げ、天空龍は強烈な発光に眠気が飛ばされて見上げる。

 だが、あまりの眩しさにレストも天空龍も目を逸らした。


「あれ?…」


 そして光が収まった時に、レストは両手に人肌のような温かさを感じ、不思議に思いながら視線を向けた。

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