第88話 主人公との組み合わせは危険

 何で泣いたのか、あの現象は何だったのか、左手の紋章は何なのか。

 それをシャーロットから聞こうにも泣き疲れて眠ってしまい、結局の所は何も分からなかった。


 なので、まずは報酬の話をした。

 ベアトリスは魔力結晶などを買い戻す約束もしたという事で、現在お金を払う余裕が無く、二人の報酬も別の物を用意しないといけない。

 そこで、二人の魔力結晶と光の石を担保とし、後日払う別の報酬と交換するという形で話がまとまった。


 それから、レストが精霊界に導かれる縁の指輪を入手した状況を、アリスが捕捉や予測を立てながら説明した後。

 普通に話せるようになったアリスも含め三人で雑談しながらティーパーティーをした。

 ちなみにだが、話した内容で印象的だったのはベアトリスが言った、レストのネタ枠プレイヤーの地位確立と新たな二つ名にシスコン、アリスのとあるファンサイトの会員が2倍に増えた事だろう。

 ベアトリス個人は、精霊界でのプレイヤーキル事件が興味深かったようだが。


 そんなこんながあって、ケーキスタンドの最上部にあったフルーツケーキを食べ終わった頃。


「そうだ…終わる前に話しておきたいことがあるのだけど。いいかしら?」


 アホ毛が生えた黄色の短髪と背中にほんのり虹色の光沢がある透明な羽を持ち、黄色のワンピースを着た幼女──シャーロットを。

 まるで寝ている我が子へ母親がそうするかのように正面から抱き締め、優しく頭を撫でていたベアトリスが聞いてくる。

 とても大切にしている気持ちが伝わる光景に、和んでいた二人は頷いた。


「本来なら最初に言うべきだったのだけど、実は私ね。迷い妖精の道標という、検証も含めた情報屋のトップをしているの」

「…なるほど。私たちに渡した報酬が多い理由も分かった」

「えっ、どいうこと!?」


 ベアトリスの発言に、納得した様子を見せるアリス。

 よく分からないレストは腕を組んで考え始め、初心者だということを思い出したアリスはほぼ答えのヒントを出す。


「…ヒント。情報屋は情報を売る商売」

「情報を売る……あっ、分かった。精霊界への行き方の情報を売る代金も、含まれているということ?」

「正解。正確にはそれプラスで、個人的な分や口止め料、初回取引ということで割増した分も入った報酬だけど」


 情報屋の段階で気付きそうなのに分かってないレストを見て、本当に初心者なのね、と思ったベアトリスが頷いて答えた。

 そして二人が了承した後、ベアトリスが咳払いをする。


「ゴホンッ。それで話しておきたいことっていうのは、情報の売買についてと…勧誘。あと、この話とは別件のことよ」

「情報の売買か」

「…勧誘」


 それぞれが別の部分に反応する。

 ベアトリスはパーティ申請をして、操作画面を待機させた。


「まずは情報の売買についてだけど、パーティの共有機能を使って説明するわね」


 パーティ申請を受諾した二人は頷く。


「情報屋があるのは、北の大通りから離れたこの場所ね。普通に探しても大きな看板で迷い妖精の道標って、書いてあるから簡単に分かると思うわ」


 マップの共有機能で示された場所に、自身のマップにも記す二人。

 それを確認したベアトリスは続ける。


「それで買う際の原則として、基本的に現金で情報の交換をするわ。ローンでも一括でもあり…あと、他のプレイヤーに買った情報は漏らさないこと。と、嘘だった情報でも払い戻しがないこと」

「…払わなかったり、漏らして情報を拡散させた場合は?」

「そうね…場合によって、ブラックリストへの登録で、情報を売らなくなるかしら。あと…他の情報屋にそのプレイヤーの情報を売るとかね」

「…なるほど」

「……」


 アリスは普通に返し、レストは微笑んでいるのに怖いベアトリスから視線を外す。


「次に売る際の原則だけど…新しい情報なら買い取るわ。値段は情報次第だけどね。あと、売り始めて一定期間が経ったら専用のサイトに載せて、一般公開するわ」

「…それ、情報の真偽と、情報を売るのは検証が終えてから?」

「真偽は証拠があれば、有力な情報として高く買い取ってすぐ売るわ。でも、それ以外の情報も検証が出来るやつならして売り出すけど。なるべく、すぐに売り出すようにしているわ」


 アリスが質問をする中、興味があった内容だったので真剣な様子で聞くレスト。

 情報屋にない情報なら買い取ってもらえ、証拠があれば値段は高くなるという事だ。

 例え証拠が無くても、情報を買うとも言っている。

 そこで、


「ベアトリスさん。真偽って、その人が信用できれば、情報の価値が高くなりますか?」


 真偽が分からない情報でも、そのプレイヤーが信用出来るなら、情報を高く売ることができるか聞いた。

 それに対してベアトリスはシャーロットを撫でながら少し考えた後、答える。


「人で判断するのは危ないから、情報の価値はそのまま…だけど後に真と判断され、より売れたら追加報酬で渡す形になると思うわね。理想としては」

「分かりました」


 聞きたいことを知れたレストは頷き、その隣でアリスが内心ヒヤヒヤしている。

 何を隠そうレストは、どうしてこうなったというレベルで、頭のおかしな情報を持っているのだ。

 アリスが心配するのも無理は無い。

 ベアトリスの撫でていた手が止まり、ギリギリで気付いて良かったと言った表情となる。


「言い忘れていたけど、精霊界の行き方に関する情報提供者の名前はどうする?」

「…レストで」

「匿名希望で…やっぱアリスで」


 容赦なく相手を指名したアリスに、首をそちらに向けてレストも笑顔で応戦する。

 理路整然としたアリスが説得をするが、頑なにレストは認めず功績を押し付けようとした。

 結果は、


「なら、情報提供者を二人にすれば解決ね…うん?それじゃあインパクトが足りないわね…勇者とシスコンはどうかしら?というか、そっちの方が売れそうね」

「…あの、勇者はちょっと」

「名前より勇者の方が知名度があるから無理ね」

「シスコンは勘弁してください」

「なら、拐われた弟ね」

「また新しいのが登場した!?」


 ベアトリスが己の権限を使い、情報提供者を決定した。

 その後の勧誘は、「…過去に色々あったので」という闇を感じされる言葉と、「今は自由にやりたいですね」という自由奔放な言葉で断った。

 なんとなくそれが予想できていたベアトリスは勧誘を潔く諦めた。

 そして、シャーロットを一撫でしたベアトリスが話し始める。


「今の話とは別件。というより、貴女たちの意見を聞きたいことなのだけど…」

「それって、もしかしてシャーロットちゃんの事ですか?」

「…えぇ、そうよ」


 言い辛そうなベアトリスを見て、変な所で鋭さを発揮するレスト。


「…そこまで親しくない私たちに話さなくてもいい、と思う」

「私もそう思うわ」


 言外に独占できる情報をわざわざ言わなくてもいいとアリスが伝える。

 それに頷いて答えるベアトリスだが、思いふけるように机上の照明を見詰めて話を続けた。


「今になって思えば、魔力結晶について教えてもらった時は分岐点だったような気がするのよ。私とシャーロットの関係は。だから、二人には感謝しているのよ」


 まるで何かを確信している口調と、安堵しているかのようなシャーロットに向ける目。

 なのに、歪ませた顔。

 そんな表情を浮かべるベアトリスが言う内容に、二人は何を言いたいか分からなかった。

 それを気にした様子が無いベアトリスはこれ以上何も言わず、本題へと入る。


「最初に【召喚術】を獲得したプレイヤーが持っている使い魔の召喚陣についてよ」

「…確か、精霊の森で使うことで、低確率で精霊が呼び出せるようになるって、話があったような」


 記憶を辿って発言するアリスに、真剣な表情を浮かべたベアトリスは頷く。


「その話を広めたのが私だけど、重要なのはそこではなくて。私が言いたいのは、ごく稀に使い魔として召喚される存在の中に、通常とは比較にならないほど強力な個体がいることよ」

「…まさか!?」

「シャーロットちゃんのことじゃぁ…」

「そうよ。迷い妖精の道標で同じ精霊のサモナーと比べたけど、全然使い魔として性能が桁違いに違ったわ。それどころか、他の使い魔ともね」


 戦慄する二人を尻目に、ベアトリスは事実を淡々と告げた。

 それの内容ですぐに何かを考えていたアリスは、あることに気付く。


「…不遇扱いされているサモナーの救済処置?」

「やっぱりそうなるわよね」

「…という事はテイマーも」

「実例は見付かってないけど、あり得るわ」


 FMGでは【使役術】で常に従魔を連れているプレイヤーをテイマー、【召喚術】で限定的に使い魔を呼び出すプレイヤーをサモナーと呼んでいる。

 そんな両者とも従魔と使い魔を得た段階で、あるデメリットを発揮される。

 それが獲得経験値が半減だ。

 これでただでさえ、レベルが上がりにくくなるのだが。

 それに加えて、獲得した経験値は貢献度で従魔や使い魔に分散されてよりレベルが上がらなくなるや、テイム・コネクトの成功率が低いというのもある。

 この仕様の結果、テイマーとサモナーになる者は非常に少ない。

 ちなみにだが、より少ないのは従魔の食費が必要となるテイマーの方だったりする。


「…レストもそう思う」

「えっ、あっうん」


 この時、不遇扱いされているのに、ペット欲しさに負けてテイマーとなったレストは、その話を他人事のように聞いていた。

 レストの中で、生産欲求と並び存在するペットを愛でたい欲求は、強くなりたい欲求より上なのだ。

 だから、デメリットは気にしてない。

 というか正直な話、生まれてくる従魔は愛でれるなら強さなんて気にしてない。

 二人が意見を交わし合う光景を見ながらレストは、


(どんな子が生まれるかな~。三毛猫いや柴犬。普通に栗鼠も良いな。いや、あえてスライムというのも良い。小鳥も良いし、蜂も良いな)


 ペット愛でたい欲求が再浮上して、思いを馳せているので、従魔の卵があることを言ってなかった。


 そしてベアトリスは、議論を終えた後に紅茶で一息吐いてから聞いた。 


「これで解散とする前に、精霊界に行ける指輪を見せて貰って良いかしら?」

「良いですよ」

「………レスト。ストップ!!」

「あっ…」

「………」

「…遅かった」


 アリスが止める間もなく、レストは秘密にしていた古き緣の指輪を見せてしまう。

 これで開き直ったレストは、ベアトリスに黄金の若木と生産系ユニークスキルの習得方法を情報提供する。

 その話を聞いたベアトリスは、


「シャーロット。私、凄い額の借金を背負った気がするわ。払えるかしら…」


 と話し掛けながら抱きついて、震える手でシャーロットの頭を撫でた。

 それを経験者が見守るように、優しい目をした勇者が居たらしい。


 後日談だが、『黄金の若木は見付からなかったけど、祠にて古き緣の指輪を入手できたわ。お金は少し待って下さい』とベアトリスからアリスにメールが届いた。

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