第100話 暴走①
背後のマーリンが松明で照らしながら、崩落した帰り道を爆破して進んでいたレストは、やっとの思いで地上へ帰還するとアリスがいた。
しかし、その雰囲気はトラウマを刺激する怒気だった。
理由不明ではあったが、自身が関わっていると瞬時に悟っていたレストは、生存本能で土下座謝罪を決める。
何の感情もこもってない目と、いつも以上の無表情に、事細かに何が起きたかを淡々と語り続ける内容(縮んだオオテ鉱山の写真有り)。
そして何よりも救出劇の話の後にあった、周りの人に迷惑を掛けないという、人としての大事な常識の話をされた時には、罪悪感で苛まれた。
アリスの説教が終わった頃には夜となり、レストは近くで観戦していたプレイヤーたちに謝罪した。
「周囲のことを考えてませんでした。以後は、こういうことがないように気を付けます。本当に、申し訳ありませんでした」
もちろん土下座で。
それに対するプレイヤーたちは、
「もう、しなかったらいいわ」
「そうだな。ちょっと驚いたが、気にするほどのことじゃねぇな。良い経験になったし」
「俺も問題ない。だが、あんまり姉に迷惑掛けるなよ」
「お姉さんとは仲良くするなら、私は許すよ?」
など、人が好い言葉を返す。
レストはさらに申し訳ない気持ちとなった。
(どうしよう…何かお詫びした方がいいだろうけど…)
頭を上げて正座した状態のレストが考える。
自作のアイテムは性能があれ過ぎるから渡せない。
なら、今回入手したアイテムを渡せば良いのでは、と閃いた。
そこで、廃坑や坑道で得た採掘物、モンスターのドロップ品を全部取り出す。
「「「おぉーーーーーお!!」」」
「あっ、オオテ鉱山にいるということは、採掘やドロップ品目当てで来たんですよね?そのお詫びとして、入手したアイテムを代わりに渡しますので、欲しいものを選んでください」
「「「「「………」」」」」
「種類毎に分けているので、どうぞ。品質や量は相談になりますが…」
一部のプレイヤーたちが、アイテムの山が幾つも出来上がる光景に、ユニークスキルの存在証明の歓声を上げて盛り上がる。
そこに届いたレストの言葉で、歓声を上げていたプレイヤーたち以外も固まり、顔を見合わせた。
誰も微動だにしない静寂で、アリスは唐突な行動をしたレストのフォローをする。
「…全員で53人。崩落に巻き込まれた人は補填して、救助を手伝った人にも報酬を渡す。全員に渡すお詫びは全て揃えて、それぞれに追加分を渡す形にした方がいい」
「なるほど」
アリスの意見に納得したレストは一瞬で片付け、高品質で53個あるアイテムの山を作る。
途中でプレイヤーたちの希望を聞き、多い過ぎてアリスから修正が入ったりしたが、無事にお詫びを選び終えた。
お詫びとして、高品質のアイテムが合計として30個。
救助を手伝った人に、廃坑の下層で取れる最高品質の採掘物を1個と、高品質のアイテムを5個。
崩落に巻き込まれた人に、廃坑の下層で取れる最高品質の採掘物を2個と、高品質のアイテムを10個、金鉱石か銀鉱石のどっちか1個。
少なくしても量が多いのは、レストの反省の気持ちだ。
それを一人ずつ謝りながら渡した。
だが、ここで問題が発生する。
「あ、あぁ、アリスの分がない!?どうしよう!!」
「…別にいらない」
「いや、さすがに悪いし!!」
アリスから言われた人数は、自分を除けた人数だったのだ。
レストが【宝物庫】を見て、必死にアイテムを見繕っていると、
「見て、燃えてるわ!!」
さらに、ここでさらなる問題が発生する。
まだ遠くにあるが、山の反対側から煙を上げて迫り寄る炎の存在だ。
プレイヤーたちは始めは消火活動をしようと考えたが、時間が経つほど全貌が見え始めた炎に、やむ得ず撤退を選択する。
レストもアリスもプレイヤーたちも、それどころかモンスターも山を転げ落ちるように逃げた。
「すまん、助かった!」
道中で負傷した者にライフポーションを掛け、転んで気絶した者を揺すって起こし、モンスターたちを蹴り倒す。
最後尾のレストは【夜目】が使えない山で、【音響察知】を使って周囲の把握し、【音源察知】と【気配察知】を使ってプレイヤーやモンスターの捕捉して進んでいた。
だが、その歩みは遅い。
(何か、忘れていることがあるような…)
大事なことを忘れている気がするレストは、はっきりとしない不快感に、思い出そうと考え込んで遅くなっているのだ。
すると、右寄りの正面から白い光が見える。
「…レスト!」
白い光は光源の代わりとして、【退魔之剣】で剣に纏わせた聖なる光だ。
先に下りたアリスが名前を連呼して、自身を探していることに驚いたレストは苦笑する。
そして、「アリス~!」と叫びながら向かった。
「…いた」
「ごめんね~。心配掛けて」
頭を掻きながら謝るレストに、アリスは心底不思議そうな声を上げる。
「……心配?」
「えっーと…」
「…レストならこのぐらい、どうとでもなる。つまり…心配無用?」
「アリスからの扱いが日に日に悪化している気が…」
扱いが悪くなっている改め、容赦がなくなった信頼とも呼べるアリスの反応。
レストは信頼されているのは分かるが、せめて素振りだけでもして欲しいと思ってしまう。
今まで出来事で自業自得だと分かっていてもだ。
隣で項垂れながら下りるレストを、一瞬だけ見たアリスはぽつりと本音を漏らす。
「…これぐらいでレストを倒せるなら、誰も苦労しない」
「……誉め言葉なのに全然嬉しくないんだけど…それで、何故ここに?」
「…一向に下りてこないレストを迎えに来た」
「すみませんでした」
ジト目を向けられたレストは、反射的に謝る。
「…ここで何をしているの?素材集め?」
「アリスがこっちをどういう風に見てるか、分かったよ…」
再び項垂れるレスト。
アリスは木の上から襲ってきたモンスターの“山猫”を瞬殺する。
「…ならなに?」
「何か忘れていることがありそうで、それを思い出そうとしてた」
アリスも何か心当たりがあるのかを考え始め、すぐにして気づく。
「…あっ」
「どうした、アリス?」
「…レスト出てくる時、もう一人居なかった?」
「……あっ、それだ!!」
レストはマーリンの存在を思い出した。
アリスの説教、お詫び品選びがあり、意識の外に追いやられていたのである。
「あれ…そういえば、マーリンっていた?」
そして、レストはマーリンがさっきも一緒に居なかったことに気づく。
記憶を辿ってみるが最後に見たのは、アリスに説教される前。
それ以降に見た記憶はない。
「まぁ、大丈夫か。あとで連絡しようかな」
「…そう」
悩みがなくなってスッキリしたレストの一言に、アリスもこの状況下だったので納得した。
二人はモンスターを倒しながら獣道を下り、大樹が途切れた少し先の所で止まる。
レストも他のプレイヤーたちと同じように燃えるオオテ鉱山を見上げ、思ったことを言う。
「森林火災ってニュースとかで知ってたけど、実際に起きると、対処とか何をどうすれば良いか、分からないね」
「……だから、専門の消防士がいる」
「なるほど」
同じく見上げていたアリスのもっともな意見に、レストは苦笑した。
「でもさ、ゲームなら水魔法とかで消すなんて出来そうじゃない?」
「…出来ないことはない。でも、FMGで水魔法を使う人は殆どいないから無理」
「あー、居ても人数が足りないパターンか…」
これはレストですら知っているFMGのセオリーなのだが、水魔法はとにかく不遇だ。
使い勝手が悪いとも言える。
射程では風魔法に及ばない。
利便性は土魔法に及ばない。
威力は火魔法に及ばない。
正確には、水魔法の射程は一番悪い土魔法より増し、利便性は無いに等しい風魔法より良く、威力に関しては最下位だが。
こういう理由もあって持っている人すら、濡れるが服の汚れを落とす【洗浄】、水を綺麗にする【浄水】、空気中の水気を集める【水滴】という、あったら便利な魔法しか持ってない。
火消しに有効となる攻撃魔法を持っているプレイヤーは殆どいないので、自然に鎮火するのを待つしかないのだ。
それを再確認したレストは、燃えるオオテ鉱山をなんとなく見つめた。
すると、またもや問題が発生する。
────────────────────
長くなったので次回。
というか、書いた分で6600文字なんて初めて行った…
なので、半分にしました。
あと、100話に到達しましたね。
読者の皆様、ありがとうございます。これからも頑張ります。
記念も書かねば(使命感)!
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