第101話 暴走②

「…この犯人?」

「………」


 燃えてないオオテ鉱山の一角から、遠目でも分かるほど大きな火球が放たれ、生木で魔法の火とは言え、大火球が進んだ場所の何ヵ所が燃える。

 さらに、放たれた地点の木々が一気に燃え始め、横一直線にゆっくりとだが人為的な火災は広がった。

 その光景を見ていた周りのプレイヤーたちも騒ぎ出し、言葉とは裏腹に目が細くなっているアリス。

 聞いても反応がないレストの方へ向くと、口元がヒクヒクと動いている。


「…レスト。もしかして、犯人知ってる?」


 小声で耳元に言ってきたアリスに、レストは観念したかのような表情で頷き、小声で話す。


「リア友のマーリン。さっきパーティ組んでいた人で、火魔法をメインにしていて…」

「…それで」

「さっき、報酬として、松明あげちゃった…」

「………」


 それを聞いたアリスは、片手で顔を覆った。

 松明無双を知っているアリスは、横一列に燃える火が付いた理由にもレストの松明が原因だと気づき、「…レストォォ」と怨嗟の声を上げる。

 オオテ鉱山の大崩落の原因であるレストは、オオテ鉱山の大火災の原因でもあったのだ。


「なんか…ごめんなさい」

「……」

「暴走癖がこんな形で発揮されると思ってませんでした…」


 レストは知らぬ内に増えた罪状で、既に心が折れた。

 隣の黄昏るレストを見て、アリスはそっとしておくことにした。

 それから数十分経ち、次はジグザグと放火を重ねながら、レストたちがいふ場所にマーリンは到着した。


「おっ、光を頼りに来たらレストを発見できたんじゃ、ラッキー」

「こっちはアンラッキーだよ」

「ということで水を貰えないかのぅ。脱水で死にそうじゃ」

「…はぁー」


 レストはマーリンに苦言を呈したが、ハイテンションな様子に、げんなりして水入りバケツを渡す。

 それを勢いよく飲んだマーリンが袖で口元を拭いた後、バケツを返却し、レストの近くにいるアリスへ挨拶をする。


「おっ、お主が勇者アリスじゃな?ワシはマーリン。こいつとは、腐れ縁の…親友みたいなものじゃ。よろしくな。フォーフォフォフォフォ!!」


 凄くハイテンションでフレンドリーな老人に、思わず後退するアリス。

 このマーリンが高笑いしたタイミングで、最後の問題が発生する。


「「……」」

「フォーフォフォフォフォ!!」


 誰もが無言となる中で、マーリンの声だけが響く。

 マーリン以外のその場にいたプレイヤーたちは、超常の現象を目の当たりにする。

 マーリンの背後にある全体が燃えていたオオテ鉱山の火が上空に集まり出したのだ。

 その光景を見ていたプレイヤーたちの異常な雰囲気に、背後を振り返ったマーリンも呑まれる。

 幾つもの帯みたいな火が立ち上ぼり、マーリンが放った大火球よりも大きな太陽のような火の塊が夜を照らす。

 オオテ鉱山を燃やしていた火が無くなると、上空の超巨体火球はどんどん縮んでいく。

 そして、


「あれこっちに来てねぇか!?」


 誰かの言葉を皮切りにプレイヤーたちは走りだし、アリスはレストを掴んで離脱する。

 その少し後に、太陽のようだった物体は落ちてきた。

 マーリンの目の前にである。


『ほぅ、お前が我を起こしたのか』


 地面へ衝突した際に爆散して、火を辺りにばらまき、落ちた場所から人らしき姿と威圧感の声が響く。

 だが、奇妙なことは誰も火に触れているはずなのだが、熱くも、ダメージすら負ってないことだろう。


『おい、そこの人族。お前だ』


 露出が多い赤色の民族衣装を着た、全身が筋肉質の男は、褐色の腕を組み、火のような赤い髪と同じ色の鋭い瞳で見下ろし、高圧的な態度で聞く。

 マーリンは突拍子もない事態に肩が震わせ、上げた顔に不敵な笑みを浮かべていた。


「フォーフォフォ。その通りじゃ、ワシがこの事態を起こした者じゃ」

『ふむ。名を言え人族』

「いやじゃ。人に名前を聞く時は、まず自分からというじゃろ?」


 なんと、マーリンは見るからにヤバい相手に喧嘩を売り始めた。

 男はニヤリと嗤い、何百もの火弾を瞬時に展開する。


『これでもか?』

「そうじゃ、それぐらいどうってことない。だってそれじゃあ、お前さんの聞きたいことを聞けないじゃろ?」

『「………」』


 周囲の火すら荒ぶり、二人だけの世界を形成した。

 射貫くかのような眼光で見下ろす男と、視線を逸らさず不敵に笑うマーリン。

 ただならぬ緊張感の中、周囲の火弾がマーリンに向かって動き出して着弾。

 見ていた他の人たちがマーリンは死んだと考えたその時、声が木霊する。


「『フォーフォフォフォフォ(ハァーハァハァハァハァ)!!』」


 マーリンと男の笑い声だ。

 もう、この時点で友人のレストも、他のプレイヤーの皆さんも意味が分からなかった。

 二人は一頻り笑い合った後、お互いに同じ笑みを浮かべて近づき、メンチを切りながら握手する。


『我から名乗ろう。我は火の大精霊、サラマンダーのイグニスだ。で若造、名前は?』

「ワシはマーリンじゃ。お主のことは、イグニスと呼ぶぞ」

『いいだろう。我はお前のこと、マーリンと特別に読んでやろう』」

「『フォーフォフォフォフォ(ハァーハァハァハァハァ)!!』」


 再び胸を張って高笑いする二人に、外野はついていけない。


『それでお前は火は好きか?』

「何を言う。火は最高に決まってるじゃろ?」

『人族にしては良く分かってるじゃないか。気になったぞ。よし、マーリン、お前に火の試練を受けさせてやろう。もし、クリア出来れば、火の御技を授けてやるぞ。どうだ?』


 それにニヤリと笑って承諾するマーリンは、イグニスという精霊の肩に乗せられる。

 すると、何事かを話したイグニスがレストの方へやって来て、驚いた表情を浮かべる。


『ほぉーう。お前、面白い友人を持っているようだな』

「そうなのか?」

『ああ。まさか、あのガミガミババアから祝福を貰う存在が居るとはな』

「祝福?」

『高位の存在が気に入った個体に与えるものだ。といっても、効果があるわけでもないがな。あえて言うなら、同じ高位の存在の目に留まりやすくなるぐらいだ。今みたいにな』

「おぉー、さすがレストじゃな」

『マーリン、お前にも我の祝福が付いているからな』

「おぉ、それは面白そうじゃのぅ」

『分かってるじゃないか』


 肩に乗せられた体勢で話すマーリンと、凶悪な笑い顔を見せるイグニス。

 レストは困惑した様子で何度もアリスの方へ救援要請を出すが、アリスは全力で顔を背け後退している。

 この状況を打開する為にいっそ燃やしてくれと、見せかけだけの火へ願わずにいられない。

 ましてや、


『それにしても、ババアから気に入られ、マーリンの友人か…小僧の名前はレストだったな。覚えておこう』


 ニヤリと口元を歪めるイグニス。

 見るからにやべえ存在に名前を覚えられるなんて、どうしてこうなった、と泣きそうなレストは思わずにはいられない。

 そんなレストの心情に気づくことはなく、イグニスはマーリンを指して言う。


『お前の友人借りていくぞ』

「…どーぞ。煮るなり焼くなりしてください」

「おい!」

『ハッハッハッハッ。お前の友人も面白いな…行くぞ、マーリン。言い忘れたことはないか?』


 この状況を作ったマーリンにレストは反射的に悪態を吐くが、イグニスからお誉めの言葉を貰う。


「あー…今日は助かったわい。お蔭でユニークスキルも習得できたしのぅ。今度、土産持っていくわい。これからイグニスの所へ行くから達者でな。イグニスいいぞ~」


 イグニスに促されたマーリンは片手を上げ、さらりと重要な報告を済ませる。

 この時点で、レストは騒動の原因が自分自身だと悟る。

 最後の一言を聞いたイグニスが飛び散った火を自分に集め、マーリンを肩に乗せたまま、ロケットみたいな飛び方で空へ消えた。

 少し経って、ここにいた全員が様々な理由から回復した頃。


「皆さんにお話したいことがあります。さっきの山火災は自身も少し関わっている部分もあり、多くの人に大変ご迷惑おかけしました。お詫びが出来ない友人の代わりに、お詫びさせて貰います。責任の一端はありますので」


 と、泥だらけ(ロケット発射で吹き飛ばされた)で土下座をして、負傷している(ロケット発射で火傷を負った)レストが言い出した。

 既に大量のお詫び品を貰っているプレイヤーたちは、レストのあんまりな姿に、良心と同情心から一致団結してお詫びを阻止しようとする。

 結果はレストがお詫びとして、廃坑の悪夢の情報と、確証が無い特殊な討伐方法の情報を話した。

 あと、アリスのお詫び(アメジストドームと睡眠薬のセット)だが、「…返せてない剣の分を相殺して」と拒否され、後日に大量の剣とマナポーションを送った。


────────────────────


殆どの元凶は自分だったと悟ったレストは、何がなんでも謝って、お詫びしないと気が済まなかったのでしょう。

ただでさえ、大崩落の原因で反省していたのに、大火災の原因にも関わっていたから。


ひとまず、これでレストとマーリンの話は終わりでいいかな。


これからも楽しんでいってください。


P.S

次は100話記念と50万PV記念で作ったお話です。お楽しみに。

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