第86話 実は凄い子

 混沌と化したティーパーティーは意外にも、子供っぽい性格のシャーロットと名付けられた精霊によって終止符を打ったれた。

 正確には、ベアトリスが酒を飲み過ぎないように止めているシャーロットの習慣に、二人も巻き込まれたと言った感じだが。

 何があったかと言うと、ベアトリスが5本目の酒を飲み終わった直後、ポットに入った水でベアトリスを拘束し、空気でテーブルを持ち上げ、レストを空気で押し潰し、アリスを空気で動けなくさせたのだ。

 トッププレイヤー(装備がないレストは除外)に入るベアトリスの動きを完封し、近接タイプのアリスを一瞬とは動きを抑え込むという実力。

 街という攻撃スキルや魔法スキルを使えない中で行使された力。

 少なくともそれをされた二人は、シャーロットが妖精女王を意味するティターニアという種族名に恥じない潜在能力ポテンシャルを秘めている、と直に感じた。


 水を無理やり飲まされたベアトリスが正気に戻り、拘束が外された二人が謝罪し、全員で机などを元通りにした後。

 シャーロットの「ぐへ~!」というレストの物真似だけが響く、気まずい静寂の中で、三人分の紅茶を入れたベアトリスは、先程は何も無かったかのように話を切り出す。


「そう言えば、報酬が何か言って無かったわね。報酬は1万ゴールドと10万ゴールドぐらいで売れる、シャーロットがくれた光の石と魔力結晶よ」


 ベアトリスは机の上に、辺が曲線状でひし形の黄色の石、中央が光る透明な球体を、二人の前に各1つずつ置いた。

 それを見た二人は各自で違う反応を見せる。


「…これって…」

「10万G!?これが10万の魔力結晶か…実物は初めて見た」

「つくった~!」


 アリスは黄色の石である“光の石”を凝視し、レストとお互いに撫で合うという遊びをしていたシャーロットがどや顔で、透明な球体を机の上で持ち上げた。

 それを受け取ったレストを、アリスがチラッと見る。


「これを作ったのか、シャーロットは凄いな~」

「えっへん!」

「可愛いな~」


 可愛い笑みを浮かべ、腕を組んで仁王立ちするシャーロットの頭を、可愛さに負けたレストは優しく指で撫でる。


「貴方たち。この二つに心当たりがあるみたいだけど、どこで知ったの?」


 売り出したものを見たとは違う、初めて見たけど存在事態を知っているかのような二人の反応に、真剣な表情で問うベアトリス。

 それにお互いに視線を合わせた後、頷いて答える。


「ランタンの修理に必要な素材の素材です」

「…精霊界に似たようなものがあっ、ありました」

「つくった~!」


 レストの目では見えない速さで、机の上を走ったシャーロットがベアトリスの胸に飛び付く。

 ベアトリスは目尻を下げ、頭を撫でると、満面の笑みを浮かべた顔を上げた。

 チラッと見たアリスが紅茶を飲み、従魔の卵が早く生まれないかな、と愛でたい欲求が溢れるレストは思わずにいられなかった。


「精霊界にあったと言うことは、光の石は精霊由来のアイテムと見て良さそうね……似たようなものって?」

「……これ、レストが精霊界で見付けた火の石、水の石、風の石、土の石」


 シャーロットの頭を撫でながら考え事をしていたベアトリスに聞かれ、レストを強調して言ったアリスは、インベントリから4つのアイテムを取り出した。

 それぞれ、火の形をした赤色の“火の石”、雫の形をした青色の“水の石”、竜巻の形をした緑色の“風の石”、埴輪の形をした橙色の“土の石”が各1個ずつ。

 “光の石”に似た形状のそれを見て、精霊に関するアイテムだとベアトリスは確信した。


「シャーロットちゃんはそれ、気に入った?」

「うん!」


 火の石などに興味津々なシャーロットが遠巻きで見ていたので、レストも取り出して、


「じゃぁ、これらをあげちゃおうかな!!」


 シャーロットの近くに置いて、ベアトリスに譲渡した。

 目をキラキラさせてシャーロットは持ち上げ、何処かで聞いた事がある声を上げる。


「とったどぉ~!」

「……何かごめんなさいね。催促したみたいになった感じになって…この代金は1万Gで良い?」

「いえ、さすがに報酬として光の石と魔力結晶は過多なので、これぐらい気にしないでください。それにしたくてしているので、この姿を見れただけで満足です」

「報酬の件は気にしないくて良いのだけど…そう言うことなら、ありがたく貰うわね」


 親戚の叔父さんみたいになっているレストに、母親みたいになっているベアトリスが恥ずかしそうに感謝した。

 そしてベアトリスは、他の持ち上げては同じことを繰り返すシャーロットに促す。


「こら、シャーロットありがとうは?」

「がと~ぅ!」


 というか、普通にお母さんだ。

 あと、何故か感謝の印として、頭に乗られたレストはなでなでされていた。

 それに対して、何故かベアトリスは視線を逸らした。

 可愛さに悶えそうになるレストを見て、何かを考えていたアリスが突如を思い付く。


「…そうだ!!私のもあげる」


 レストの近くに置いて、譲渡するアリスは期待した目をシャーロットに向けた。

 私の所にも来て、とその目は雄弁に語っている。

 実はレストの所へばっかりに行って、羨ましかったのだ。

 そんな熱い眼差しを貰ったシャーロットはどうしたかと言うと、


「……なんで…」

「えっーと…」

「やっぱり、まだ無理みたいね」


 アリスとは反対側にあるレストの肩に移り、身を隠した。

 それに絶望した声の上げるアリスに、どう反応すればいいか分からないレストと、訳知り顔でベアトリスは頬を掻く。

 救いを求めるような眼差しを送られるベアトリスが、気まずそうに重要な事を伝えた。


「その…シャーロットはどうも人族が苦手みたいで、馴れるで近付かないのよ」

「……そんな…」


 あの時Gとは違う絶望に打ちひしがれるアリスに、何かを思い出したレストも気まずそうに真実を伝える。


「実はねアリス。二回目に一人で精霊界へ行った時、精霊が居なくなった時とは違って、アリスの所に向かうまで精霊たちが周囲に集まって来たんだよね。だから、もしかしたら精霊族は人族が苦手なのかもしれない」

「………」


 アリスは一縷の望みを賭けて、レストの首越しに顔を覗かせたシャーロットへ視線を向けるが、すぐに顔を隠した。

 この後、落ち込むアリスに少し離れた所でシャーロットの「がとぅ」という感謝の言葉と、ベアトリスから人族でも仲良くなった実例を教えられたお陰で、アリスはどうにか元通りにまで回復した。

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