第102話 if:勇者がいない世界①

 アリスと出会わなかった8月10日。

 始まりの街をのんびりと進み、木漏れ日の森でマイペースに素材集めをしていたレストは、川が無い場所でキャンプをした。

 この結果が、正午の『暴獣の宴』と呼ばれるマッドネスベアの襲撃は、アリスと出会った世界と違う結末を迎える。


「グォォオオ!!」

「あと少し!!」


 足下が見えない中で必死に足を動かし、木の根で転けそうになるが耐える。

 レストはマップを見る余裕もなく、前に倒れた推進力すら利用し、無理やり地面を蹴った。


「ここを出れば、逃げられる!!」


 始まりの街が先にある森の終わりを目指して、我武者羅に足を動かす。

 そして木漏れ日の森を出ることに成功する。


「グォォォォォオ!!」

「まだ追ってくるかぁぁあ!!」


 レストが最高の力を振り絞り、マッドネスベアを引き連れながら、始まりの街までの道のりを駆けた。

 こうして、本来ならここで、初の暴獣討伐“暴獣の匂い袋”と“暴獣の御守り”、初のソロ討伐報酬“暴獣の心晶”を入手し、マッドネスベアの初討伐者となったのだが。

 レストはマッドネスベアから逃げ切り、無事に始まりの街へ到着したことで、それらの権利を得る機会を失った。



「イベント限定っぽい素材…入手しておきたいな」


 レストがイベントに興味を持ったのは、翌日の8月11日だった。

 討伐した人が公開していた入手アイテムを見て、欲しいと考えたレストは行動を開始する。

 最初にやったことは、木漏れ日の森でモンスターと一緒に自爆することだった。


「これを利用すればいける!!」


 レストが考えたことは暴獣と戦えるほど強くないなら、アイテムでどうにかするというものだ。

 だが、今の装備はこれ以上良いものを作れず、攻撃手段は爆発アイテムのみ。

 そこで発想を変えて、最大の攻撃方法は何かを考えたレストは、気が付いた。


──自爆が一番強い攻撃方法だ!!


 ということに。

 そこで奥の手の濃縮炸裂薬を幾つも使って自爆すれば、ボスを倒せるかもしれないと閃いた。

 でも、肝心のアイテムが自爆で倒すことに成功しても、【宝物庫】の自動回収できるか分からなかった。

 だから実験して、できると確信したレストは、3つポーションを固定するタイプのレッグホルダーと、大量の濃縮炸裂薬を生産した。


名称:レッグホルダー

種類:装備 品質:5

耐久値:186/186 重量:2

効果:衝撃緩和微、敏捷+2、耐久減少軽減微、移動速度上昇微。

参考:レスト作。

創造者効果:衝撃緩和小、敏捷+4、耐久減少軽減小、移動速度上昇小。創造者権限。


 作り終えたレストはレッグホルダーは装飾なので、ライフリングとマナリングから2つのレッグホルダーを装備する。


「よし行くか!」


 まず向かった場所は、マッドネスベアの所だった。


「暴獣のアイコンが出てないな。あの夜はあったのに……もしかして、わざと表示させていた?アイコンも含めて追ってきたら、ビビるだろうし」


 そんなことを考察しながら、レストはマッドネスベアを探し、既に討伐されており、多くのプレイヤーで賑わっていた。

 パーティ組む手もあったか、と気づいたレストだったが、ソロでマッドネスベアに挑んだ。


「グォォォォォォオ!!」

「………えぃ!!」


 現実なら午後15時、ゲームは3日目の昼の時間帯。

 レストは試しということで、討伐失敗したら濃縮炸裂液を1個ずつ増やしていく、ローラー作戦を実行した。

 寄ってきたマッドネスベアを確認し、地面に濃縮炸裂液を叩きつけて自爆する。

 大広場で復活したレストは自動回収のログを見て、喜びのガッツポーズをした。

 マッドネスベアの討伐成功である。


「よし!次は緑園の草原だな。1つで十分そうだし、やるぞ!!」


 緑園の草原にいるマッドネスシープへ突撃して、同じ方法でマッドネスシープを討伐した。

 討伐で入手した素材にニヤニヤと喜んだレストは、一度ログアウトして暴獣の居場所を調べた。

 それが載っていたサイトは、『【FMG】第1回目のイベントについて』という掲示板である。


「一番強いボス倒せたら、全部倒せるということだよね」


 1個でマッドネスベアが倒せるなら、と考えたレストは、マッドネスウルフに対してはレッグホルダーに6個、両手に2個を持って挑む。

 結果は失敗。

 最初に魔法を放たれ、それが原因でレストだけが爆発した。

 マッドネスウルフは高速移動スキルで離脱して、HPすら減らせなかった。


「魔法はひどい!!」


 でも、近づいて自爆すれば勝てる見込みがある、と考えているレストは、この後に2度挑んだ。

 結果はもちろん失敗。

 だが、3回目に挑戦した夜のマッドネスウルフで、濃縮炸裂液を出し忘れていた戦闘開始したら、跳んで近接攻撃を仕掛けて来た。

 それにより、大量に濃縮炸裂液を持っていたから、魔法攻撃をしてきたという可能性が浮上した。

 もう一つ、分かったことがある。


「耐えたよね…」


 押し潰された時に、濃縮炸裂液を5本出して自爆したが倒せなかった。

 考えても思い付かなかったレストはひとまず、減った濃縮炸裂液を作りに、路地裏で転移した。


「…これ使えば、回避問題解決じゃね」


 レストは【神工房】を使えば、攻撃を回避できることに気づいた。

 急いで濃縮炸裂液を作ったレストは転移し、マッドネスウルフのもとへ向かう。

 この時、レストは目の前のことに集中し過ぎて、背後にいた黒髪の猫人を見逃した。



「やるぞ!マッドネスウルフ!!」

「ワァォォォォォォオン!!」


 エレメントウルフの召喚と、高速移動で飛び上がり、落下と自身の体重を利用した前足による攻撃。


「それは前に見たよ?」


 背後に隠していた沸騰しているかのような濃縮炸裂薬。

 偶然にもこの時、場面が違うとはいえ、レストは“秘薬・三倍濃縮炸裂薬”をマッドネスウルフに使う選択した。


「【神工房】!」


 落ちてくるマッドネスウルフより早く、足下に秘薬・三倍濃縮炸裂薬を叩きつけ、【神工房】で離脱した。

 しかし、あの時とは威力が桁違いという点を除けば。

 レストは爆発に晒される直前、転移することに成功して、【神匠】でブーストされた自爆時威力強化中が発揮され、超大爆発が起きた。

 効果で言えば半径112.5メートルの爆発だが、実際には半径130メートル以上という有効範囲260メートルというぶっ飛んだ超大爆発。


「えっ…ここどこ?」


 戻ってきたレストが落下ダメージで重症を負うほど深いクレーターは、見上げても闘技場が見えなかった。

 どうにか出ようとしているレストが壁登りに挑戦している間に、空に巨大な魔法陣が構成され、弱体化させる闇の雨が降る。

 マッドネスウルフは下りて来ると同時に、弱体化しているレストを動けないように前足で踏みつけた。


「ぐっ…」

「グルルルルルルル」


 狂暴化状態に一角が生えたマッドネスウルフから力強く踏みつけられ、弱体化した影響もあり、動くことは一切できず。

 マッドネスウルフの周囲にいるだけでダメージが入る闇の領域、下って来るエレメントウルフ。

 さらに、マッドネスウルフが幾つもの魔法陣を展開し始めるという、絶体絶命な状況。


(どうするどうするどうする。これだ!!)


 必死な思考の末、レストは状況を打開する方法を思いつく。

 レストは口でメニューを操作し、直前の操作で表示されていた秘薬・三倍濃縮炸裂薬をオブジェクト化させて咥える。


「あぶあ《あばよ》!」


 そして、それを勢いよく噛みしめた。

 高速移動スキルで回避しようと試みたマッドネスウルフも巻き込んで超大爆発。


「ゴホゴホゴホ、ゴホゴホゴホゴホ」


 復活と同時に、体内から爆破させるという経験をしたレストは激しく咳き込み、アナウンスの最後に聞こえた声で顔を見上げた。


「ゴホゴホ。【爆流掌握】?」


 レストはこのユニークスキルを使ってその日の内にマッドネスモンキーとマッドネスタートルを倒し、三体の暴獣討伐者となった。

 そして、イベント終了後までエリアボスも含め、発見されているボスモンスターを狩り尽くした。


かえたういいこれたのしいぃぃいっ!!」


 オマケに、とある奇行を見ていた運営たちは、揃って頭を抱えた。


「主任…空、飛んでますね…」

「もはやミサイルじゃねぇか!!」

「ヤバイ。こいつ最高だ。ふひひひ、腹痛い。笑い死ぬ」

「…社長。見る暇があるなら、仕事してください」


『ステータス』

名前:レスト

種族:ハーフリング

レベル:38

アビリティ(+0)

HP:125/5(+120) MP:355/235(+120)

筋力:6(+12) 体力:1(+12)

魔力:1(+12) 耐久:6(+12)

敏捷:23(+16) 器用:35(+16)

スキル(+0)

【採集】【調合Ⅲ】【使役術Ⅰ】【投擲術】【隠密】【料理Ⅰ】【裁縫Ⅰ】【大工Ⅰ】【鍛治Ⅲ】【錬金Ⅲ】【万物の創造者】【気配察知】【視線察知】【調合の心得】【調合の秘法】【爆流掌握】【爆殺強化Ⅱ】【爆撃強化Ⅱ】【通常攻撃強化Ⅱ】【投擲攻撃強化Ⅱ】【大物喰らいジャイアントキリング】【鍛治の心得】【鍛治の秘法】【錬金の心得】【錬金の秘法】【テロリスト】【採取】【採掘】【伐採】【釣り】【罠設置:爆弾】【罠操作:起爆】【MP回復速度上昇Ⅰ】【自爆の宿命】

装備

頭:【旅人のゴーグル付き帽子】

体:【旅人のコート】

右手:【レザーグローブ】

左手:【レザーグローブ】

足:【旅人のズボン】

靴:【旅人のブーツ】

装飾:【旅人の鞄】【レッグホルダー】【レッグホルダー】


────────────────────


本来と異なる点。

テントを張った場所が始まりの街の近くで、始まりの街に向かったことで逃げられる。

装備の指輪がレッグホルダーに変更。

ボスモンスターには自爆が標準攻撃。

討伐報酬が違う。

爆裂玉は通常モンスターのみ対象。

古代の王城跡地の発見ならず。

生命樹の大精霊と邂逅しない。

一部のスキルが違う。

一人とは言え、討伐数の違いでレベルの差が生まれた。

ソロで活動中。

戦闘技術を磨いてない(ある意味磨いている)。

濃縮炸裂薬の作る腕は、こっちの方が上。

秘薬も含め、大量の濃縮炸裂薬が生まれた。

有人飛行成功?


書きたかった内容は全部書けたかな?

書き残しがあったら、追加するかもしれませんが。

いつ書くか決めてなかったけど、書けて楽しかったです。

レストが予想外の挙動して、オマケが生まれたけど…

そこは置いといて、勇者がいない世界のレストは、『爆弾使い』ではなく『自爆使い』です。

拘束(自爆する可能性大)して倒すか、状態異常(回復手段が多数)で倒すか、一撃必殺(装備が最硬)で倒すか、落下ダメージ(有人飛行に成功したらしいよ?)で倒すか、自傷ダメージ(自爆しても気にしない=無理な受け身をしない)で倒すしかありません。

近接は自爆で巻き込み、遠距離は投爆と…がありますからね。

あれ…これ、倒せる?

まぁ、いいや。


次回の内容は、第2回目のイベントがメインです。

そこで、この世界線のレストがしている戦闘方法が明らかに!?

これからも楽しんでいってください。


あっ、だいぶ先の予定です。

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