第85話 ごめんなさい。何か混沌と化した
木へ激突した時に接触した腕の動作で、自分から頭を打った判定され、サービス開始でFMGの初プレイヤーキル?という快挙が成し遂げられた。
しかし、初プレイヤーキルされたレストは連絡を取るが、
「アリス様。始まりの街まで来てもらえないでしょうか」
『……知らない。一人で来て』
と、間の悪さで絶妙な勘違いをされたアリスから断られる。
今日はいじり過ぎた、と微妙にずれた答えを考えたレストは、2つ分のデスペナを受けた状態で命からがら精霊界へ戻ってきてから土下座謝罪をした。
この後二人は、いつも通り探索して何もないという非常に珍しい成果で、すぐに精霊界の探索が終わった。
で現在は、何をしているかというと。
「凄く高級店してる…あっ、お待たせしました」
「……急な参加を許していただき、ありがとうございます」
内装に頬を引きつったレストは、その場に呑まれてカチコチに緊張した様子で挨拶して。
レストのことを心配して飛び入り参加したアリスは、あらかじめ決めていた内容を言うが、人見知りを発揮してどんどん尻すぼみとなり、最後には声が消えた。
それに対して、微笑ましそうな視線を向け、黒い三角帽子に小さな妖精を乗せている魔女が、空いている席に手を向けて答える。
「こっちがお願いしたことだから、気にしなくていいわよ。さぁー座ったら、お二人さん?」
「し、失礼しまーす」
「…どーも」
暗い内装に、壁や机上が優しく照らされ、金色の額縁で飾られた絵画が複数ある、始まりの街で一番の高級店の個室。
左右三人ずつの六人掛けの席、その片側の中央に座る魔女に促された二人は、魔女とは反対側の一人分の席を開けて座る。
すると、帽子に乗っていた小さな妖精は二対の透明な羽で飛び、机に置かれたベルの持ち手を抱えた。
「シャーロットお願い」
「はーい!」
元気な可愛らしい声と、満面の笑顔で小さな妖精はベルを鳴らす。
それと同時にノックの音が聞こえ、魔女が入室を許可すると、ウェイターによって白い陶器のティーセットや皿、銀の食器類、ケーキスタンドが置かれた。
そして扉を閉める音と共に、無表情で食い入るように見つめていた少女と、青ざめた表情を浮かべる子供が、顔を見合わせた。
「…これ…料理人プレイヤー泣かせと呼ばれ、現在最高峰の素材を厳選して作られたと言われる、1ヶ月先まで予約で埋まってるアフタヌーンティーセット。それも…一番グレードが上の3万Gコース…」
「や、やっぱりこれ高いやつだよね!?」
羨望の眼差しを向け始めたアリスが饒舌に語り、それを聞いたレストが金欠だった過去と己の貧乏性でさらに青ざめる。
「安心していいわよ。これは私が頼みたくて頼んだものだから払わなくても…」
ウェイターが入れた紅茶の匂いを楽しみながら話す魔女は、二人が何かを言い出す前に紅茶を一口飲んで述べた。
「前より美味しくなってるわね。さぁー始めましょうか。精霊界のことについての話を…」
優美な動作で飲んだ魔女が二人に視線を向けた。
そして小さな妖精もベルに置いて帽子に座り、魔女と同じように視線を向ける。
「いえ、その前に割り勘するので正確な値段を教えてもらっていいですか?」
ここで天然を炸裂させるレストに、魔女の口元がぴくっと動く。
それに小声だけどアリスが言う。
「…レスト。これは多分接待だから、相手の面目を潰さない方がいいと思う」
「接待?」
「…そう。こうやって高い物を出したら、精霊界のこと以外にも話させやすくなるでしょ?多分、相手に高い物を返せない状態で送って、その代わりに別のことを融通してもらう手、って本であった」
「なるほど。あっ、なんか…すいません。ベアトリスさん。それで精霊界の話でしたよね」
警戒するような二人の反応に、頬をピクピクさせ、まるで自分が汚れているかのように感じた魔女。
その時、子供っぽい小さな妖精のシャーロットが肩に乗って、小さな手でポンポンと叩いてきたのが心に染みた。
○
改めて二人が何をしているかというと、精霊界へ行った後に会うとレストが約束していた、ベアトリス・ファンテーヌに精霊界への行き方を教えに来ていたのだ。
ここで本来ならレスト一人だったが、色々な爆弾を抱えに抱えているのを知っているアリスも、フォローの為に連絡を取って緊急参戦した。
その結果が魔女改めて、ベアトリスの心を砕いた。
「私ってさ…現実でもよく胡散臭いって言われるけど。シャーロット、そんなに胡散臭いか?…ウプッ…」
「くさーい?うぷ!」
「シャーロットまで…」
二人の目の前にはさっきまで、金髪と碧眼と長耳に、アリスより背が高く、美形でスレンダーというザ・エルフの要素を揃え、仕事が出来る女性という感じのベアトリスだったが。
現在は机の空となった酒瓶に三角帽子を被せ、酒を片手に飲んだくれて、酩酊状態となっている。
そして、机の上で二対の透明な羽を持つフェアリーのような手のひらサイズの精霊“ティターニア”のシャーロットは、ベアトリスの真似をして遊んでいる。
「お得意様になると思って、一番良い所を用意して、一番良い物を用意したのにーー!!」
「のに~!」
さらに、プラシーボ効果か、それとも酔った時のリアリティーか、子供と思っていた相手に予想外のダメージを負ったのが原因か、口調が変わってことから分かる通りガチで酔っている。
満面の笑みで万歳して駆け回っているシャーロットにほっこりしそうだ。
「ど、ど、どうしようアリス。これ、謝った方がいいよね!!」
「…それはしまって、美味しい。元に戻るまで待ってそれから謝る。こっちも美味しい。いいね?」
オマケに、大量のライフポーションやマナポーションを出す暴走するレストに、慌てた人がいるから冷静になったアリスは、我慢できなかったのかケーキスタンドに乗った食べ物を食べている。
「次は一番高い酒を持ってこーーい!!」
「こーい!」
「なら、爆裂玉…改でどうだ!!」
「紅茶も美味しい…早くしまって。危ないから!!」
直接飲んでいた酒が空になったので振り回して注文するベアトリス。
満面の笑みで万歳しながら空をくるくると飛び始めたシャーロット。
さりげなくバージョンアップした爆裂玉を取り出したレスト。
一人だけ現実逃避しようと頑張っているが阻止されているアリス。
高級店とは思えないほど、賑やかで、混沌とした空間となった。
────────────────────
普通にベアトリスとシャーロットの初登場回を書くはずが、何か自分でも分からない混沌になった。
誰か助けてぇーー!!
まぁ、いいか。
結論。
シャーロットにほっこりする。
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